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マイクラの都市伝説

というテーマで書いた昔の創作都市伝説です。




 ツイッター上で見つけた、海外で起きたマイクラの怖い話があったので翻訳してアップします。(本人には許可済み)(一部意訳になります)

 私がホストのサーバーで、一人で遊んでいた時の事。

 そこは友達と遊ぶ専用のサーバーで、いつも遊ぶ人達以外にIPは教えていないため、知らない人が入ってくることはないワールド。

 その日は前日の家作りが中途半端に終わってしまったのが気になって、一人でサーバーを立てて作業の続きをしていた。

 しばらく黙々と建築をしていると、左下に急にこんな文字が現れた。

 Steveがゲームに参加しました。

 思わず「えっ」と声が漏れた。何故ならそんなプレイヤー名は見た事が無かったからだ。このサーバーを知っているのは私も含めて四人だけ。Steveなんて名前の友達は居ない。

 一度作業を止め、どこにスポーンされたのかと辺りを見渡すと、私の家の前数メートルの所に彼が居た。本当にSteveだった。マイクラをしてる人なら分かると思うが、デフォルトのプレイヤーキャラクター、あの浅黒い肌をした黒髪の男……通称スティーブ……が、立って居たのだ。

 そのサーバーでデフォルトスキンのままプレイしているのは私一人で、しかもスティーブではなく女性キャラのアレックスを使っていた。名前も勿論、このキャラにも見覚えはない。

 Steveは微動だにせずそこに立って、私を見ている。動揺こそしたものの、私達はみんないたずら好きなので、友達の誰かが名前とスキンを変えて驚かせにいきなり入って来たのだと思い、ディスコードを確認しに行った。いつも友達と遊ぶ時は通話をしていたので、このSteveの”中の人”がログインしてると思ったのだ。

 しかしその時、グループでオンラインなのは私一人だった。何故だか急に、とてつもない寒気に襲われた。他の三人の名前やサムネはオフラインを示す灰色。それが死んでしまっている事を意味する気がして。

 今ここには誰も居ない。私と正体不明のSteveの二人きり。気味が悪くて仕方ない。

 とは言え、まだこれが友達のいたずらである可能性は大いにある。ディスコードに上がらなくてもマイクラは出来るのだから。

 私はマイクラの画面に戻った。先程と変わらずSteveがじっとこちらを見ている。私はチャット欄を開いた。

「??」

 反応なし。

「誰?」

 反応なし。

「◯◯(友達の名前)? それとも○○? ○○なの?」

 その時、僅かにSteveの体が動いた。そして、チャット欄に返信。

「Steve」

 私は言いようのない恐怖に包まれたが、その怖さを誤魔化すための反応なのか、猛烈にイライラがこみあげてきた。

「ハ、ハ、面白い。もう良いでしょ、誰なの?」

「Steve」

「ねえ、それムカつくんだけど。誰なの? さっさとディスコードにあがって」

 また反応がなくなった。Steveのうつろな青い瞳がじっと私を見つめている。もう私の中の恐怖は、怒りでは誤魔化せなくなっていた。ディスコードをまた確認。やっぱり誰も居ない。

 なんとチャットしようか考えていると、Steveが大きく動いた。私を見たまま後ろに下がり、少し距離を取る。

「ついてきて」

 そう打ち込まれた後、Steveはくるりと私に背を向けて歩き出した。

 私は鋭く息を飲んだ。正面からでは分からなかったが、Steveの背中には大きなナイフが刺さっていて、水色のシャツが真っ赤になっていたのだ。こんな悪趣味なスキンは見た事が無い。

 Steveはちょっと歩いて、私がついてきていないのに気が付くと足を止めた。彼は私を待っている。

 相変わらず不気味な事この上なかったが、このころには少し冷静さを取り戻していた私はこう考えた。こいつが誰にせよ、画面の向こうで操作してる人間が居る。誰が私をからかってるにせよ、きっともっとびっくりするものを用意しているだろうから、さっさとひっかかってこのくだらない遊びを終わりにしてやろう。なにも心配する必要はない、ただのゲームなんだから。

 私はゆっくりとWキーを押しこんだ。Steveは私がやって来たのを見て、再び歩き出した。

 私達は一定の距離を保ったまま森の中に入って行った。ダークオークの森は太い木が立ち並び、おまけに昼でも薄暗くて進みづらい所。静かな空間にかすかな足音だけが聞こえる。

 しばらく進むと、急に画面が驚くほど暗くなった。さっきまで昼間だったのに、コマンド入力で突然夜になったような暗さで、松明なしでは厳しい程。私はその時松明は持っていなかったので、画面に目を凝らして必死にSteveを追わなければいけなかった。

 幸いにもすぐに灯りが見えてきた。どうやら松明が一本立ててあるらしい。近づくにつれて、松明は丸石で出来た小さな何かの上に立てられているのが分かった。一体なんだ、ただブロックが置いてあるだけか?

