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ムイムイ

【クモ】

 昔からムシが好きだった。きょうはクモの話をしてみたい。特に黄色地に黒の横縞が入った2種、コガネグモとジョロウグモ。ハラが丸いのがコガネグモ、細長いのがジョロウグモ。父に聞くとコガネグモを2匹捕まえて、同じ棒っ切れに放して戦わせるケンカグモ、という遊びを子供の頃よくやったらしい。戦前の話だ。クモが吐き出す糸は一本の「糸」じゃなくて、数十本(もっとか?)が同時に出されて、横幅のある「糸の束」みたいになっている。糸の粘りも相当あり、ひと度獲物が巣にかかると、中心で待ってる彼らが素早く駆け寄り後ろ脚でくるくるあわれな犠牲者を回しながら、その粘りのある糸でがんじがらめにする。人が引っ張ってもなかなか切れないあの糸に巻き付けられては、絶対逃れることはできない。……という獲物捕捉の流れを、子供の私は「人工的に」よくやった。ガキどもが、自分で捕まえたムシをクモの巣に投げ入れるのだ。いろんなクモの巣にいろんなムシを投げ入れる。パフォーマンスとして最高なのは、投げ入れられたムシがそこから逃げようとするんだけれど、巣の主がそれを許さず再捕捉するシーンだ。多分にサディスティックな光景だが、ゾクッとする程素晴らしい。英語でいうWonderfulだ。正にWonderなのだ。ご存知の通りクモは昆虫じゃない。体幹が頭、胸、腹に3分されていないし、脚が8本だ。昆虫の仲間じゃないけどかわいいヤツらだ。

 またこの黄色と黒の何とも毒々しいクモは、我が身に危害が加わりそうになると、自分の体を使って巣を揺らす。脚のバネをタイミング良く使って、敵を撹乱するのだ。上手く表現できないが、あえていうと足の裏がくっついたままのトランポリンで連続して跳ねている、といった感じ。ビヨーンビヨーンって。楽しく遊んでいるようにも見えるんだけど、威嚇になっているのだろう。

 家の中に普通に生息していて、アミを張らないクモにハエトリグモがいる。実は私はコイツも好きで、本当にかわいいと思う。名前の通りハエなどを捕まえて生きている「益虫」なのである。このクモの顔には表情があって、見ているとゾクゾクする。

 もう一種、田舎の家や都会でも古い家にはよくいるアシダカグモというクモ。ほら、タンスの後ろから突然出てくる、あのバカでかくてうす茶色の、女性を恐怖のドン底に突き落とす逃げ足の速いアイツですよ。コイツらの気味悪いのは動きが速いことだけじゃなく、脚がすぐにもげてしまうところだ。新聞紙を丸めて退治しようにも、ちょっと当たっただけでポロポロ脚を失いながら逃げて行く。大きいヤツは脚の先まで入れたら直径10センチ近くになるだろうね。そんな超大型の個体を、一度きれいに仕留めたことがある。天井近くの壁にへばりついていたそいつに向け、輪ゴムをはじいた。少し距離はあったが、大き目の輪ゴムは、見事クモの腹に命中(ちなみに輪ゴムを両手の指で弾いて的に当てる競技会があれば、私は大阪地区予選を通過できる位の自信はある。やって欲しいなぁ。そんなバカバカしい競技会を)。その大物が床に落ちた時には、軽くドンッて音がしたものね。コイツは産んだ卵を抱っこしながら生活する。家の中で卵を抱いているクモを見たら、出来るだけ早く退治をしないとエラいことになる。この時代クモの卵が家の中で孵った状況を知っている人はもはや少ないと思うが、まさしくクモの子を散らすの例え通り、繭から飛び出た子供たちは部屋中に散らばり、その部屋は数日クモの子だらけになる。部屋中無数にミニサイズのクモがいても何ともない人なら別だけど普通の人はダメだろうなぁ。バーベキューやキャンプで都心から離れて大自然の懐に抱かれようとしても、一匹のムシでキャーキャー騒ぐ温室育ちが多い昨今、部屋中にいる無数のクモに耐えられるわけはない。

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