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【史実創作】モーツァルトとサリエーリ 1791年より

⚠️注意書き⚠️

この記事はモーツァルトとサリエーリの史実から派生させた創作です。
史実を引用していますが、会話の内容や一部設定などは完全な創作になりますのでご注意下さい。
大丈夫だよ!という心の広い方のみお進み下さい。

【モーツァルトとサリエーリ 1791年より】

1791年のウィーン、41歳を目前とした若き宮廷楽長アントニオ・サリエーリは宮廷図書館にて1人、今シーズンの宮廷劇場行事の公務に追われていた。

窓から差し込む日差しは既に夏の色を含んでおり、図書館に粛々と鎮座する数々の本を照らしている。
演奏会シーズンである四旬節を終えたウィーンには夏が訪れようとしているのだ。

敬愛するヨーゼフ2世前皇帝陛下が逝去されてから早くも1年以上が経ってしまっているとは。時が経つのは早いものだ。
世間の話題もいつのまにか、ヨーゼフ2世前陛下逝去の悲報から時期皇帝レーオポルト2世への期待へと移り変わっている。

サリエーリは羽ペンをインクボトルへと戻すと今年の宮廷楽団メンバーのリストを手に取った。
馴染みの者も居るが、それ以上に新しいメンバーが多い。
果たして今年の編成と選曲はどうしたものか。

移り変わりの速さは、サリエーリが取りまとめている宮廷楽団においても同じことだった。
新皇帝による人事刷新により、楽団のメンバーは大きく様変わりしていたのだ。

心弾む台本を用意してくれたダ・ポンテも、慕ってくれた多くの楽団のメンバーも、次々と宮廷から追われてしまった。
あの美しいソプラノを持つカヴァリエリ嬢ですら今年の冬に解雇を受けると噂されている。
しかしながら、劇場指揮者の任を解かれてしまった今の私には既に彼らを引き留めることは最早叶わないだろう。
世間では、早くも私の後任の宮廷楽長が噂されているほどなのだから。

美しい図書館内に重々しい溜息が反響する。
天井に描かれたフレスコ画の天使達が見下ろす中、サリエーリは宮廷から追われた親しい者達への罪悪感と新皇帝への憤りで身が焼かれる心地がした。
両手を組み、祈るように硬く目を閉じる。

音楽は楽しいものでなければならない。
しかし、今の私にそのような音楽が生み出せるのだろうか?
音を楽しむことを取り上げられてしまった今の私に。

脳裏に浮かぶ仄暗い疑問を振り払うべく、再び机上の仕事に取り掛かろうとペンへと手を伸ばした時、背面からバタンと図書館の扉が開かれる音がした。
それも軽やかで優雅で、それでいて弾むような靴音と共に。

「Hallo, lieb papa! Wie geht es Ihnen?」
(やぁ、親愛なるお父さん!お元気ですか?)

振り返ると、開け放たれた扉から刺す逆光の眩い光の中に、小柄な背丈の人物が立っていた。
シルエットしか見えないのにも関わらず、その姿は自信で溢れていることが分かる。

「Hallo, Mozart. 図書館では静かに」

「あはっ!でも今日は貴方しか居ないんでしょう?」

そう言って、シルエットの男_____
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは軽やかな足取りででこちらへと近づいて来た。

このモーツァルトという人物は、宮廷作曲家としてサリエーリと共に宮廷で働く音楽家であった。
ただし、彼がこの宮廷作曲家という現職に就いたのはほんの3年前のことであり、それまではこの音楽の都で、フリーランスの音楽家としてその人気を欲しいままにしていたのだ。

実のところ、モーツァルトはサリエーリが師ガスマンに連れられてウィーンに来た頃から神童としてヨーロッパ中で名を馳せていた、謂わば有名人であった。

その為、サリエーリも彼がウィーンに定住を始めた頃から折に触れて彼の演奏やオペラに足を運んでいたが、その音楽を聴くうちにいつしか彼の音楽に魅了されていったのだった。
彼の生み出す作品は、どれもが軽快で美しく、宝石箱をひっくり返しような、天国を錯覚する曲ばかりであった。

