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ヨツボシテントウダマシ

普通種

 ヨツボシテントウダマシは、畑の脇などの枯草の下に生息するテントウダマシ科の中でも最も普通な種である。オレンジ色に黒い斑紋を持っていて識別も簡単だ。日本からは、2種(ヨツボシ・ベニヨツボシ)が分布することになっていた。しかし、50年近く前に富士山周辺から1度だけ記録されたベニヨツボシは、正体がよく判っておらず、日本にはおそらくヨツボシ1種が広く分布するのだろうと考えられていた。(上がヨツボシの成虫、下がヨツボシの幼虫)

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新発見

 十川晃一君とこの仲間を再検討することにした。なんせその辺にたくさんいる普通種なので、標本もたくさんある。ヨツボシを解剖しまくって1種しかいないなぁ、と思っていた矢先、ベニヨツボシらしい中部地方の標本を発見した(下の写真はベニヨツボシの雄)。詳しく調べてみると、雌雄ともに明らかにヨツボシとは区別できることが判った。これはかなりショッキングなことだった。誰も識別できずに50年近くも放置されていたのだから。ぜひ自分たちが論文化したい。十川君は奨学金をとっていたので、その返還免除申請の為にも論文を1本でも多く出す必要もあったのだ。ということで極秘に研究を進めた。ベニヨツボシに加え、北海道大学のコレクションからは第3の種、ニセヨツボシが発見された。こちらは福島県で採集された数個体の古い標本があるだけで日本初記録種となった。

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論文を出す

 普通種のヨツボシテントウダマシが実は3種だった、という論文を書き上げその年のうちに学会誌に投稿した。3種とも新種ではなかったが、普通種が3種の隠蔽種から成るということは十分にすごい発見だ。

 そして論文の掲載が決まってから学会の大会で口頭発表することにした。この学会での発表は、けっこうインパクトがあった。発表会場には人が入りきれず立ち見も出たし3種の識別点を示すと感嘆の声をあげていた人もいた(twitterに写真が出たとも聞いた)。人によっては、かなり懐疑的な意見も貰ったが、それもよく理解できた。

論文出版後

 論文が出版された後にいろいろな人が標本を調べることにより、ベニヨツボシはいろいろな場所で見つかるようになった。科学の正しい在り方というか、論文を出したことによりいろいろな人が追試してくれた形で、ヨツボシテントウダマシに2種の隠蔽種が入っていたことは証明された形になった。

 そして幸運なことにこの論文は、その年に出版された論文の中から1つだけ選ばれる学会賞を受賞することにもなった。

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