ネルシーニョとの旅を振り返る 2019年柏レイソルシーズンレビュー
2019年も今日でもう終わりです。
おかげさまで柏レイソルは1年でJ1復帰を果たしました。僕にとって今年は、ネルシーニョとともに日本中を旅した1年でした。
僕はネルシーニョに心臓を捧げています。そして、今年のシーズン序盤にネルシーニョ監督について話した記事がありました。
シーズンが終わった今、当時の話を振り返ってみるとなかなか面白かったす。そこで今回は、一年のまとめとしてインタビュー部分をリメイクして無料公開するのと、シーズンレビューも兼ねてインタビュー内容の答え合わせを行いたいと思います。今年も1年間、ありがとうございました。
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・インタビュー日:2019/5/21
― そもそも、円子さんが柏レイソルを応援し始めたのはネルシーニョが監督に就任するより前のことです。サポになった理由はネルシーニョとは関係ないんですよね。まずは柏サポになったきっかけを教えてください。
(円子) 僕がサッカーを見るようになったのは、日本代表のフランスW杯予選(1997年)がきっかけでした。予選の頃はテレビで見ていて、初めてスタジアムで見たサッカーの試合は、1998年に横国(現・日産スタジアム)で行われたキリンカップの日本-チェコ戦でした。代表戦をテレビで見ているとゴール裏で熱く応援しているサポーターの姿が映りますよね。ああいう熱いサポーターになりたいと思っていて・・・。
― 意外ですね(笑)
(円子) その当時は「熱いサポーターというものは、試合前日に徹夜で並んで最前列の席に行くものだ」とテレビで見た情報を信じていて、初めてのサッカーでしたが実際に徹夜で並びました。
― いきなり振り切れてますね。
(円子) 徹夜の成果もあって、早い時間に入場できて最前列の席に行けました。でも最前列なのに試合がさっぱり見えない。なんじゃこりゃと。そこでどうしてあんなに見えなかったのかと色んな人に相談したら、陸上競技場だからではと言われました。ならば今度サッカーを見るときは、サッカー専用スタジアムで見たいなと思ってJリーグのチームを探し始めました。
―なるほど。
(円子) それで東京から近い専スタで、当時J1のチームということで、柏レイソルにたどり着きました。最初の頃は専スタを求めて、清水エスパルスやベガルタ仙台もよく見に行っていました。今も僕にとってのセカンドチームは仙台だと思っています。過去には五分五分ぐらいの割合で柏と仙台を見ていたこともありました。
ただ、仙台は気軽に行けるような距離でなかったので、柏の試合に行くことが自然と多くなりました。
※専スタを求めて
「陸上競技場じゃなくて、専スタで見てみるといいよ」というアドバイスですが、これは確か出来たばかりの2ちゃんねるで聞いたと記憶しています。それが2000年春の出来事で、でも実際に初めて日立台に行ったのは2001年の秋(名古屋戦)でした。新規のお客さんがスタジアムにたどり着くまでには、こんなにも高いハードルがあるのです。みなさん、にわかファンを大切にしましょう。
―そこからどうして応援するようになったんですか。
(円子) なぜかと言われると明確な理由はないです。通っていたから惰性でいつの間にか、という感じですかね。でも自分が柏を応援していることを自覚したきっかけは、2003年のFC東京戦でした。
柏が2点リードしていたのですが、このシーズンで退団が決まっていたアマラオがハットトリックをして2-3で柏が逆転負けした試合でした。
この当時、ホームスタジアムを日立台から柏の葉に移転するという話が持ち上がっていて、FC東京サポもたくさん移転反対の署名をしてくれたんですね。
でも、アマラオが3点目を決めたらFC東京サポがみんなスタンドを越えてピッチに乱入してきちゃって。僕としては「こんなことされたら移転の口実になるだろ。ふざけんな。」ってめっちゃ怒りました(笑)
そのことを後から振り返った時に、「こんなに怒るってことは、自分はこのクラブを結構応援しているんじゃないか」と気づきました。
―円子さんが監督に注目するようになったのも柏のサッカーを見ていたのがきっかけでしょうか。
(円子) それも、日本代表ですね。ジーコがダメで、オシムが素晴らしかったことが大きかったです。
それまではサッカーに対して、いい選手を並べておけばどうにかなると思っていました。でも、ジーコの4年間を見ていると「監督がひどいとろくでもないことになる」とよくわかりました。
―確かその頃の柏の監督は、石崎さん(信弘・現藤枝MYFC監督)でしたよね。