このような素晴らしい曲を次々と生み出す者は一体どんな人物なのだろうと、彼が同僚の宮廷作曲家となるまでドギマギしていたあの頃が懐かしい。
今、目の前の人懐っこい笑顔で私の顔を見下ろす神才からは、当時抱いていた期待からとは別の緊張を感じてしまう。

サリエーリは椅子から立ち上がると、警戒するように眉を顰めながらモーツァルトに目線を合わせた。

「それで、今日はなんの"相談"を?
残念ながら今の私では、君のポストについて陛下へ進言するのは難しいのだが?」

「ははっまさか!今日はそういうんじゃないよ!っていうか、まだ君、去年僕が出した嘆願書を根に持ってるのかい?あれはちょっとした出来心というか、それでなれたらラッキー!というか...
まぁでも、僕の方が教会音楽上手いのは事実だろ?」

「はぁ...そういうところをどうにかしない限り宮廷の主要ポストは難しいと言っているというのに...」

「そんなに悩むと寿命が縮んじゃいますよ"お父さん"?」

「全く、誰のせいだとっ!」

「Shhh..."図書館では静かに"そうでしょう?」

そう言って吹き出したモーツァルトに呆れつつも、サリエーリも一緒になって笑っていた。

かの神才とはこういう人物なのだ。
自尊心が強く、陽気で人懐っこい。
そして何より、正直で人間らしい。

初めてこの人間性を目の当たりにした時、あの人間離れした美しい旋律を自在に操る者とのイメージに大きな乖離はあったが、その人間らしい愛嬌は何処か憎めなかった。
故に定期的にモーツァルト"相談"に付き合う羽目になるのだが...

「実に愉快な掛け合いだ!これで1曲書けそうだよ」

「おやおや、宮廷作曲家様の創作意欲に加担できたとは、とんだ名誉だな」

「あははは!もうやめてくれ!笑いすぎて死んじゃうよ!」

「それで、相談があるのでは?」

「そうそう!バッハのカンタータをいくつか借りたくてね。ここに沢山あっただろ?」

「バッハ?___あぁ、成る程。」

実はモーツァルトが宮廷作曲家となるよりも前に、私は彼と会っていた。しかもこの宮廷図書館で。

この図書館の館長を務めているスヴィーテン男爵は根っからの古楽好きで、かつてはこの宮廷図書館内にある邸宅で毎週日曜日にバッハやヘンデルなどの古楽作品を用いた私的演奏会を開いていた。
モーツァルトはその会の常連で、その際にバロックの音楽に魅了されたらしい。
その会から度々招待を受けて訪れていた私は、そこで彼の弾くフォルテピアノに合わせて歌ったこともあった。

そんなスヴィーテン男爵も新皇帝から敬遠され、最近はめっきり図書館には訪れていない。
故に、バッハの楽譜を借りたいモーツァルトは、私が男爵から図書館を貸し切っていることを聞いて駆けつけて来たというところだろう。

サリエーリは、バロックの棚へと移動すると、本棚からいくつか適当なカンタータをさっと見やり、そのいくつかをモーツァルトへと渡した。

「Vielen Dank! いや〜助かった!これでなんとか間に合いそうだな」

「そういえば、今年は大聖堂の副楽長に就任したのだったか?次作は大聖堂からの作曲依頼だろうか?」

「いや、1つは"誰かさん"が頑なに断ったって言うオペラ・セリアのため」

「ゔっ」

咄嗟に呻きに似た声が漏れてしまった。
隠すように顔を背けたが、勿論、音楽の天才はその音を逃さない。

「お陰様で、たったの6週間で完成させなきゃいけなくなってるんだ!全く、断るならもっと早く断って、早いところ僕を紹介してくれれば良かったのにね!」

いかにもわざとらしい大仰な声色だ。
私の顔を覗き込む顔にも揶揄の笑みが浮かんでいる。
普段なら皮肉の1つでも返すところだが、今回ばかりはそうはいかなかった。

「それは...その…本当にすまなかった...」

モーツァルトの言うオペラ・セリアは新皇帝のプラハにおける戴冠式用のオペラ「皇帝ティートの慈悲」のことだ。
実はこのオペラは当初、私の元へと依頼されていたのだが、新体制となった公務の忙しさと、先に書いた新皇帝への反発心からどうも気が乗らず断ってしまった。
それでも興行師の方は中々諦めてくれず、度重なる訪問に耐えきれなくなった私が、最終的に、モーツァルトへと頼むよう進言した為に、残された作曲日数が短いまま彼に作曲依頼を回してしまうこととなだたのだった。

