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刺すなよ!噛むなって!

 だんだん暑くなってくると不快な奴らが私たちを襲う。彼らにとっては生を繋ぐための代替案のない必然なんだろうけど、我々人間にとっては迷惑千万である。そう、その奴らとは刺したり噛んだりするムシのことだ。なんでも地球上の生き物の中でも種類が最も多いのは昆虫というではないか。その種類、実にほぼ100万種に至るという。我らが哺乳類の6,000種に比べると桁が2つも3つも違う。地球という星は人間が頂点に君臨しているように見えるが、微生物を除けば(後でこのテーマでも書きたいものだ)本当は昆虫に支配されているのかもしれない。

 幼い頃ムシに親しまなかったのであろう、ムシが苦手だという人が少なくないが、近頃は男性でもそんなことを公言し、ひとたび蛾やゴキブリなんかが出現しようものなら女子と一緒になってキャーキャー言ってる場面を見るにつけ、実に嘆かわしくため息しか出ない。社会で生き抜く力の無さ、ここに極まれりというところか。さてそんなムシたちの中でも、人間様にとっては不愉快極まりない嫌われ者についてここに並べ、語ってみたい。

《蚊》  
 ダニ、ノミ、ブヨなどの刺されると痒くなる一群の中でもキングは蚊だろう。夜中に目が覚めて顔の辺りをプ〜〜ンと飛ぶ蚊に対し、残虐極まりない殺意を抱いた人も多いのではないだろうか。何も血を子孫繁栄の栄養源にせずともいいではないかと思いはするが、彼らとて必死であることは間違いない。なんでも年間トータルすると、最も人間を殺している動物は、熊や毒蛇ではなく蚊らしい。病原体を媒介するたぁ、ふてぇ野郎だと言おうとしたが、血を吸うヤツは野郎ではなくみんな女だ。蚊は小さい縞のヤツが大型種より痒い(と思う)。刺された跡がプツッと小ぢんまり腫れるアイツだ。そんな憎き蚊を両手で叩いた時に、血を吸った前科が確認できることがあるが、あれは実に気持ち悪い。

 郷里に住んでいた頃、漁具として必要な竹を切り出すために舟を出して小さな無人島に上陸すると、ヤブ蚊の大群に囲まれた。その数もさることながら、貪欲に血を求めるチャレンジングスピリッツたるや実に凄まじく、追い払おうにもどうしようもない。あいつらのまとわり方のしつこさは、ムシの群れというより、分厚い衣類のようだと例えたら感じをわかってもらえるだろうか。人の周りに群がる蚊が厚さ20センチ程の層を作って、人と共に動いているのが10メートル以上離れていても見えたものだ。人の形をかたどった蚊の塊が人間と同じ動きをしているのは、ほとんどSFである。

 本人(?)たちには死活問題かもしれないから百歩譲って血は吸わせたとしよう。しかしなにもその後痒くしなくていいのではないか? パッと血を吸って後はきれいに忘れさせてほしい。未練がましいぞ、お前たち。

《スズメバチ》
 刺すムシの筆頭はハチ、中でもスズメバチだ。夏の風物詩であるカブトムシやクワガタを取りに行くと、ヤツらに出迎えられる。彼らは子供たちの顔を覚えている(と思う)。なぜなら石を投げつけたガキめがけてピンポイントで復讐の攻撃を仕掛けてくるからだ。私も過去においては、凄惨な猟奇的連続昆虫殺害事件の主犯格であったが、スズメバチだけには刺されないよう、細心の注意を払った。しかしアシナガバチには気が緩み、何度かやられた。一度などシャツの中に入り込まれ、パニクったハチに連続で何箇所も腹部を刺されたこともある。スズメバチ程ではないというものの、大型のアシナガバチに刺されたら痛い!かなりの衝撃がある。

 スズメバチやアシナガバチは女王蜂一匹で冬を越すから、冬眠から明けてすぐの巣作りは当初その女王がただ一匹で行う。暑くならない内のハチは組織を大きくすることしか考えてないからまだ安全だけど、大部隊になるとなぜか好戦的になってくる。特に獲物が少なくなる夏以降のスズメバチはイラついているのか、カチカチ鳴きながら向こうから攻撃を仕掛けてくる。油断は大敵である。

《イラガ》
 ハチほどではないものの、私の体験ではイラガの幼虫は瞬間的の痛みとしては最悪の部類に入る。見るからに鋭く痛そうな針で全身を覆われている彼らはその針の先から毒を注入してくる。田舎なら知らない人はいないと思うが、割とそこいらにいる。私の初めての洗礼は、とある神社でおみくじを引いた後、境内の低木にそのおみくじを括り付けようとして、そこにいたこいつにやられたことだ。あまりに突然、また痛みによるあまりの衝撃に泣いたことを覚えている。

 こやつが「デンキムシ」と呼ばれる所以は、刺された瞬間、まさに電気が流れたような強いビリビリッと痺れるような衝撃があることだ。刺された局部はかなり腫れて、水膨れやミミズ腫れになってしまう。刺された後もしばらくは痛みが続くし、痛みが去ると今度はかゆみに襲われる。二重三重に厄介なやつである。

《ムカデ》
 都会に住む人で、ムカデ、ヤスデ、ゲジゲジって言われたところで正しくそれぞれの生体が頭の中に画像として出る人は稀だろう。それらはみんな昆虫ではないのだが、人々(特に女子)に気持ち悪いと言われる筆頭に挙げられる可哀想な生き物だ。しかしこの哀れな三羽ガラスの中でも危険生物はムカデだけだ。ムカデに噛まれたことのある人も少なくなったが、アイツの毒は強烈だ。玄関に置いてある長靴を履いたら中にいて噛まれた、家の中に入ってきて身を潜めてるヤツを踏んで噛まれた、などという田舎に住んでたら日常的なことも、もう耳にしなくなった。大きなものは20㎝以上あるだろうか。黒光りする体に赤い足を持つあいつのキバは、見るからに凶暴で、噛んだ瞬間に毒液を放出する。ひとたび噛まれたらホント大変だ。半日ズキズキ痛い。噛まれて時間が経たない内に仕事や学校に向かえる人は、よほど強靭な精神の持ち主だといえる。

 ちなみにムカデにまつわる私の人生における最悪の経験は、天井から首元に落ちてきたヤツの絶叫ものの思い出である。その時は天井の梁にうごめくそいつを、兄が輪ゴムで仕留めようとしていた。命中したりしなかったりで私たちは大騒ぎしていたのだが、不完全なショットはヤツを逆上させ、また手負いにしてしまっていたのだ。兄の連続ショットがついにヤツの頭部を捉え、たまりかねた赤足の巨体がものすごい勢いできりもみをするように、私の顔めがけて落ちてきたのだ。とっさによけた私のTシャツの首元から背中に入った。私は叫び、飛んだ。そして走った。幸い兄の攻撃は致命傷に近く、ほどなく裾から畳にボタッと落ちた時には瀕死の状態であったことは何よりだった。また、Tシャツの裾はズボンの外に出していたことも運が良かったことの一つだった。とにかく私は助かった訳だ。その日のことは50年経った今でも夢に見る(笑)

 暖かく、また暑くなってきたら危険な刺客が多くなる。でも一番危険なのはそれらを知らないことだ。

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