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【中山間地の農業の形】適応力と創造力のフードカルチャー・ルネサンス


中山間地の農業の行く末について関心がある。
「新規生産者を増やそう!」「移住者誘致を!」これも、一つの方法としてあり得るかもしれないが、そもそも全体人口が減少傾向にありどの産業も人手不足で、農業だけそんなに増えるとは思えない。

では、どうするか。

「条件が恵まれていて維持できるところはこのまま、わずかに厳しいところも少しお金や人手を入れて従来型を維持、条件が厳しいところは自然へ戻す」(『撤退の農村計画』林直樹、齋藤晋編)という話もあるし、

「土地利用・管理政策(管理構想、人・農地プラン、森林経営管理制度等)の政策を対象にして、労働コスト及び管理エリアのダウンサイジングを勘案するために、集落のレベルで土地利用方針を構想するための科学的情報の評価、可視化、地図化を行うシステムを提案する。」(農林業生産と環境保全を両立する政策の推進に向けた合意形成手法の開発と実践)といった研究プロジェクトもある。

少しずつ「どのように縮小していくのか」といった議論もなされている。しかし気になるのは、自然条件だけでゾーニングをしてもいいのか、という点だ。そこには生業として農業をしている人たちがいて、その人たちが土地を所有していたり、地主と折半しながら農地を借り受けている。そのような人の視点をどのように盛り込むのかが関心事である。

フードカルチャー・ルネサンスへ

雨が上がったあとの景色(提供:フードカルチャー・ルネサンス)

そんな関心ごとへのヒントをもらえるような気がして、静岡県三島市箱根西麓の中山間地で、年間300品種を超える固定種や在来種の野菜を有機で栽培するフードカルチャー・ルネサンスを訪れた。悪天候のなか無理を言って訪問させてもらった。

標高差300mに15カ所ほどの畑が点在している。もともと遊休地や耕作放棄地、高齢の農業者が管理できなくなった圃場を引き受け、荒れた地を管理し面積を増やしていくうちに5haに至った。

「土地は縁だから。いろいろな理由で使われなくなった農地があって、声がかかったときの事業の状況とかの組み合わせで引き受けるかどうか決める」と、代表取締役社長の鈴木達也さんは話す。

引き受けた土地に建設された建屋やその中のゴミの整理、処分も

地域には、大規模で営農している人が3名ほどいるが、60〜70代で、今後さらに土地が空いてくることが予想されるという。かといって、鈴木さんがこれ以上面積を増やせるかと言えば、必ずしもそうとは言えない。

というのも、フードカルチャー・ルネサンスは、マス向けに量で勝負する農業ではない。中山間地の農業は、一圃場あたりの面積も広くなく、形もいびつ、傾斜地で、効率的な農業は難しく、量で勝負をしたら平場には敵わない。

そのため、個人や飲食店へいろいろな価値と一緒に野菜セットを届けており、これ以上面積を増やし、物量を増やすことは正攻法ではない。そうなると、管理面積の上限はもちろんある。

奥に見えるのが手前のような状態から再生した畑

耕作放棄地の再生

鈴木さんは、放棄された土地を再生する仕事に注力している。

「新しい土地を借りると、まずは生えている草を見て、現時点での畑の地力のステージがどのレベルなのかを確認します。同時に独特な傾斜や起伏も伴う中山間地なので、雨天時に水が溜まりやすい場所やそこに向けた地下の水脈なども確認します。また、山間にあるので日当たりも確認して、日の当たらないところには日陰性の作物を育てるなどの工夫をします。その他、風の通り抜け方や厳冬期は霜の降り方なども。土づくりをして作物がよく育つまでに3〜5年はかかります。」

ニンニクのあとにズッキーニを植えるなど輪作体系を重視。 さらに植える際にネギの根を絡ませるなどをして病害虫の被害を防ぐ。

多品目で周辺環境の近隣の未利用資源も活用するスタイルの農業ゆえに、中山間地の環境に合わせて適応できる。

養蜂家に場所を貸している。百花蜜の販売も

一方で、中山間ならでは獣害の問題や、消費地までの輸送費、端境期、多品目ならではの管理・パッキングコストなどの多品目で直接販売ならではの課題もある。

電柵。それでもシカやイノシシが入り込む

このような課題も包括したうえで、少しずつ形を変えながら経営として成立させられるのは鈴木さんを含めて一握りだろう。

キクイモもリアスからし菜もおいしい!