「宮廷楽長様ともあろう者が、皇帝陛下の晴れ舞台の作曲を断っちゃうなんてね。しかもまさか貴方みたいな真面目で優秀な方がさ!」

最後の言葉は全て皮肉だろう。
それでも、尊い音楽への楽しみを私からを奪った新皇帝への憤りは変わらない。

「音楽を解さない新皇帝陛下を満足させられるような曲を作れるほどの能力が私にはないのでね。"Amadeus(神の愛子)"の君なら話は違うかもしれないが。」

心中に秘めていた新皇帝への不満を無造作に突かれたサリエーリは、堪らずその胸の内を皮肉と共にモーツァルトへとぶつけてしまった。

暫く続いた沈黙にサリエーリは少し大人気なかったろうかと気まずい気持ちになり、逸らしたままの顔でチラと目だけでモーツァルトの様子を伺った。
彼は暫くキョトンと私の顔を見つめていたが、突然堰を切ったようようにケタケタと笑い出した。

「あの堅物の君が!!!しかも皇帝陛下を音楽ド素人だって!?はぁ〜〜〜これは傑作だ!!!向こう100年こんなに面白いことはない!」

文字通り腹を抱えて笑うモーツァルトを見ているうちに、先ほどの無思慮な発言に対する後悔の念が勝り、頭に登った血液が引いていくようだった。

「わっ...私は何もド素人とまでは言っていない!それに、急に体制を変えられた宮廷楽団を取りまとめる公務が忙しいのは事実だ...」

そんな弁明も虚しく、モーツァルトはこれは傑作と、空いでいる方の手で私の肩をバシバシと叩きながら笑い続けていた。
相変わらず下世話な話が好きな男である。

こうなったモーツァルトは暫く何を言っても無駄なことを知っていたサリエーリは彼の笑い転げる様子をやれやれといった気持ちで眺めていた。

自分の肩を無造作に叩く手が、鍵盤の上ではなぜあのように美しく走るものか。
あの美しい旋律の数々を生み出す人間が、ここまで大口を開けて人の憎しみを笑い飛ばすとは誰が想像できようか。
相変わらず不思議な男だった。

暫くして、ようやく落ち着いたとみえるモーツァルトは、サリエーリの肩から手を離すとそのまま目元に浮かんだ涙を掬った。

「はぁ〜笑わせて貰ったよ。そういうことなら任せてくれたまえ!今の君を理解してやれる奴なんて僕以外そうは居ないさ。君の復讐劇に付き合ってやろうじゃないか!」

「復讐だなんて!私は何もそこまでのことは_」

「分かってる、その辺も僕なら上手くやるさ、しかも6週間でね。」

そう言って私の目を捉えた彼の瞳には確固たる自信の光が宿っていた。
これから素晴らしい音を生み出すことを疑わない、強くて危うい光だ。
そんな光に充てられたのだろう。私の中で何かがプツンと切れたような、いや、頭の中の霧が突如として消えていくようなそんな心地がした。

サリエーリは改めて背を正し、正面からモーツァルトと対峙した。
年齢も背丈もそうは変わらない同じ音楽狂の神才の目を真っ直ぐと見据える。

「分かった。そもそもこのオペラは既に君のものなんだ、好きにするといい。」

「勿論そうするさ」

「但し、もう1つ頼みがある」

「?」

「君のミサ曲をいくつか借りたいのだ。勿論既存のもので構わない。」

「そんなもの借りてどうするのさ?」

サリエーリの目を自信を持った眼差しで真っ直ぐと見つめていたモーツァルトもやや怪訝な顔をして首を傾げた。
一方で、既にサリエーリの意思は固まっていた。

「戴冠式で披露する。」

「待ってくれ、そしたら君の新作は?」

「新作など無い。」

流石のモーツァルトもこの発言は予想外だったと見える。無理をして作った揶揄うような笑みがただ張り付いているような顔をしている。
モーツァルトが困惑するのも無理はない。
宮廷楽長が宮廷の主である皇帝陛下の戴冠式に新作の用意が無いと言っているのだから。

