両拳

「喉乾いたなぁ......　じゃんけんしない？？」

この一言を誰かが呟けば、問答無用でじゃんけんが始まる。辞退などは決して許されない、一回限りの真剣勝負。参加者は見つめ合い全員の準備が済んでいるのを確認したのち、声を張り上げ全力で片手を振り下ろす。男同士の絶対に負けられない戦いのゴングがその空間内に鳴り響くのである。
勝負に勝った者はその喜びを噛み締めながら欲しい飲料の名称をコールし待機、負けた者はその悔しさを押し殺しながらコールされた飲料の名称を記憶し、財布を手にダッシュで玄関前の自販機まで駆け降りる。勝者を待たせてはいけない。人数分の飲料を購入したらすぐに階段を駆け上がり、オーダーミスのないように正確に飲料を各々に提供する。勝者は敗者の勇気と健闘を称え、感謝の思いを口にしながら飲料を体内に流し込む。
これにて男の真剣勝負タイムは幕を閉じ、またいつもの穏やかな日常へと戻っていくのである。

ちなみにこれはいくらでも応用が可能だ。
コンビニに入ったのなら「ちょっと小腹空かない？？」
ラーメン屋に来たのなら「替え玉食べたくない？？」
暑くなってきたら「アイス食べて休憩しない？？」
などなど...。普段の生活の中にいくらでも勝負の要素は転がっているし、そう思うことで何気ない日常が一気に刺激的な時間に早変わりする。

寮生活の一番の魅力って、安いとか寂しくないとかじゃなくて、いつでもじゃんけんができるところなんじゃないだろうか？？