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独りで味噌

文化の日にこの上ない悲しい出来事があった。普段ならそれはすんでのところで暗転して目が覚め、いつもと変わらない日常となるはずだったが、暗転することもなく、時間は過ぎて行った。
母が倒れたのだ。その時点での診断は脳腫瘍だった。入院手続きを終えて家に帰り冷蔵庫の中に母が作ったほうじ茶が入ったガラス瓶をみたら、自然に涙があふれ止まらなくなり、大声で泣いた。きっと物心がついてから初めてであろう号泣をした。
明けて4日。病院から電話があった。
検査の結果母は脳腫瘍ではなかった。
しかし、脳出血であるとのことだった。
そして5日。病院で先生から話を聞いた。
血の固まりはやがて吸収されるだろうが、出血により、右半身の動きは悪くなりリハビリは長期化するであろうこと、計算能力と文字を書く能力に障害が残ることになるだろう。
コロナの関係で面会は禁止になっていて直接話をすることができないまま病院を出てふと一軒のラーメン屋があった。

「桑名」
どうやら味噌ラーメンが有名らしい。
母も味噌ラーメンがすきだった。
幸いランチのピークを過ぎていたのですんなり入店できた。
見ると、醤油、塩、豚骨もあった。
しかし、ここは味噌を注文。北海道のバターをトッピング。

先ずはそのまま。懐かしい。正にど直球の味噌味だ。昭和の築地か人形町で啜った、武骨だけど優しさにあふれた、五臓六腑にしみわたる。
チャーシューがまた程よい弾力が決して麺よりでしゃばらず、スープとしっかり馴染む。一気にフードファイターのように啜るのではなく、スープすらも噛むように啜りたくなる

ゆっくりとスープまで飲み干した時に思う。
書けない、計算ができない。
それがどうした。
読める、しゃべれる。
それで相手に意志は伝わる。

帰りにはご馳走様ではなく美味しかったと自然に言えました。

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