「君って時々変なところで思い切りが良いよね」

「君にだけ復讐の役回りをさせたくはないのだ。そもそも全ての発端は私なのだから。」

「そういうところは実に君らしいけど。分かったよ、帰りに僕の家に寄ってくれ。最高の作品を用意しておくよ。」

「すまない。」

近頃、モーツァルトとは時々このような小さな同盟を組むことがある。
内容は全て内密。お互い以外にその事を知るものは誰もいない。

但しお互い周りに取り繕うことが億劫だからと、普段はなるべく距離をとっているものだから、周囲からは不仲であるという別の誤解を生む羽目になった。
むしろ、我々としては好都合である。

確固たる意志を持ってプラハでの戴冠式における作戦を告げたサリエーリだったが、実のところ先程モーツァルトの発言が気にかかっていた。

「作曲依頼の話だが、"1つは"と言うことは他にもあるのか?」

その問いかけに、モーツァルトはふいと目線をサリエーリから奥の方へ移した。

「あぁ...丁度同じ時期に"レクイエム"の依頼があったんだ。」

一瞬、僅かではあるが、珍しく躊躇うような_極端に言えば怯えるような_声色を含んでいたように思われたのは私の気のせいであったろうか。

いつもと異なるモーツァルトの態度に、得体の知れぬ不安がサリエーリの心中を掠めた。
そんな気持ちを悟られぬよう、出来るだけ明るいトーンで平常を装いつつ質問を重ねる。

「それはまた、君の好きそうな大作じゃないか。何か気になることでもあるのか?」

「そうじゃないんだが...実は依頼人が__」

モーツァルトが次の言葉を紡ごうとした丁度その時、正午を告げる大聖堂の鐘が高らかに鳴った。

その音を耳にしたモーツァルトはまるで魔法でも解かれたかのようにハッとして視線を再び私の方へと戻すと、今度は慌てたように「あっ」と声を上げた。

「まずい、今日はジェスマイヤーが家に来るんだった!すまないけど、この話はまた後でも構わないかな?」

「あ...あぁ、そうだな。早く戻ってあげた方がいい。」

「すまないね!楽譜をありがとう、どちらにせよ先ずは"僕ら"の大作に取り掛からないとね」

そう言ってわざとらしく片目を瞑ったモーツァルトは軽やかにくるりと踵を返した。
その表情にはいつもの幼い悪戯っぽい笑顔が戻っている。
先程の得体の知れぬ不安だけがサリエーリの胸に残されたのだ。

モーツァルトを扉まで見送ったサリエーリは、離れていく彼の背中を見ているうちに、その心中の不安に耐えかねて思わず声をかけた。

「どちらの曲も楽しみにしている!」

ピタリと歩を止めたモーツァルトは、自信に満ちた笑顔でこちらを一度振り返ると、そのまま何も言わずに通りに消えていった。

『勿論、最高のものを用意するさ』
そう言っているような顔だった。

額に滲んだ汗を夏の風が優しく撫でた。
_____________________

その後、私はこの2つの作品の初演に立ち会うこととなった。

オペラの方は酷評の嵐だった。
「退屈極まりない劇」
「お粗末なドイツもの」
など散々の言われようである。
確かに切り詰められた台本はチグハグなものだったが、モーツァルトのつけた音楽はどれも美しく素晴らしかった。
但し、それは音楽に理解がある者にしか分かるまい。
正にモーツァルトの思惑通りとなったのだ。

レクイエムについては、私はこの初演で音楽に対するこの上ない多幸感と喪失感を同時に味わうこととなった。
彼が亡くなった翌日行われた追悼ミサにおいて、未完のその大作は高らかに演奏された。
あれほど大胆で神聖な曲を、モーツァルト以外の誰が作ることが出来ようか?モーツァルト以外の誰が?

