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幸せのカケラ⑨

≪国崎の章≫

『この間電話くれた?』
と、久々に会う絵里奈は喪服を着ていた。もちろん僕も喪服で、
共通の知人の帰天式に来ていた。
『うん、したよ。』
『かけ直そうかな、と思ったんだけど、
IT 弱者のアナタのことだから、スマホで間違えてタップしちゃったのかな、と思って。急用ならまたかけてくると思ったし。』
『超、超、IT 弱者の僕だけど、間違えてタップしたわけじゃない。
陽向がさ。離婚しても法友だろ、って言うから。
なんだかキミに電話したくなったんだ。』
『法友か。そうね、確かにね。私達、夫婦って言うより法友よね。
あ、今日、陽向も来るわよ』
『あ、そうなんだ。陽向も奈津美さんにはお世話になったからね。』
『陽向がこの世に生まれてくるために私達夫婦になったのよ。きっと。』
『陽向が僕達を選んだってこと?』
『そうよ。』
『そうなのかな』
『きっとそうよ。でも、私ね。最近よく考えるようになったの。
アナタのこと。』
『僕のこと?』
『そう。別れてからの方がよっぽど考えている。』
『ふうん。それで?』
『アナタに会わないでいると・・・あ、陽向、こっちよ。 』
陽向が走ってくる。
『久しぶり。父さんも母さんも。ってか三人でいるのが。』
『ある意味、全員法友だからな。』
『陽向。お母さんの子供に生まれてくれてありがとう。』
『え?あ、うん。俺も母さんの子供でよかったよ。ありがとう。』
そういう陽向を、絵里奈が抱きしめる。僕達はきっとどこからみても
幸せそうな家族に見えるだろう。空の上から春菜が見ていたら
また泣くだろうか。
奈津美さんの遺影が飾られたホールに入ると、受付で 記帳しようとして、
ふと横を見ると、陽向がびっくりしたように立ち尽くしている。
『陽向?』
『奈津美さんって・・・あんな顔だったっけ?』
『え?あぁ・・まぁそれなりにオバサンになってるというか・・?』
『なっちゃんだ・・・』
『え?』
『あれ、なっちゃんだよ!』


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