密林世界
ピンポーン「宅配便でーす」
「やぁ、いつもありがとう」
全く便利な世の中になったものだ。米味噌醤油、ペット用品から日用品、今やなんでも宅配便で自宅に届く。
それだけではない。不要になった品物は、リサイクル便で必要とする人の元へ送り届けてもらえるのだ。コレも全ての購買記録が一元管理され、不要なモノがあれば必要な人に届けられ、活用する様に社会が進歩したお陰だ。
先日は我が家に2人乗りのオープンカーが届いた。子供も独立し、ドライブが共通の趣味である妻の希望通りの車だった。
それまで乗っていた少々大型のセダンは必要な人の所へ運ばれていった。
お隣の斎藤さんのお宅には子犬が届いたそうだ。子供のいないご夫婦なので大変喜んでいた。
2丁目の田中さんの所へは1歳の女の子が届いたそうだ。目のくりくりとした、奥さんによく似た赤ちゃんで大変喜んでいるそうだ。
会社に出社すると、若手の女子社員である渡辺さんが皆に祝福されていた。
「おめでとう、お幸せにね」「よかったねぇ」
3日ほど前に届いた彼氏がプロポーズしてきたという。めでたい事である。
お昼休みの時間となり、昼食に行こうとした時、笹川部長から声をかけられた。
「深川君、ちょっといいかね。一緒に蕎麦でも食いに行こう」
ちょっと嫌な予感がした。
「じつは昨日ね、婆さんが届いたんだ。ウチには母親が居るんだが、婆さん2人はいらんしね、無理にとは言わんが君のところで引き取ってくれないか」
無理な事を言ってきた。うやむやな返事でその場を誤魔化し、なんとか仕事に戻った。とんだパワハラである。
退社後は同期の蒲生君と焼き鳥屋で一杯呑んで行く。
「深川〜、実は女房がリサイクル便で運ばれちまってな。代わりに届いたのがロシアの若い女房でなぁ。お陰で年甲斐もなく励んじまってヘトヘトだよ、うひひひ」と、いやらしく笑う。
ちょっと羨ましいなぁと、妻の顔を思い浮かべる。
帰宅してそろそろ寝ようかという時にいきなりピンポーン。
ダダダとなだれ込んできた男達は手際よく、俺はあっという間に段ボールに詰め込まれた。
あ、くそ、女房に先を越された。
まぁしかし、新しい出会いがあるかもしれないしなと、運ばれる段ボールの中で俺はニヤニヤした。
おわり
新しいことは何も書けません。胸に去来するものを書き留めてみます。