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「AFTER GLOWS」感想


⚠以下映画内容ネタバレOKの人のみ⚠
モノクロ映画は初めて。どんな感じかなと少し不安を覚えながら鑑賞。
なるほど。不思議と色は気にならない。
かえって色が省かれることで表情や質感がすっと入ってきて入り込みやすかった。
ただの明かりが冷たさ、温かさ、優しさ、高揚した気分を代弁するかのように感じ、シーンごとに絵になる。どこを切り取ってもポスターになりそうだ。

初めに見た時の違和感。小家山晃(こいえやま あきら)さんの演じる袴田の演技。目が笑っていない。いや笑う会話じゃないのだけど。二回目鑑賞の時にはすでに分かっていたから違和感はなく冷静に見られた。違和感の正体がわかる。ここ好きだなあ、もつ鍋のシーン。

さて、朝香賢徹(あさか けんてつ)さん演じる守島輝(あきら)はかわいそうでさゆりに夢中な少しガラの悪い男。あからさまにはでてこないけどさゆりをとても大事にしていた人だとわかる。
最愛のさゆりを自殺で亡くし、自分の寂しさを埋めるために義母へ送り突っ返された大金はまるでマッチ売りの少女のマッチのよう。お金がなくなると同時に現実に戻される。
最初のころはただ可哀そうな人だと思っていた。そして優しい人に出会い傷を癒していくのかと思っていた。心地よい酒場で同じような傷を共に癒しながら前に向いていくのかと。
どう考えても違うな、と思ってきたころ、実は輝が殺したのか?と疑うようになってきた。

ところどころ違和感を抱き始める。最初にちさよを見間違えた時、思わず「・・・さゆり?」と聞いている。そして小松さゆりのニュース特集を組みアナウンスした山中アナ。彼女は特集をしたにも関わらず友人のちさよに小松さゆりに似ているよね、といったニュアンスを伝える場面はひとつもない。実際には似ても似つかない人物なのではないか。マッチ売りの少女のように本当に今必要としているものが見えているだけで本当はまったく似ていないのだと思う。
哀れだ。愛しているようで愛していなかった。さゆりは彼が殺したのだ。その事実から目を背けたくなりお金でひと時の安らぎを買っただけなのだ。マッチを擦る少女のように。認めると同時に傷から血となり噴き出てくる。認めたくはなかったのに。

最後の妄想でさゆりと陸橋を走る。輝とさゆり、二人きり。甘さを含んだ、ゆったりとした問答はすべて輝の望み通りの言葉。さゆりの目は真っ白に消されていて表情がない。すべて輝の妄想だと理解する。一番ぞくぞくしたシーンだった。最後の最後にすすき野原で微笑んださゆりすら彼の妄想だろう。彼にとってはある意味幸せな最後だった。
愛し方を間違い、後悔を恐れ、ひたすら現実から逃げた輝にとってこの上ない幸せなのでは。



鑑賞終了。
昼の上映だったので外に出るとまだ街が鮮やかな色を保っていた。ふと安心した。
夜なら泣いている。輝の気持ちを持って帰りそうでつらくなっていただろう。
今日はおかずを一品足そう。マッサージもしてあげよう。パートナーは寂しがっていないだろうか。出し惜しみ、押しつけはやめよう。大事な人へ示す愛情について間違えていないか考えながら帰路についた。

以上です。

ここまで長い文章、読んで下さりありがとうございました。
これもまた押しつけになってはいけないので「これは個人の考察、思いです」を強調しておきます。
素晴らしい作品でした。

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