故にこの時、私は将来、私の為のレクイエムを書くと決意したのだ。
モーツァルトとは異なる私のレクイエムを。

【史実について】

私が妄想と現実の狭間でウヨウヨしてしまうので下記に参考にした史実をまとめておきます。

サリエーリとヨーゼフ2世

15歳で孤児となったサリエーリは恩師ガスマンに連れられて1766年、16歳の頃ウィーンへやって来る。
当時宮廷作曲家であったガスマンにより、サリエーリが皇帝ヨーゼフ2世に紹介され、その際に披露したアリアが認められるとその後は常に寵愛を受けていた。
逸話によると、サリエーリが結婚する際の金銭的な困難を、ヨーゼフ2世は昇給という形でサポートしたらしい。
9歳年下の真面目なサリエーリを溺愛してたんだろうな...

レーオポルト2世の治世

1790年2月にヨーゼフ2世死去すると、その後、ヨーゼフ2世の弟レーオポルト2世が皇帝として即位する。
ヨーゼフ2世の啓蒙思想に則った各種改革はやや早急だったこともあり、当時国内外から批判を浴びていた。
その為、即位したレーオポルト2世はその治世を立て直すべく人事改革に着手し、その結果、ヨーゼフ2世の作った宮廷楽団の入れ替えも行われた。

モーツァルトによる請願書

1790年春、モーツァルトが次席宮廷楽長への昇進をレーオポルト2世に打診。
「ことに、あの非常に腕の達者な楽長サリエーリが教会様式に専心しておらず、一方、私は若い頃から完全にこの様式に通じてきただけに一層請願したい気持ちであります」
人事改革中のレーオポルト2世は勿論これを却下した。

モーツァルトの幼少期ウィーン旅行

モーツァルトは父親と共にウィーンへ3回音楽旅行へ行っている。
1773年、17歳行った3回目の旅行では、その前年にサリエーリが当時22歳で作曲した《ヴェネツィア市》の第二幕フィナーレの主題によるピアノのための六つの変奏曲(K.180)を作曲している。

"Lieb papa" (親愛なるお父さん)

サリエーリの弟子からの証言によると、モーツァルトが宮廷図書館内の古楽譜を見せてもらう際に、サリエーリに対してこのように呼びかけたとされている
史実怖すぎるだろ...(饅頭怖い理論)

スヴィーテン男爵

言わずと知れた古楽マニア。
元外交官の為、各地で古楽譜を収集しており、それを用いて毎週日曜午後に古楽による私的演奏会を自宅で開いていた。
男爵は外交官を辞した後、宮廷図書館長を務めており、自宅も館内にあったとされている。
サリエーリの弟子ヴァイグルの自伝には、私的演奏会に参加したサリエーリとモーツァルトについても書かれている
「モーツァルトのフォルテピアノ伴奏で、サリエーリ、シュタルツァー、ダイバー、男爵が歌いました。」
史実が強い。
この古楽演奏会によってモーツァルトの対位法との出会い「バッハ・ヘンデル体験」が生じたとされている。

《皇帝ティートの慈悲》

レーオポルト2世のボヘミア戴冠式における祝賀用オペラ。
本文の通り、元々サリエーリに依頼されていたが、サリエーリが多忙を理由に断っている。
サリエーリが書いたエステルハージ侯に宛てた手紙↓
「宮廷劇場の仕事に専念していた私はこれ(作曲依頼)を辞退しました。けれども私は、それを拒否したことを後悔しておりません。」
後半の火力が高くて好き。
結局、モーツァルトに作曲依頼が回されるも、作曲に残された時間は正味6週間だったらしい。
初演の評判は本文通り酷評の嵐。
一方で、モーツァルトは自作の出来に満足していたらしい。

モーツァルトとコロレド大司教

本物の犬猿の仲。
モーツァルトがまだ故郷ザルツブルクに居たころ、イタリア人音楽家贔屓だったコロレド大司教に対して大きな反抗心を持っており、その後、1781年にコロレド大司教の命によってウィーンで演奏会を行なっている際に大衝突して喧嘩別れをした。
その結果、モーツァルトはウィーンに住むことになり今日に至った。

