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仏談 -阿修羅と帝釈天-

 奈良は興福寺に、我が国の仏像の中でも最も有名な作品の一つである、少年のような面持ちの乾漆像がある。乾漆像とは像の土台となる芯を作り、その周りに漆を混ぜた木粉を練り合わせたものを盛りつけて表面を形作る造像手法である。芯は後で取り出すので像の中は空洞になっている。
 有名な彼も実は大変可哀想な神なのである。なんとなれば可愛い娘を荒くれ者(といっても神であるが)である帝釈天(たいしゃくてん)に奪われ、その奪還のためにどう考えても勝てない戦いを繰り返し続けたの悲劇の主人公だからだ。帝釈天といえば寅さんの生家近くにその神を祀った寺院があったが、ホント全くふてぇ野郎なのである。

 元々古代インド神話における代表的な神だった帝釈天は阿修羅の娘を見て一目惚れしてしまった。そしてあろうことか略奪してしまったというのだ。創作・捏造・曲解が渦巻いているのが仏教という宗教なので、このあたりも諸説紛々であり、全く反対に阿修羅が友人の娘を奪ったことでその友人が帝釈天に助けを求めたために阿修羅と帝釈天の争いが始まったとする説もあるが、私は前者をとりたい。

 何度も何度も悲惨な戦いを繰り返したことで『修羅場』という言葉が生まれた程の酷いものだったようなのだが、戦いの理由である娘の方はそうしてる内に帝釈天にすっかり惚れちゃって憎しみが消えたらしい。それでも阿修羅は戦い続けたんだなぁ、悲劇だなぁ。ようやくその戦いにも終わりが来た。帝釈天との闘いに敗れた後ボロボロになった阿修羅は天界から追放され、海の底に棲んで修羅道、すなわち戦いに明け暮れる世界の首領となる。

 ちなみにクズ男:帝釈天の方だが、京都東寺には女性に一番人気ともいわれる凛々しい男前の像がある。しかしそのクズエピソードには枚挙にいとまがない。一つ紹介してみよう。とある聖者が妻とともに修業の日々を過ごしていた。帝釈天はその妻に惚れてしまい(こんなんばっかりか!)、あろうことかその家の夫の姿に化けて妻と関係を結んでしまう。割のいい間男ですな。ことが終わると早々に立ち去ろうとした帝釈天だったのだが、ちょうど帰ろうとしたその時、本当の夫と玄関で出くわした。夫は修行者の格好をした帝釈天を見て激怒、術を使い帝釈天の全身に1,000個の女性器をくっつけたという。
 え?いや女性器?しかも全身?1,000個?・・・さすがインドの神様への仕返しだけにスパイスが効いている話である。しかし帝釈天、あなたは・・・。

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