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続・デビュー

ブラジャーの余ったところから
乳首が見えそうだ。


ハッと目が覚めた時にはそのような至福のシーンが、
頭の中でカタカタカタカタと文字化されて浮かび上がった。

目の前には女の子が寝ている。

どうやら激しく宅飲みをして、
床にそのまま寝てしまったようだ。

頭がガンガンする。

まわりにはあとおそらく3人ほどいるはずである。

音を立てて女の子が目を覚めてしまわぬよう、
首の筋肉が許す限り周囲を見回すと時間が見えた。
まだ5時。である。

始発もまだ動かない。
みんなもまだ寝ている。
ということであとはどう、
目の前の女の子の乳房を鑑賞しようかという時間になった。

まず一計は「うーん」と寝返りの振りをして
さらに近づくというパターンである。

女の子が目を覚まさぬように懐に入り込むよう、実施。

成功。である。

「うおおお」(小声)

近づきすぎて、寝息もかかってくる。
逆にこっちは息はとめっぱなしである。

ここまでくると男である。

キスがしたい。のである。

下手したらいままでの友情関係にも亀裂をいれてしまうかもしれない。
ただ、まだ半分頭も酔っていたこともあり、
脳内決議がおりた。

配置的にも他の3人はテーブルを挟んで向こう側、
家の主はおそらく別のベッドで寝ているだろう。

即ち、死角。である。

キスの瞬間、寝顔のかわいさにも味を覚えた。
しばらく寝顔を見つめることにした。

数分後..

すると目の前の大天使がうっすらと目を開け、
見つめ返してきたのである。

高まる鼓動。

自給自足で自分の口臭のチェックを、
口と鼻の両間で実施する。

見つめ合うふたり。

瞬きの音が今にも聞こえそうである。

しかし、不思議なことに次の瞬間には

キスをした。のである。

(「すまん、祐介、、!」)

と、心の中で謝りながら、
口の中では、甘くてたまらないものを舌先から全身で感じていた。

帰宅途中、

「これが大学生か。」

その男の口元はいつもに増してにやけていた。



そして数ヶ月後。


祐介と僕はテニスサークルで、
テニスもやるけど、ほぼ飲みメンとして、
いかに瓶ビールを一気飲みで空けるか、
いかにクリエイティブでキャッチーなコールを考え盛り上げられるか、
と、主に宴会で大騒ぎをしていた。

そして公園などの屋外で、
ストロングチューハイをショットガン飲みするのも、
二人の趣味だった。

公園で飲みすぎて寝ちゃったり、
錦糸町駅南口の交番の前で吐いちゃったり、
「酒は吐いても、弱音は吐かない」とかいう儚いギャグをかましあったり、
早稲田の大学1年生として、
着実に大学デビューを果たしていた。

ブラジャーの余ったところから乳首が見えそうだった女神は、
もう他のイケメンと付き合っていて、
僕も祐介も彼女は結局できないままだった。

「モテたい。飲みたい。楽しみたい。」

そんな二人は、上記のフレーズに加え、
「女に転がされたい」というのを合言葉に、
いろんな女の子と飲んだりテニスをして、
自由な独り身ライフを送っていた。

そんなこんなで月日は流れる。

11月。

そう、早稲田生が全身全霊の魂を震えさせる日。

文化祭大好きな自分にとって、
お祭りが大好きな自分にとって、
とっても楽しみにしていたイベント。

もちろん、
所属しているテニスサークルでも出店をするのかと思いきや、
伝統的に、出店をしない流れになっており、
かなり残念な気持ちになったのを抑えきれなかった。

早稲田祭の当日は、
同じテニスサークルで同じような気持ちを抱えていた祐介とともに、
いつものように、
大学の裏にあるファミリーマートでストロング缶を買い、
駐車場でショットガン飲みの練習をして、
昼間から酔っ払って過ごしていた。

そして酩酊状態で迎えた、
ラストの早稲田祭のフィナーレ。

そこで、出会うのである。

早稲田祭実行委員代表の、最後のお言葉に。

「僕たちは幹部から、
そう今、早稲田のどこかで交通誘導をしてくれている1年生まで、
全員が、この365日のたったこの日のために、全てを捧げてきました。」

二人は震えた。

二人は泣いていた。

オレたちは何をやってたんだって。

何のために早稲田に入ったんだっけ。

何がしたくてここにいるんだっけ。

「何かに身を捧げて一生懸命になって、
早稲田を、世の中を賑わせたい。」


少なからず僕はこう思った。

横にいた祐介もおそらく同じことを思ったんじゃないかな。

その後、二人はサンバのリズムに出会う。

翌日、そのサンバサークルの扉を叩き、
壮大で手荒い歓迎を受けるのである。

気づけば、朝。

横で寝ている、酔いつぶれた祐介は、
ブラジル国旗に身を包まれながらひたすら悶えている。
自分も、頭がガンガンする。
が、何か、気持ちのいい感覚だった。

横を見るともう一人、
昨日知り合ったばかりの女の先輩が寝ている。


ブラジャーの余ったところから
乳首が見えそうだ。


すまん、祐介!


#言葉の企画


さぁみんな「この指とまれ!」