ボヘミア戴冠式での宮廷楽団演奏

サリエーリはこの式典用の新作は作らず、ウィーンから持参したのはモーツァルトのミサ曲3曲とその他いくつかの宗教音楽のみだった。
前の強火発言を踏まえるとやはり火力が高い。
因みに持参されたモーツァルトミサ曲は、
K.258, 317, 337
加えて、オッフェルトリウム《主の哀れみを》と《エジプト王モタス》の合唱曲もサリエーリの指揮で演奏された。

モーツァルト《レクイエム ニ短調》

モーツァルトの未完の遺作
1791年夏頃、匿名で依頼を受けるも、《皇帝ティートの慈悲》の作曲に追われていた為、結局秋頃から着手された。
未完のため弟子のジェスマイヤーが補完することとなる。
モーツァルトが亡くなった翌日(12月6日に行われた)葬儀にはサリエーリやスヴィーテン男爵も出席した記録が残っている。
葬儀の後、モーツァルト追悼ミサが開かれ、そこでこのレクイエムの完成されていた部分である〈入祭唱〉〈キリエ〉が演奏された。

サリエーリ レクイエム ハ短調

1804年、サリエーリが54歳となった時に完成。
自筆譜には「私が自分のために作曲した小さなレクイエム、アントニーオ・サリエーリ。とても小さな被造物」と書き添えられている。
添え書きの通り、自分の葬儀用に作曲された作品で、完成後は遺言執行者に託されている。
モーツァルトとは異なる温かみのあるレクイエムとなっており、自分の過去作や親密だった音楽家の作品のモチーフが随所に現れる、正に自分のためのレクイエムになっている。
モーツァルトがフリーメイソンの為に書いた《おお聖なる絆よ》(K.148)と全く同じフレーズがサリエーリのレクイエム〈涙の日〉のパートに現れるのは奇跡に近い偶然だと思う。
みんな聴いてね。

【読まなくてもいい後書き】

本当に書きたいところだけ書きました。
しかも、慣れない小説風なので登場人物の描写や視点がめちゃくちゃになりました。
難し〜〜〜!!!

照れ隠しはさておき、今回の主役は題名の通りモーツァルトとサリエーリでした。

モーツァルトとサリエーリと言えば、映画「アマデウス」が現代で最も有名な創作物になるかと思います。
日本国内で言えば、漫画「マドモアゼル・モーツァルト」、ソーシャルゲーム「Fate Grand Order」も有名な創作物になるかもしれません。

いづれにせよ、その原点となる最初の創作物はサリエーリの没後わずか5年後の1830年に出版されたプーシキンの戯曲「モーツァルトとサリエーリ」です。

その内容は、サリエーリの晩年に噂されたモーツァルト毒殺事件が元となっており、天賦の才を受けた自由奔放なモーツァルトを妬んだ秀才サリエーリがモーツァルトの杯に毒を盛るというものになります。

勿論その内容は事実無根の風評に過ぎないのですが、そのスキャンダラスなフィクションは今日まで万人の興味を惹いているという訳です。

そういうことで、今回は、より史実を意識した2人の関係を自分なりに解釈して書きました。

近年、2人の関係がより友好的なものであったとの研究が進んでいますが、現存するモーツァルトの手紙の年代と内容を踏まえると、私としてはその友好的な関係はかなり短期間になってしまったのではないかと考えています。

しかしながら、その短期間の友情も本人達の口から語られることは少なく、その多くは周囲の人間からの情報のみとなっています。

とは言え、その証言を含めた数々の事実を踏まえると、やはりこの2人に暖かな友情があったというのを疑うことは難しいです。
そして、「この2人の短期間の友情はどんな風だったのか」というのが私にとって最大の興味になる訳です。

そんなこんなで書いた短編小説でしたが、やはり私もロマンチストなので、多少の友情のロマンスと歴史のミステリーを織り込んでしまいました。
故に、本文後は事実のみをまとめた部分を作った訳ですが、こちらの事実を踏まえた上で読んで頂いた皆様の解釈をコメントなどでお聞かせ頂けると昇天するほど喜びます。
ぜひ教えて下さいね。

それでは最後まで読んで頂きましてありがとうございました。
また何処かでお会いしましょう。

maru。

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