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Dr. ゴトー診療所

 Dr.コトー診療所が映画で戻ってくるらしい。美しい風景、魅力的な医師と看護師、素朴だが排他的な島民が織りなす人間模様を楽しみに毎回観てたから映画館で再会できることが嬉しい。しかし『北の国から』のじゅんの白髪を見ると、そら俺もトシとるわなぁと思える。

 さて私の郷里の五島列島も もちろん例外ではないが、離島での医療の問題点はなんといっても施設や 医師をはじめとする従事者が少ないことである。老人比率が高い過疎の集落では『なんでも科』の医師がいたりする。内科と(整形)外科は基本セットになるが、妊娠中のお母さんも出産以外のことについては『なんでも科』に相談に行くし、子供の予防接種では診療所中が大騒ぎになり、骨折したかもしれない中学生が先生に抱えられてやってくる。そこにジジイが最近どうもオシッコの出が悪いのだと訴えて、漁師の組合長が恥ずかしそうにAGAの相談に来たりもするのだ。ホント離島の診療所とは、何でも入ってるスペシャル五目そばのようなところだ。

 五島列島における全ての有人島に医師がいる訳などなく、無医村ならぬ無医島も多い。だから子供が急な発熱をしても、多くの場合自宅で治す。もちろん中にはそれによって危険なことになる場合も ごく稀にあるかもしれないが、基本的にはその逆で 少々のことでは病院になどかからない環境で育った島の子供は強い。そんなことを考えていると、少しの異変ですぐに医師に頼って異常を解消しようとする都会の人の考え方、また現代医療の体制には疑問符が付く。言い換えれば医療の充実や利便性が、人々の病気への耐性を奪っているとも思えるのである。

 島に住んでいた頃、街に存在する職業といえば、子供の私の印象としては漁師と公務員と僅かな軒数の小売店主しかいなかった。地域性なのか 宗教上の理由なのかはわからないが、四つ足の動物の肉は食卓にあがらなかったし、街に一軒だけあった肉屋には鶏肉と鯨肉しか置いてなかった。人は肉を食べなかったということだ。今はそんなことはないし、こんな話をしても笑われるかもしれない。
 貧しく、閉鎖的で海しか無い土地だ。そんな中で私の母は地域に唯一つある病院で入院患者の食事を作る仕事をしていた。

 あの映画の予告編を見ていると、海の景色が懐かしく思い出される。子供の頃にまみれた海の匂いがするようで懐かしく、なんだかジワッと涙が滲んでくる。

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