コラム「燃え尽き症候群」

*2008年08月17日のコラムです。

オリンピックの熱戦が続いていますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
 オリンピックも熱いですが、日本の夏も暑く連日猛暑が続いております。各地で最高気温を記録し、僕も夏バテ気味です。
 北島選手が2冠を達成し日本中に感動を与えましたが、反対に失意のまま北京を去る選手もいます。特に金メダルを期待されながら初戦敗退となり、敗者復活戦でもわずか34秒で一本負けを喫してしまった鈴木桂治選手の悔やしさはいかばかりでしょう。敗者復活戦で負けたあと、畳に両手をつきうなだれている姿は痛々しいものでした。鈴木選手にしてみますとどん底に落ちた気持ちだったでしょうが、僕はその姿に人間らしさを感じました。
 スポーツに限らず勝負事は必ず勝つ選手より負ける選手のほうが多くなります。最後まで勝つ選手はたったの1人、チーム競技なら1チームしかいません。それ以外の選手は全て敗者です。かつてボクシング世界チャンピオンになったボクサーが「2位も20位も同じ」と言ったのは名言です。鈴木選手のうなだれている姿からは「最後の」負けが感じられました。インタビューでも引退をうかがわせる発言がありましたから鈴木選手は今回が最後の競技になるかもしれません。
 柔道に限るなら、負けたときの姿で印象に残っているのは今回の代表にはなれませんでしたが、アテネ大会での井上康生選手です。試合時間終了のブザーがなったあと仰向けになったまま天井を見つめていた姿はとても印象に残っています。身体中から吹き出る汗をぬぐおうともせず数秒間天井を見つめていた表情には得体の知れない心残りのあるあきらめ感がありました。
 そうです。「満足感」でもなく「失意感」でもなく「あきらめ感」です。本人も受け入れている「あきらめ感」です。そしてその「あきらめ感」は必死の努力をした者にしか得られない感覚だと思います。アテネ大会後いろいろな挫折がありながら再度北京を目指した井上選手の姿にも心打たれるものがありました。結局、代表にはなれませんでしたが、テレビで解説している姿からは自分の現役時代に満足しているようすが伝わってきます。
 今回、オリンピックに関連するマスコミ報道を見ていまして、ある共通するキーワードがあることに気がつきました。それは代表に選ばれたかどうかに関係なく世界の頂点を極めた経験を持つスポーツ選手は誰もが経験する感覚のようです。それは燃え尽き症候群です。
 燃え尽き症候群とは「大きな達成感を得たあとにやる気を失うこと」ですが、一度世界の頂点を極めた選手はそのあとにモチベーションが下がってしまうようです。それは今回2冠を達成した北島選手でさえアテネ後はこの感覚に陥ってしまったようですし、今回初戦敗退した鈴木選手も前回のアテネ大会後にやはり陥ったようでした。
 このようにみていきますと、一度世界の頂点を極めた人たちはその燃え尽き症候群をいかにして克服するか、が復活するかどうかの分かれ目になるようです。オリンピックでの結果はどうであれ、代表になった人たちはこの燃え尽き症候群を克服した人たちです。それだけでも尊敬に値するように思います。
 燃え尽き症候群と同じような経験を持つ人は多いのではないでしょうか? いわゆる「五月病」と似ています。受験競争を勝ち抜いたあと学生生活に目標を見つけられずやる気を失う「五月病」です。最近では学生だけでなく社会人にも現れているようです。就職競争に勝ち抜き社会人になったあとにやる気が失せたり、大きな仕事をやり遂げたあと虚脱感に襲われたり燃え尽き症候群は至るところで見られます。
 こういうときに自己啓発本ではいろいろな対応策を述べるのでしょうが、僕は基本的にそうした類いの本が好きではありませんし、僕には確たる対応策もわかりません。ただ、燃え尽き症候群を乗り越えたスポーツ選手たちの生き様を見ることは参考になると思います。もし現在、自分は燃え尽き症候群かな、と思っている方は頂点を極めたスポーツ選手のその後の生き様を辿ってみてはいかがでしょう。
 僕は評論家でも専門家でもありませんが、本や雑誌などで読んだスポーツ選手をみてきた中での僕なりの燃え尽き症候群を乗り越える提言はあります。それは燃え尽き症候群が治まるのを待つことです。北島選手も鈴木選手も頂点を極めたあと再度モチベーションをあげるのは容易ではないようでした。しかし、最終的には最高のモチベーションを取り戻し代表になっています。
 今、モチベーションが上がらず悩んでいる方。いつか必ず乗り越える日がやってきます。それまで焦らず待ちましょう。

 ところで…。
 燃え尽き症候群について考えていましたらあることに気がつきました。生きていると燃え尽き症候群にからめとられ悩むこともありますが、わざわざ燃え尽きることに悩まなくても人間は誰でも最後は葬祭場で燃え尽きる生き物でした。

 じゃ、また。

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