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わたしが昔アイルランドでちょっとホラーだった話

先日、アイルランドのウイスキーを飲んでいて、突如、ある記憶がよみがえった。

アイルランドが好きで、5回ほど行った。
あれは、たしか、そのうちの2回目、20年くらい前のこと。

職を失ったし、家にもいたくなかった。

往復の飛行機と1泊目の宿だけ予約して、あとは現地で行く町も宿も決める。
各町にある公営のインフォメーションにいけば、宿の予約をしてくれる。便利。

その小さなホテルは、町の中心のような広場を抜けて、広い煉瓦の階段を上がって、右へ50メートルほど歩いた先にあった。

受付でチェックインする。
部屋は6階だというが、エレベーターがない。
スーツケースが重い。自分でいうのもなんやけど、何が入ってるん?鉄板か?
そんなこと言ってる場合じゃない。登らねば。
と、私が動く前に、受付のお兄ちゃんがやってきて、私のスーツケースを持って、階段を上がり始める。え!と思う間もない。慌てて後を追う。なんという速さだろう。重いスーツケースを持って、ほとんど駆けのぼっている。

お兄ちゃんは、6階の部屋の前にスーツケースを置くと、私の方を見ることもなく、さっと階段を下りていった。

部屋はシンプル。シングルベッドに、小さいシャワールームとトイレ。そして、年代物のブラウン管テレビ。

夜、寝る前にテレビをつけてみる。
チャンネルをまわして、ラジオのように周波数を合わせるタイプ。何回かゆっくりまわして、1番組だけ映ることがわかった。モノクロだけど。

20代くらいの日本人女性が、
ハンドバッグだけ持って、タクシーに乗る。
行き先は、森。
森に入ったら、道順を案内するという。
森に入り、しばらく進んだところで、
「ここです」という。
けれど、まわりには民家さえない。
タクシーを降りると女性は、
まっすぐ森へ入っていった。

翌日、女性は森の中で遺体でみつかった。
彼女は、なぜ、ひとり、
遠いアイルランドにやってきたのか?
なぜ、森のなかで亡くなったのか?
女性は何ものだったのか?
謎に包まれている。
(完)


え、終わり?
捜査はしないの?
なんちゅう雑な番組やねん。

しかし「日本人女性」かあ。年齢はたぶん私のが5~10くらい上だけど、アジア人は若くみえる。ヨーロッパ人には区別がつかないだろう。

こっちの人って、夜はテレビ観るしかないのよね。(偏見)

観てるよねえ・・ホテルの人も、この番組。
ほんで、「そういや、日本人ひとり、泊ってるな。大丈夫なんか?」て、なるんちゃうのん。

(ちょっと説明すると、観光オフシーズンのアイルランドの片田舎で、日本人がいるのは珍しかったのです。)

いやはや。シュール。

いや、私にとってはシュールやけど、、、
ホテル側にとっては、シュール超えて、ホラーよな。

<<あの日本人、大丈夫?>>

わーーーー・・・

翌日、チェックアウト時、受付カウンターには40~50代の女性がはいっていた。昨日のお兄ちゃんのお母さんかも。その人も、ものすごくふつうに、てきぱきとチェックアウト対応をしてくれた。

テレビ観てなかったのかな。よかった。
(ほっ)

でも、本当はわかってる。
女性スタッフは番組をみていたのだ。みていて、そのそぶりをみせなかった。

だって、アイルランドの人たちはそうだから。そぶりはみせないけれど、誰かが困ったなとなる前に、さっと荷物を運んで、さっと立ち去るのだ。そういう人たちなのだ。

アイルランドで、わたしが本当に助かったのは、荷物を運んでくれたことではなく(それも助かったけど)、放っておいてくれたことだったと思う。青白い顔で痩せぎす(今より10キロくらい痩せてた)。実際、あんまり大丈夫そうに見えなかったと思うのに。

もう20年も前のことだから、アイルランドも今は大分変わってるのかな。だけど、国民性というか、人柄は変わってないね、きっと。

昔の写真を発掘した。

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