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九州から見つかったヒョウタンヒメドロムシ

2018年末、九州の友人の井上さんから変わったヒメドロムシを採集したとのメールが入った。添付されていた写真を見ると確かに変わっていたが、かなり小さな体で玄人好みな感じの種だった。Macronychini族という触角が短くなる仲間であることは間違いなく、触角が6節のようだ。さっそく最新の教科書であるHandbook of Zoologyのヒメドロムシ科のところを見てみると、触角の節数が減少するMacronychiniにあっても最小が7節とある。これはすごい発見かも。でも近縁の属すら判らず、ちょっと論文化に躊躇した。この仲間について以前も一緒に研究した林成多さんと共同研究することになったが、解剖して詳細に調べても執筆には躊躇していた。何か引っかかるところがある、そういう気持ちだった。正月を跨いで2019年の2月頃までは悶々としていた。

ヒョウタンヒメドロムシ

ところで東南アジアにPodelmisという属のヒメドロムシがいる。これは族が違うし触角も長いので今回の種とは全然違うのだが、何だか雰囲気が似ている。特に胸部の感じが何となく。他人の空似だとは思うが比較してみようと文献を調べたところ、この属に名前が似た別のPodonychusという属がインドネシアで創設されていることに気付いた。文献フォルダから別刷りを探し出して見たところビンゴ!触角も6節、こいつだった。判ってすぐに林さんと友人たちには興奮冷めやらぬままメールで報告した。これで論文が書ける、勝負になる、そう確信した瞬間であった。その後の調査で、なんと愛媛大学ミュージアムのコレクションにはそのインドネシアの種のパラタイプ標本が保管されていて、標本の比較もできた。区別するのが難しいくらいとってもよく似ていた。

正体が判ってからはサクサク執筆できた。2019年3月にはどうしても我慢できずに自分でも採集に行った。何とか採れたが生息場所がかなりピンポイントで丁寧に教えてもらっていなければ採れなかっただろう。近くの河川でも狙ったが採ることはできなかった。これを最初に採るなんて井上さんすごい。その時に幼虫も採れた。

ヒョウタンヒメドロムシを採集する井上さんたち
ヒョウタンヒメドロムシ

この幼虫がとても変わっていて、すごくカッコいい。胸部と腹部の後縁にY字型の突起が並んでいる。こんな幼虫は知られていなかった。

ヒョウタンヒメドロムシの幼虫の図

さて、なんでインドネシアのシベルト島と九州に隔離的に分布しているのだろう。当初、そういった他の事例を探そうと論文探索をしていて、共同研究者の林さんも同じことを考えていろいろ論文を送ってくれた。そもそもシベルト島も生物地理的に特異なところのようで、そんなところと九州が結びつくというのはあまり考えつかない。集めた論文を読んでもピンとこなかった。実際に自分で採集してみて思ったこととして、本種の生息微環境がちょっと変わっていた。環境自体は小さな河川のツルヨシの根が張り出したところなのだが、そんなところは各所にあって、でも本種が生息するところはその中でもすごく限られていた。文章では表せないような微環境の要求がうるさくて、他の地域では未だ確認されていないだけなのでは?そう考えた。このことは査読者からもいろいろ突っ込まれた。

論文が出てすぐに九州の他の県でも採集された。それは想定内。次に山口県や島根県でも採集された。これは驚いた。両県ともヒメドロムシはよく調査されていたからだ。島根県は共著者の林さんのおひざ元でもあるので、そんなところから発見されるとは思いもよらなかった。その後に飛んで愛知県からも発見された。実はやはり隔離分布ではなく、採りにくい種でこれまで見つかってこなかっただけだろう。きっとインドネシアと日本の間の国々にも分布していて(おそらく別種の未記載種だろうが)、まだ見つかっていないだけだろう。

参考文献

Yoshitomi, H. and M. Hayashi, 2020. Unexpected discovery of Podonychus (Coleoptera: Elmidae, Elminae, Macronychini) in Kyushu, Japan. ZooKeys, 933: 107-123. doi: 10.3897/zookeys.933.48771

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