 違った。その小さな何かは、どう見てもお墓だった。

 Steveはようやく立ち止まり、お墓の横に立って私を見つめた。私は恐る恐るそれに近づき、掲げられている看板に目を向ける。

 Steve 2001-2018

 ぞっとして思わず数歩後ずさる。相変わらずSteveのがらんどうの目が私を見ている……いや、おかしい、Steveの目の色が青から緑に変わっている。私が動けずにいると、チャット欄が動いた。

「掘って」

 体中の筋肉が強張り、心臓がバクバクと高鳴りだす。私は震える指でキーボードを叩いた。

「なにこれ」

「掘って」

「嫌だ」

「君は見なきゃいけない」

「嫌だ」

「掘れ」

「嫌だってば!」

「掘れ、見ろ」

「面白くない、今すぐやめて!」

「掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ掘れ」

 私は歯を食いしばって、壊れそうな勢いでマウスを何度もクリックした。私はSteveを殴った。その途端、Steveがいきなりゾンビに変わったので私は悲鳴をあげた。そのゾンビはマイクラ内に存在するどのゾンビとも違う、真っ赤な……まるで血にまみれたようなゾンビで、私は半分パニック状態に陥ってしまった。

「ここは真っ暗だ」

 Steveがそう発言した直後、私は彼に殴られて死んでしまった。ハートは満タンだったのに、たったの一発で。

 普段ならここで画面に「死んでしまった! ○○は~~(ここに死因/高い所から落ちた、とか、溺れ死んだ、とか)」と言う文字と「リスポーン」「タイトル画面へ戻る」の選択肢が出てくる。しかしその時画面に出てきた文字はこうだった。

「死んでしまった! Steveは背中を刺されて死んだ」

 選択肢は何も出てこない。

 一瞬の間を置いて、画面が真っ暗になった。私はPCの電源が切れたのかと思ったが、ヘッドホンからかすかに音が聞こえてくる。遠くの方で、こもったような調子のざくざく言う音。まるで、壁の向こうで土を踏みしめる足音のような……。

 その小さな音に意識を集中させていた時、何の前触れもなくすぐ耳元で恐ろしい呻き声がして、私は悲鳴をあげて椅子から飛び上がった。マイクラのゾンビの呻き声だ。拍子にヘッドホンが引っこ抜けて、部屋中にその呻き声が響き渡った。しかいよく聞いてみれば、いつもゲーム内で聞くゾンビの声とは違う事に気が付いた。もっと苦しげで、よりリアルで、本物の人間の喉から発せられるような音。

 私は我慢できず、そのまま部屋から飛び出し、住んでいたアパートからも飛び出して、めちゃくちゃに夕方の街を走った。大通りまで走り、人や車がたくさんいる様子を見てようやく安心すると、そのまま近くのお店の壁伝いにへたりこんでしまった。涙は出るし、体が震えてとても動けない。親切な人が話しかけてくれたけど、本当の事は言えなかったので「ボーイフレンドと喧嘩して飛び出してきた」と嘘をついて、足が動くようになるまで座っていた。

 それから勇気を奮い立たせて家に戻ると、PCは何事もなかったようについたままで、ひっくり返った椅子と放り出されたヘッドホンだけが、さっきの事は夢じゃなかったと教えてくれた。

 あれから何日か経ったが、友達とディスコードで話ながら再びマイクラを立ち上げて調べたところ、Steveは勿論、例の墓もどこにも見当たらなかった。友達はそんな悪戯していないと言うし、何が起きたのか今でも分かっていない。彼らは悪戯好きではあるが、悪い人ではないのでこんなたちの悪い事をするとは思えないし。皆は私を嘘つきだとは思っていないものの、話した内容が内容だけに、信じてはくれていないみたいだ。彼が言うには、何かのバグで誰かが入ってきてしまったんじゃないかと言う。

 調べる為に起動して以来、私はマイクラで遊ばなくなってしまった。もしまたSteveが入ってきたらと思うと、とても楽しむ事は出来ない。

 何か変わった事があるかと言われれば特にないのだけど、あの恐ろしい呻き声が時々ぼんやり聞こえて心臓が縮み上がる事がある。

 きっと、ショックが強すぎて幻聴を聞いてしまうんだろう。

 ……幻聴だと、思うんだけど……。


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