どんな土地を残したいのか

梅再生プロジェクト。参加者と剪定を行った

管理面積を無限には拡大できない農業スタイルである一方、農地が空くと鈴木さんに次々と声がかかる。では、どのような農地を引き受けるのだろうか。

土質については、関東ローム層の上に火山灰土が混ざっている特殊な土(表面は水はけがいいが、下部は水もちがよい)で、どこでも基本的に栽培しやすい。そのため、土質によって引き受けるかどうかはあまり関連しない。たしかに、訪問時は降雨だったが、土の表面が粘土質になっておらずサラサラだった。

引き受ける予定の農地。ハンマーモアですき込んだあと、活用するイメージが湧くそうだ

もっとも気にするのは、空間として活用できるイメージがわくかどうかと話す。具体的には、訪問者にとって心地よいか、インスピレーションをかき立てられるか、駐車スペースが確保できるかなどの視点で勘案することが多いと言う。というのも、レクリエーションとして農作業にお客さんが参加することも増えているからだ。お客さんの見たい、知りたい、癒されたい、味わいたいという思いを満たすこともフードカルチャー・ルネサンスが提供する価値で、そこから対価も得られる。

ジャガイモも15品種近く植え付けられている。6月の収穫イベントも楽しみ(提供:フードカルチャー・ルネサンス)

鈴木さんの頭の中には、食べる人が畑で作業をしたり、収穫をしたり、さまざまな楽しみ方をするイメージがあふれている。

時代に合わせて軌道修正していくために考えている新しい取り組みについても、楽しそうに話してくださったのが印象的だった。

言語化できない「売り」が転がっている

畑からの景色(提供:フードカルチャー・ルネサンス)

「『農園の売りはなんですか?』と聞かれると答えられないんだよね」と鈴木さんは笑いながら話す。

フードカルチャー・ルネサンスの売りは尋ねるものではない。そこに行って鈴木さんと話せば、言語化できない売りがそこかしこに転がっている。

畑を訪れるたびに料理人の取引先がどんどん増えていくのは、この理由だろう。

中山間地の農業の形

三島佐野体験農園。市民農園だけでなく、新規就農希望者もスペースを借りられる

箱根西麓はもともと畑地だったことから、水路管理や畔管理などには関わっていない。しかし、「農業経営」以外の伸びた枝の切除、空いた農地にある小屋の整理、地域のための人材育成などの多岐にわたる「地域仕事」を担っていることがわかった。水田地帯では、残された農家への負担はさらに大きくなる。

鈴木さんの場合、限定された条件の中で組み立て、有機農業、多品目、直接販売、かつ中山間地に人を集めてレクリエーションを提供することも含めて経営が成立している。一方、この形で成立できる農業者、ましてや消費地である都市部から離れている中山間地ではそんなに多くはないだろう。

グループで勝負するのも一つのあり方だろうと、孤立農園が多い北欧(酪農中心なので参考になるのか不明)の協同組合にヒントが隠されている気がして『揺らぐ北欧協同組合王国』(田中秀樹、筑摩書房)も読み始めた。

フードカルチャー・ルネサンスでは、梅の木の再生を始めているが、中山間地での果樹や樹木類は適しているように見える。そのほか地域仕事や、レクリエーションとを組み合わせる、ある意味”現代版百姓スタイル”は一つの解かもしれない。

中山間地の農業の形について、鈴木さんにヒントと課題を頂いた。

これからの中山間地の農業の最適化について、今後も(勝手に)考えていきたい。(全国各地、色々訪問させてください)




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