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心にコタエた歌 5

《僕たちの失敗》森田童子

 ドラマ『高校教師』の主題歌。真田広之さんと共に主役だった桜井幸子さんは、今どこにおられて何をされているんだろう? 私の理想を具現化した女性ともいえる彼女が大好きだった。

 森田童子さんのこの歌が最初に流行した時、私は中学生だった。その数年前から我が家はそれはそれはひっくり返っていた。なんとなれば父が会社の金を使い込んでクビになり、私たち家族は社宅を追い出された。父と母は離婚し、母と兄と私の3人は1年の間に3度も引っ越したから、苗字の変わった兄と私はその度に転校を余儀なくされた。それだけではない。母は家族を置いてパート先の若い男と逃げた挙句、自殺未遂までやらかしていたからだ。

 当時の私が感じていた 逃げ道のない漠然とした不安感は自分では制御できないから如何ともしがたかった。自分だけが取り残されて、周りには誰もいなくなるんじゃないか? といった気持ちがどこかにあったから、待ち合わせの時に一人で誰かを待ったりするのは苦手だったし、誰かと出かけるようなことがあった際に『ここで待ってて・・・』と言われるような状況は嫌だった。そのまま帰って来ないのでは?という考えがふと頭をかすめるからだ。

 そんな暗くて貧しい暮らしの中、森田童子さんのなんとも生命感の無い、か細くも美しい歌声が私の耳に飛び込んできた。それまで歌を聴いて泣くことなどなかった私だが、この歌を聴いた時には涙が頬をつたった。理由はわからない。

 〽︎・・・
   ダメになった僕を見て
   君もビックリしただろう
   あの子はまだ元気かい?
   昔の話だよね・・・

 この歌で知ったチャーリー・パーカーを聴いてみたのだが、子供の私にはわかるはずもなかった。

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