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流行語

 言葉の流行というものは、地域性、世代、性別、生き方などに偏りながら、多種多様な広がりを見せる。私は専門学校などという場所で若い世代に囲まれて生きているから、自然に若者言葉が耳に入ってくる。ホント若い人は新しいものが好きだ。そして恐ろしいほど順応性が高くまた飽きっぽい。ここ数年だけでも数多くの新語が聞こえてきたが、一瞬で消えていった。今回は最近我が校の生徒たちがしばしば口にするそんな言葉、その中でもレベルや程度を表すものを並べてみた。しかし当たり前だが言葉は生ものなので、すぐ古くなるし既にあまり使われなくなったものもあるかもしれない。


『神』 定着度 
 程度を表す言葉として『すごく』とか『とても』という語があるが、人を形容しその人が大変親切であるとか、自分にとって有難い人とか、誰も群を抜いてが嫌がることをやってくれる、みたいに人格者レベルが高いという場合に適用される『神』。
 しかし当たり前だが元々「神』などという言葉は程度の最上級のような俗なものではないのだが、『ホンマあの人神!』と言ってその優しさや技術の高さ、サービスの良い人が簡単に神様になってしまう。


《鬼》 定着度 
 『それ鬼やな!』というのは程度がすご過ぎて理不尽なさまを表すことが多い。『夜12時にバイトから帰った後にテスト勉強って鬼か!?』みたいな感じ。鬼電(おにでん)という言葉もある。相手が出るまでガンガン電話をかけまくることだ。
 ただし仏教フリークの私としては『神』と同様、『鬼』についても一言ある。仏教的に鬼といえば、地獄の獄卒が最もグッとくる(笑)   親より先に死んでしまうという大きな罪(と考えられていた)を犯した子供が、罪滅ぼしのために賽(さい)の河原で積み上げる石を片っ端から崩していくあいつだ。また閻魔様をはじめとする十王たちの指示で、容赦なく死者の体を切り刻み、釜で炊き、針の山を歩かせる。一切の情が通用しない無慈悲な怪物だ。だから血も涙もない理不尽さをあらわす修飾語として『鬼』が大抜擢されたのだろうか。

《ギガ》 定着度 
 女王様が『若者がいま一番求めているのは、・・・ギガだ』と囁くあのCMの満島ひかりさんは、彼女の良さが全部出ている感じで大変きれいだ。彼女を初めて見たのは映画『悪人』だった。私の郷里である五島列島にある絶景を臨める灯台が、妻夫木聡さんと深津絵里さん演じる男女の、破滅にしか向かわない切ない隠れ家となった。あの映画では満島ひかりさんは妻夫木さんに殺された女性役だったのだが、20代中頃のその時より今の方が何十倍も魅力的だと思う。
 さて『ギガ』である。ちょっと前には『メガ』だったのに、レベルが最近レベルが1段階上がったみたいだ(しかし『ギガ』が終わっても『テラ』にはならんだろう)。若者の『ギガ』という言葉の使い方がおかしいと理屈をたれる人もいるがそんなことはどうでもよく、『ギガ嬉しい』とか『ギガ腹立つ』などの、これまた程度を表す言葉として成り立っている現実を知って、言葉とはかように柔軟なものなのかと思い知ったものだ。

《クッソ》 定着度 
 『クッソどうでもいい』はもちろん『まるで関心がない』である。程度を表す言葉としての品の無さでは最下級のものかもしれない。相手を罵る時にも頻発される。『クッソ』は『クソ』であり『糞』である。このあたりは英語の shit! と同じなのかな。この『クッソ』も『鬼』や『ギガ』同様に程度を表わしている。
 しかしアメリカ人はなんであんなに クソ ( shit ) や性行為 ( f*ck ) のような汚い言葉を日常会話に盛り込むのが好きなんだろう。『Fワード』などといって『良い子や良識ある大人はそんな言葉は使いません』みたいになってるけど公の場所や公共放送なんかで口にしないだけで、映画などを観てるとみんな日常的に使ってるようにしか思えない。

《死ぬほど&アホほど》 定着度  (若者はあんまり使わないかな)
 『死ぬくらい好き』とは一体どれくらい好きなんでしょう? あるものが好きなことが高じて、自分自身が死んでしまうんだから想像もつかない。大好き!なんていうレベルどころじゃないんだろう。ちなみに私の友達に『好きすぎて泣けてくる』ヤツとか『好きすぎて辛い』っていうヤツは実際いたけど。
 もし今『アホほど』という表現は使ってはいけない、などというお触れが出たら、関西人のコミュニケーションはおよそ成り立たない。それほど日常ではしょっちゅう使う表現である。最も頻発するのは食べ物などが多くあり過ぎてどうしようもない時だろうか。『アホほどあんで。誰がこんなに食うねん!?』みたいに。


 色んな言葉の流行があるが、もののレベルや程度を表現する言葉が最も流行になりやすいように感じる。しかし即ちそれは移ろいやすく変わりやすいという意味でもある。探偵ナイトスクープに端を発し学会で発表され、また書籍も発刊されて大きな話題になった「日本全国アホ・バカ分布図」には私も膝を打ったものだが、ある時流行した言葉に人の心を掴む力があるならば、その情報は同心円の波紋として周囲に広がっていくが、その力がなければ広がることなく局地流行に留まりあっという間に終息する。それが流行語というものだろう。

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