(円子) ネルシーニョが来るまでは、正直そんなに悪い監督じゃないと思っていました。石崎さんの前任者と後任者があまりいい結果を残していなかったので。
今になって振り返ると、戦術の引き出しも少なく、試合中に困った状況になってもあまりいい手を打てない監督だったと思いますね。
※戦術の引き出しも少なく
自分ではここまで言ったかどうか定かではないのですが、インタビュアーのつじーは札幌サポなので、石崎監督に対するネガティブコメントを上手く引き出された感があります(笑)。自分としては石さんや岡山のいたあの頃は非常に良い思い出なのですが、でも人は思い出だけでは生きていけません。
一つの形をこだわってとりあえずチームとしての形は作り、それを継続していく監督でした。僕も当時は、チームの強化とはそういうものだと思っていました。
―名前が挙がったのでネルシーニョの話に移ります。まず途中就任の形で柏にやってきましたが、そのシーズンでは何か大きな変化を感じましたか。
(円子) 悪いとは思わなかったけど特別素晴らしいとも思いませんでしたね。元々の状態が悪かったので盛り返すのは難しかったのでしょう。
でも、守備が堅くなりました。点は取れなくなったけど。あっ、今(の柏)と同じだ。
※今の柏と同じ
インタビューは2019年5月21日に行われました。柏は当時14節までJ2リーグ戦を消化して、11得点7失点と、守備は堅いが点が取れないというチーム状況でした。当時の順位は6位。14試合もやって11点しか取れなかったなんて、1試合で13点取った最終節からは想像もつきませんね。
―(笑)それでは、ネルシーニョの監督としての良さとはどんなところでしょう?
(円子) 結果に対して執着するところ、そしてそのための最善の努力を常に考えているところですね。
―結果に対する執着ってどこで見るんですか?
(円子) 僕の持論に「ボールを拾わない監督はいい監督」というのがあります。
試合に負けてるとき、早くプレーを再開するためにボールを拾って選手に渡す監督っていますよね。でも監督の本来の仕事はそこではなく、指示を与えチームを指揮することです。自分の仕事ではないところにエネルギーを使うのは本質的ではないと思います。
特に第一期(2009~2014シーズン)のネルシーニョは、絶対ボールを拾わいませんでした。自分のところにボールが飛んできても、まるで汚いものかのように避けていたのが印象的です。絶対にボールを拾わないと決めていたんじゃないかと思うくらいです。
そこまで極端な姿勢は必要ないですが、チームが負けていたり苦しい状況のとき、指示も出さずにボールばかり拾っている監督は、本来なすべきことをしていないなと感じます。
―おー、そんな視点があるとは。
(円子) それと、審判に異議をあまり言いません。それをしたところで判定が変わる訳ではないし、やるべきことはそれじゃない。そんなエネルギーがあるなら、その時打つべき対策を考える方がよいはずです。
もちろん理屈としてはそうだけど、世の中の監督には試合中、判定に文句を言い続けている方が結構いますよね。
判定への異議というのは、自己完結してる話であって、勝負への執着や勝利に向けた努力ではないと思います。
―なるほど。
(円子) 彼は「プロフェッショナルである」ということをすごく大事にしています。自分の仕事の範囲で常に最善のことをしなくちゃいけない。余計なことに気を遣っちゃいけない。
以前チームマネジャーの方が、アウェイチームの要望を気軽に聞いてしまったら、ネルシーニョに怒られたことがあったそうです。「お前が考えることは自分のチームのことだ。自分のチームと敵のチームでバッティングすることを気軽に聞いちゃだめだろ」と。
―J1昇格初年度で、即リーグ優勝を果たしました。正直こんなことになると思いました?
(円子) あわよくばという気持ちはありましたが、直接対決のガンバ大阪戦に負けたので難しいかなと思っていました。ただ、終盤にガンバが失速したので追い上げて優勝できましたね。
―優勝したときの柏は、今までとどんな点で大きく違いがありましたか。
(円子) ラスト15分がとにかく強くなりました。走れるし、集中している。
試合の終盤になると動けない選手が出てきたり、どう試合を終わらせるか意思統一ができずにふわっとしているチームが結構あったりしますよね。
もちろん優勝争いしていたこともあるだろうけど、他のチームと比べて緩みが見えなかったです。仮に同点で終盤を迎えても、このチームなら勝ち越せるだろうという雰囲気を感じました。
―ネルシーニョを見ていて欠点に感じるところはどこですか?
