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継承者

いつものようにクラハ(ClueHabit)に接続すると、馴染みのメンバーが出迎えてくれる。リーダーのFK以下、皆元気そうだ。

暫くは雑談に花が咲く。貴重で美味しいフルーツの話、近所のコロニーであった面白い話、コスプレ画像を見せてくれるメンバーまでいる。2つの太陽を持つ惑星の話も興味深い。

取り止めのない会話が、日常という確かな重みから全身を解放してくれるようだ。30分ほど雑談を楽しみ、自作のSSを披露する時間になった。

今日の朗読は3作。初めにGMが「マーズの孤独」を読む。3分ほど続くびょうびょうたる赤い砂漠の描写が素晴らしい。失われた古代の魔法の謎については好みの分かれる所。ラスト、唐突に登場するマイドとは一体何かという説明を聞く。大昔の挨拶ではないかと指摘したが、絶対領域を持つ使用人ではない使用人との事。良く理解できなかった。

拙作は「犬の眼」。ハードボイルド風にまとめた作品だが、時空列が分かりにくいとの評価。そもそもなぜ猫という小動物の目線なのにタイトルが犬なのだという矛盾を酷評される。犬の眼球を移植された猫という設定は失敗だ。キャットファイトの部分は概ね好評だったが、ラストの会話がガニメデ方言はあり得ないと指摘される。少したそがれた。

リーダーのFKは「廻り道」を朗読。パートナーからのお題は下駄だったそうだ。難解なお題を毎回提供するパートナーの博識に脱毛した。内容は、偶然見つけた古代の記録にある下駄の存在意義を、日常の労働を通して直感的に分析し、考察する話だった。それにしても平らな板に3箇所の穴が空いた下駄とは一体なんだろう。呪術に使ったと言われる仮面みたいなモノなのだろうか。真実は分からない。残念なことに、最後の部分でハイパー恒星間通信が乱れ聞き取れなかった。ラストが気になる。

突然画面が乱れる。

「そのまま動くな!君たちの違法通信はこちらで捕捉している。」

モニターに映し出された連邦違法文化監理官が表情を変えずに告げる。

「散々手こずらされたが証拠は押さえた。諸君の身柄拘束には保安ロボットが向かった。もう到着する頃だ。禁止されている古代文化の継承は重罪だ。脳の改造後、辺境惑星で開拓民として一生暮らすのだ。」

ついに私達の活動は露呈した。SSという古代文化を継承してきた我々の活動もコレで終わりだ。

FKのオチの部分が聞こえなかった事だけが悔やまれる。私はドームの外に広がる青いヘリウムの海を見つめてため息をついた。


おわり

新しいことは何も書けません。胸に去来するものを書き留めてみます。