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O君

男のくせにピアノだなんて
カッコ良くって憧れた。
一度お前の家で『弾いてくれよ』と頼んで
“ならず者=Desperado ” をやったよな。
思い出すだけで恥ずかしいけど
下手クソな俺の歌の伴奏をしてくれた。

小柄な体に真面目で真っ直ぐの目。 
絶対自分を曲げない男。人を信じる男。
俺も一度『セコいことをするな!』と
怒られて驚いたことを思い出す。

いつもお前は冷静だったけど
些細なことで俺があいつとケンカした時
目に涙を溜めて止めてくれたのはお前だった。
俺は驚き お前の気迫に拳を下ろした。

後で思えばあれは半分以上俺が悪かった。
若い暴走だってお前はわかってんだよな。
馬鹿な俺は意地を張ってただけだった。
あれがなかったら俺のひねくれた頭は
きっと壊れてたに違いない。

ひと足先に空へ旅立ったお前。
俺はあの時の礼を言えないまま
随分経ってしまってた。
いい加減な俺を笑ってくれよ。
こんな形でお前の近況を知るなんてな。

今、しみじみ悲しいんだよ。
悲しくって仕方ないんだよ。
お前が一人でどんな闘いをしてたんだろうって。
能天気な俺は 何も知らず。何もできず。

もう残った時間も多くはないし
たいしたことはできないけど
見ててくれよ、空の上から。
お前の嫌いなセコい考え方だけは
せずに生きていくから。

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