(円子) ターンオーバーをしないので、現行の日程ではACLとリーグを並行して戦うのは難しかったです。その時点のベストメンバーをとにかくぶつけたい監督なので。ただ、今季のルヴァンカップは違いましたね。基本Bチームで戦っているし、本人もそう明言してます。
全力で臨むべき大会があればどんなに日程がきつくても、目の前の試合にベストメンバーを投入してしまうのがネルシーニョです。それでJ1昇格初年度以降、リーグタイトルが穫れなかったのかなと思います。
でも他のチームではACLは手を抜いて、リーグ戦にベストメンバーを集中させて優勝を目指す所もありますが、そんなの全然偉いとは思いませんね。リーグに注力したらこっちだっていつでも勝てるよと(笑)
―なるほど。
(円子) もう一つありました。基本的にベストメンバーを使いますが、ブラジル人は仮にコンディションがあまりよくなくても優遇して起用する傾向がありますね。これもある意味欠点かと思います。ネルシーニョ本人は否定していますが。
―よく「監督のサイクルは3~4年」みたいな話がありますよね。厳しい監督だと、選手が慣れてしまって以前ほど統制が利かなくなったり・・・。
(円子) それは海外のビッグクラブや強豪代表チームに当てはまる話だと思います。それらのチームは、選手が入れ替わらないステージにいます。チーム内のトップ選手が、他のチームに移籍しにくい、あるいは代表なら移らないので、選手の新陳代謝が起こりにくいです。
Jリーグの場合だと図抜けた選手は、海外も含めてより大きい規模や高いレベルのチームに移ったりして新陳代謝が起こるので、監督が仮に4年以上いたとしても、その間ずっと在籍している選手は多数派になりません。
だから見ている人が飽きてくることはあっても、選手が監督に慣れてしまうことはないと思います。
―ネルシーニョが柏を去ってから、今季戻ってくるまでに約4人の監督が柏を率いました。ネルシーニョのときと比べて、違いというのは顕著にあらわれるものなのでしょうか。
(円子) そうですね・・・。吉田(達磨)監督は、まずユース監督時代からこだわっていた4-1-4-1のシステムしか使わないんですね。そしてたいてい逆転負けします。
普通なにか悪いことがあったら、試合中なり次の試合前に修正してもいいのに、毎試合戦術は変わらない。いつ見ても同じ形でやられます。
今考えると、変えないというか、変えられなかったのではと思います。試合中、手は打たないけどオタオタしてる姿はよく見えたので。
とはいえ、僕はオシム監督は素晴らしかったと思うのですが、オシムも自分のやり方を変えないタイプです。でもオシムは、試合中に予想外の状況が起きても動じませんでした。
―ネルシーニョとオシムはそこが共通していたと。
(円子) オシムの方が勝負には執着していない感じがしましたね。やるべきことをやったら、後はなるようになれというか。ネルシーニョはとにかく勝ち負けに執着しているのがよく分かる監督でした。0-3で負けていても、勝負を投げずに攻撃の選手をどんどん入れて結果0-6で負けたこともありました。
勝つ可能性があるならそのために最大限チャレンジするのは当然で、0-3から0-6になったところで何が悪いんだというネルシーニョの姿勢はうかがえました。
―下平(隆宏)監督は、比較的好成績でしたが、どう評価されていますか?
(円子) まあ・・・普通ですね。スタメンを組んで相手にぶつけるところまでは、しっかりできる監督でした。チーム作りはできるので、それが好成績に繋がった気がします。
ただ彼も、試合中に相手の変化に全然対応できない人に見えましたね。勝負師としての能力は高くないかなと。だから、先制しても逆転負けをすることが多かったです。
もちろん経験を重ねることで能力が伸びる監督もいますが、3年半やって伸びなかったのでちょっと厳しそうです。
※下平監督
今年の横浜FCでの戦いは見事でした。特に終盤の試合運びでは、逆転負けをすることがほとんどなくなり、柏で見てた立場からすると「えっ何があったの?」と思わざるを得ません。サッカーに詳しい人に分析してほしいところです。ところで、監督本人もなぜかフィジカルを鍛えたのか、上半身がムキムキになっていたのは驚きました。それが何か良かったのですかね?
―加藤(望)監督は?
(円子) 変わったことをする監督ではなかったです。僕が監督だったとしたらこうするだろうなという采配をしてきました。素人と同じってことは、ダメってことかもしれません。
オーソドックスと言えるのかもしれませんが、いざ試合を見てみると出てくるチームがひどかったので、もしかすると練習に問題があったのではと思います。
―最後の数試合は、岩瀬(健)監督になりましたね。
(円子) 加藤監督時代の試合を見ただけでは、練習に問題があるのか、選手の質やコンディションの問題なのか正直分かりませんでした。
ただ、岩瀬監督になって急に規律がしっかりしたので、それまでの練習には問題があったのだろうと思いました。これは比較してみないとわからなかったことですね。
―そして、ネルシーニョが帰ってきました。その前に、彼は柏を離れてからヴィッセル神戸を率いていますよね。そのときの印象はありますか?
