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「自分らしい最期」を迎えるために。フリーランス看護師の藪内加奈子さんが伝えたいこと

11月30日は『いい看取り』の日。
大事な家族が最期を迎えるためには、何が必要なのでしょうか。

今回は、フリーランスの看護師である藪内 加奈子(以下:かな)さんに、介護施設の現状と、現在活動されている取り組みについてお話を伺いました。
かなさんは長く病院や介護施設で看護師として働きながら、祖父の最期を看取る経験もされ、家族間の話し合いで蕁麻疹が出るほど苦労したそうです。そんなご本人の体験も踏まえた上で、看取りや終末期のことを広く知ってもらいたい。「老いること」について、もっと気軽に話し合ってほしいとおっしゃいます。


医療現場はぎりぎりの状態

ーーかなさんは、これまでどんなことをされていたんですか?

看護師として23年ほど勤めていました。病院5年、介護施設18年です。病院は胃腸の消化器病棟。がん患者さんでお亡くなりになる方もいて、看取りも経験しました。

オンライン取材をさせていただきました(左:かなさん・右:坂井光理)

藪内 加奈子(やぶうち かなこ)。14歳の時、最愛の母ががんで他界。その後、大親友との別れも経験し、生きること・死ぬことに対する考え方が変わる。病院と介護施設勤務を経て、2022年からフリーランスの看護師に。2023年には介護施設の師長代行サービス「みんなの師長さん」をスタート。 ミッションは「本人らしい最期を迎えられる世界」を実現すること。現場サポートや医療と一般の方の溝を埋めるため活動中。
X:https://twitter.com/tube_kana
Instagram:https://www.instagram.com/acp_lively/

ーー現場時代、人手不足はどんな感じだったのでしょうか。

働いている時は、そういうもんだと思って働いていました。求人を出しても来ないし、不満よりは一旦受け入れちゃうタイプ。
時々、残業して師長の仕事してても自分は苦じゃなかったです。
「人がいなければ自分が2、3人分働けばいい」と思ってたんですよね。

ーーすごい発想です。

でも、会社側として人を育てないといけなかったり、結局1人だと無理だというのがわかって。コロナの時はきつかったですね。休みの時でも電話がかかってくるのが辛かった。
山登りが趣味なんですけど、バッテリーが減らないように、機内モードにしてるんです。下山した時何気なくオフにしたら、一気にショートメールの波がきて。電話の履歴がこれだけ来てますっていう。
休みの日の夜、寝ている時も電話がかかってきて、イライラが溜まってキツかったです。そういうのが3年くらい続きました。

ーー介護施設は24時間体制で、休めないんですね。

本来は、施設に先生がいるんですけど、おじいちゃん先生で。高齢者施設って1人の先生で100人くらい診ないといけない。

ーーそれは結構な負担ですね。

そういう事情もあって、電話で先生に「誰が、どうこうで」って話してもわからなくて。看護師や施設長が代行して、現場をなんとか回してやっているのが実情だと思います。ただ、リーダーシップを取って進めるのはみんな嫌がりますね。やりたがらない。

ーー現場でなんとか回すけど、リーダーにはなりたくない。

みんなヒラがいいって。人事評価の時、みんな口を揃えて言います(笑)。「私はずっとヒラで、昇給とかいらない」「変に責任がつく方が嫌」って。

ーーそういう現場を見て私がやらなきゃ、と必然的に「みんなの師長さん」サービスを立ち上げたんですか?

施設を辞めてからです。外注という形でマッチングするといいんじゃないかなと思いました。
働いている時は、資料を作る時間的な余裕もなくて、行き当たりばったりの資料しか作れなかったので。施設の職員が助かるような、見やすくて質の高い資料を、辞めた後「作りたい」と思ったんです。

必要なのは、「終末期」についてもっと知ってもらうこと

ーー資料を工夫したり、患者さんのご家族に対しても、もっとできることがあるのではと。

ご家族に対しては資料だけではなく、違うアプローチが必要だと考えていて。「いろんなご家族に合った説明」が必要だと思っています。
例えば、患者さんに変化があった時。私たちがご家族へ変化を伝えたり、コミュニケーションが必要だと思って時間を作っても、ご家族側は「そんな悪くなかったら、わざわざ」と時間を割きたくない人もいらっしゃいます。
早い段階で、今後どういう医療をどれくらいするのかというACP(アドバンス・ケア・プランニング)の内容をするのが難しくなって、大事な話が後回しになってしまうケースが多くて。
いよいよ、となった時に、ご家族も切羽詰まった判断をしないといけなくなって。結果的にご本人にとってどうだったのかなと。施設側から、もっとできることがあったのではないのかなと思ってしまうんです。

ーーACP(アドバンス・ケア・プランニング)というのは?