(円子) とにかく大変そうだなと。自分の思っている選手をそろえられないんだろうなという感じがしました。
ネルシーニョを見に神戸に行ったことがあるのですが、試合中ずっとDFの伊野波に「このポジションにいろ」って指示をネルシーニョが出していたんですね。
いくら前線にいい選手がいても、試合中最終ラインにそんなことをずっと指示しなくちゃいけない状況で勝てるわけないなと。
穴を塞ぐことに手一杯で生産的なことができなかったのではと思います。
―ネルシーニョが復帰しましたが、現状(おそらく目標である)自動昇格圏に入れていません(インタビュー当時6位)。どこか課題を感じますか?
(円子) 守備はまあ堅いですが、攻撃陣の駒がいないことですね。補強が必要というか、スタメンの入れ替えは必要だと思います。クリスティアーノを使っていると彼と心中するしかなくなるので。
―第一期の雰囲気が戻ってきた感じはしますか?
(円子) んー、ここ数試合見た感じではまだ第一期と比べるとぬるさを感じます。ネルシーニョが去った後の柏のカラーが悪い意味でまだ残っています。中心選手が、コンディションが十分でないのに試合に出ている感じがあります。
また、以前ネルシーニョが戦った9年前と比べて、J2での戦いがずっと難しくなりました。下位チームのレベルが底上げされたと思います。それで、どこ相手でも、どんな試合展開でも、無理して勝ちに行くというのが少なくなった感じがします。
例えば試合終盤に0-0であれば、昔なら勝つために無理にでも点を取りにいく采配をしていました。今季は、前回のJ2よりも慎重に星勘定をしているという印象があります。でも、今の結果だとその変化は間違いとは言えないのかもしれません。
(以上)
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5月の時点ではこのように話していました。ネルシーニョ(以下、ネル様と表記します)の特徴についてまとめると、以下のような感じです。
・勝負の結果に異様にこだわる
・就任当初、失点は減ったがしばらく点が取れなかった。そして今回もそうなっている
・試合には必ずベストメンバーを出す。育成や疲労回復のためメンバーを変えることはしない
・ブラジル人については、優遇して無理に試合で使うことがある
・ボールを拾わない
その後、今シーズンはどのように進んだのでしょうか?
ここから先は、柏レイソルの2019シーズンの戦いを僕なりに振り返っていきます。
選手に対して忖度しないので、お読みの際はご注意ください。厳しい表現の部分もあるため一応、途中から購読者限定の公開とさせていただきます。
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・第1期(第1-9節)
01. 〇2-1 A山口
02. 〇1-0 H町田
03. 〇1-0 A新潟
04. 〇1-0 A京都
05. ×0-1 H岡山
06. ×0-2 A東京V
07. 〇3-0 H長崎
08.△1-1 A琉球
09. △0-0 H栃木
2019年の柏レイソルは、開幕4連勝と順調なスタートを切りました。その後は勝ったり負けたりはありましたが、この時期は勝てなかった試合も内容的には大体圧倒しており、それほど心配はしていませんでした。
なお、僕が一番びっくりしたのは、ネル様が時々ボールを拾うようになっていたことです!遠くのボールをわざわざ拾いに行くことはしないのですが、自分のところにボールが飛んで来たら避けずに取るようになっていました。合理的に考えたらその方が良い(わざわざ避けるよりは数秒でも時間を無駄にせずにすむ)のですが、初めて見た時はちょっと寂しかったです。
・第2期(第10-18節)
10. △0-0 A金沢
11. △0-0 H横浜C
12. ×1-2 A鹿児島
13. 〇1-0 H徳島
14. △0-0 A水戸
15. △1-1 H大宮
16. 〇1-0 H岐阜
17. ×1-3 A愛媛
18. △1-1 A福岡
第10節の金沢戦から、11連勝が始まる前の第18節福岡戦までを第2期とします。この時期は一番苦しい時期でした。
この時期は3バックで戦っていました。金沢戦から急に切り替えたのですが、相手の柳下監督が「おい、3バックだぞ!」と気づいて、慌てて選手に指示を出していたのをよく覚えています(この人も出来る監督だと思います)。
そして、この時期は全然ゴールが入りませんでした。9試合でわずか6点です。
柏の今シーズンレビューの記事をいくつか読みました。大体が「3バックの時期は攻撃にかけられる人数が少なく、4バックに戻して内容が改善した」という感じで浅くまとめられています。でも、そんなのは僕でも見ていてわかります。当然、ネル様だってわかっていたはずです。わかっていながら、3バックにせざるを得ない事情があったのだと思いますが、その理由に触れている記事は見たことはありません。僕なりに理由は推測しているので、以下はそのことを書いていきます。
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