前提として、命の危機が迫った時、約7割の人が「自分でこうしたい」という意思を実行できない現状があります。高齢者であれば体が衰弱したり、認知症になった時、家族と話し合うのが難しい現実がある。そうなる前に「どうしたいか」話しておきましょう、というのがACPです。元々、医療機関で始まった取り組みで、「人生会議」という愛称で厚生労働省も啓発活動をしています。

ーーそういう話をもっとお話ししたいと。

「医療のことはわからないから先生に全部お任せ」ではなく、一度考えてもらいたいんです。大事な家族だからこそ、老いるとはどういうことなのか、医療にもいろんな選択肢があることを知ってほしい。
フリーになってから講演会などでお話しさせていただくと、(知らないから)「病院で亡くなるのが普通でしょ」と思っている人がとても多くて、あまり知られていない現実を知りました。
先日、ACPを伝える先生とお話していて、こんな話がありました。「医療側としては、患者さんたち自身が自分たちでどうするのか、ACPを考えてくれないと困る現実がある。でも、それは上から目線の勝手な要求だと思われていないか。医療が責任逃れするために、方針を患者に丸投げする概念だと捉えている人もいる」と。医療側と一般の方の間に、大きなズレがあることに気づきました。
大きなズレがあるのは、一般の方が終末期ついて知らないという大きな問題があるからだと思っています。どんなことで困るのか、何したらいいのか、何ができるのか「わからない」という問題。

ーー私も、かなさんの取材がきっかけでACPを知りました。
嬉しいです。もっとそういう話が身近になるといいですよね。

医療現場と一般の間にある溝を埋めたい

ーーかなさんが始められたサービス「みんなの師長さん」で、もっと身近に感じてもらいたいと?

はい。介護現場のサポートもやりながら、一般の方向けにSNSや研修会で「終末期の高齢者」の情報発信しています。
介護現場はギリギリの状態です。看護師さんや介護士さん、ケアマネさんも一生懸命されていて、本当はご家族の話を全部聞いたり、受け止めたいと思っているんですが、圧倒的に時間が足りない。
病院や施設以外で誤解を解消できる場所、病院から言われてわからなかったこととかも聞けたり、ちょっとした疑問を解消できる場所を作りたいと思っていて、今は毎週土曜にYouTube Liveで雑談会をしています。
保険制度も難しいし、でも1人で抱え込むのではなくて、みんなが相談できたり話せる場所があればいいんじゃないかと。
先日がん患者さんの遺族サロンに参加させてもらって、制度だけじゃない場所もあると良いのではと思いました。
「知ってもらうこと」が、最終的に患者さんらしい最期を迎えられる支援になると願って活動しています。

ーー素晴らしい活動です。
いえいえ。欲張りなんですけどね。介護現場の効率化支援ももっとやりたい。
本当は現場の看護師さんも話を聞きたいと思っている方が多いんですよね。圧倒的に時間が足りないし、かといって自分のやりたいことだけやるのも仕事ではない。それだったら外で思い切りやるのが良いかと思って。
実際に介護されている方のお話を聞くと、こういうことに困っていたのかと自分も勉強になります。

ーー飛び出したからこそ、わかったんですね。
頑張っていくしかないし、皆さんが支えてくださるので頑張ろうと思えてます。1人だったらこっそり辞めてます、サボってしまうので。


「欲張りだけど」と、はにかみながら謙虚にお話をしてくださった、かなさん。
強い信念を持ち、一歩一歩しっかりと踏みしめて着実に進んでいらっしゃる姿がとても格好良かったです。ありがとうございました。

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