ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021/感想(ネタバレ注意)

嬉しい悲しいどっち?/前置き

宇宙小戦争と書かれて「リトルスターウォーズ」と読める人たちは幸せである、この作品に特別な意味を持つであろうから。
旧ドラえもん、いわゆるのぶよドラ時代の映画の中でも人気の作品の一つであるこれがリメイクされると聞いたとき、多くの旧ドラファンは驚き、動揺し、期待したことでしょう。新ドラえもん(いわゆるわさびドラ)になってドラえもんから疎遠になり、ようやく最近復帰した僕もその一人です。
説明するまでもありませんが、今作に関しては宇宙とはいえ独裁者とのリアルな戦争(内乱)がテーマとなっており、現代において子供向けアニメのライン的に難しい作風のそれは、2015年に「宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」としてお話の冒頭は同じながらも内容が「戦争」から「英雄譚」へと書き換えられて事実上のリメイクがなされ、あぁやっぱり現代において流石に小学五年生が戦争する話は難しいよねーしゃーないしゃーない、と誰もが思ったはずです。そう、2021が発表されるその時までは……。
なんだよ出来たんじゃないか、などと口走るほどもはや若くない僕たちは、この作品がどう「リメイク」されるのか不安半分期待半分で一年近くおあずけをくらい、前作「新恐竜」が多くのもはや若くないドラファンの地雷を踏みぬいてしまった上で、なんということか世の中の方が「SNSで見る戦争」という出来の悪いSF小説みたいな状態になってしまったタイミングという、何もかもどうしようもない状態の中で劇場の重いドアを開ける事となってしまったのでした。

正しい間違いどっち?/前編

長ったらしい前置きを書いたのは、そういった複雑な事情と感情を抱えた僕が宇宙小戦争2021(以下今作)に関して、旧宇宙小戦争(以下旧作)を見たことがなく旧ドラえもんも知らない今の若い子供たちと同じ視座を持つことは不可能であり、よって僕がこれから語る感想でこの作品に目を輝かせた子供や親や新ドラファンの方が一ミリたりとも傷ついたりムカついたりする必要は無く、あなたが感じたその感動こそ正しくて、おじさんはただ旧作の呪いに囚われた揚げ足取りしかできない哀れな間違いドラ老害なんだよ、という事を前提としておきたかったからです。
その上で、呪いに囚われた僕が個人的に感じ、吐き出さずにはいられなかったものをここに書き止めさせていただきたいと思います。


結論から言うと、「マイナーチェンジ」という感覚が一番しっくりくる作品でした。

いや、間違いなく良リメイクだと思いますよ。旧作にあった弱点だけを丁寧に潰しつつお出ししてきた良マイナーチェンジ、丁寧に上品に小さな加点を積み上げ、原作のテーゼを破壊してまでアトラクションファミリーお涙頂戴映画に振り切った前作のような尊厳破壊をすることなく、新ドラえもんとしての宇宙小戦争、2021年に出来る、今の子供たちのためのリトルスターウォーズ、それが「宇宙小戦争2021」です。本当に正しいリメイクだと思います。

だけど、失われたモノも確かにある。

欠点を補うために追加されたものによって、本来あった隠された魅力のなかで、守れたものと守れなかったもの、旧作にあって新作で失われてしまったもの。長所と短所は表裏一体と言いますが、実際この映画で改良されたポイントは、結果として旧作に流れる小さな何かを消し去ることとなっていったのでした。

未来がどうとか理想がどうとか/中編

 では具体的にどういう所が良くて、それによって何が失われたと感じたのか話していこうと思いますが、ここまでですでに気分を害してしまった方には大変申し訳ないと思うと共に、この先を読まない事をオススメします。何しろここから先はただひたすらドラ老害が褒めてんだが貶してんだかわからない駄文を垂れ流す時間になるからです。それでもおじちゃんお薬の時間はまだよそれまで話を聞いてあげましょうという優しい方はこの先にどうかお進みください。

さて、映画冒頭シャトルで脱出するシーンはパピが気絶しているうちに載せられるという形に変えられていましたが、パピが国を離れる事に難色を示す国民思いの大統領だということが強調された大変良い改変だと思いました。
新作ではこのようにパピがただただ理想的な大統領ではなく血の通った10歳前後の男の子として描かれます。しずかちゃんに姉を重ねたり、戦争の現実を知らないジャイアン達に感情的になってしまったりするのですが、それによって特に本作の裏主人公と言うべきスネ夫がパピと直接対話することで自分に出来ることを精一杯やろうと立ち直る改変は感動しました。旧作ではパピとドラえもん一行の関わりは時間的に短いですが、今作では前半のジャイスネ出来杉VSドラのびしずか特撮撮影対決をバッサリカットし、しずパピ人質交換を失敗させることでパピが終盤まで行動を共にすることで、ドラえもん達がパピに協力しようと思っていく感情の動きを丁寧に表現していてそれも良かったです。
しかし、その改変をするために代償となったものも少なくありませんでした。それはパピの姉、今作で追加された新キャラのピイナです。パピの肉付けと、ピリカ星まで救出に行く一行の動機付け維持のためにパピから分離した舞台装置である彼女は、本編中徹底して救われるべき姫として存在し続けますが、パピが人質になると役目を失い半ば空気化してしまいます。最後はパピの涙を受け止める器として丁寧に親の写真のロケットまで出してパピの掘り下げに最後まで活躍するわけですが、今作中彼女自身の掘り下げはあまりされませんでした。
個人的に、パピを掘り下げるためとはいえピイナもまた作品の中でパピと同じように掘り下げられたほうがより素晴らしくなったのではないかと感じました。そもそもパピの人となりを掘り下げるのであれば姉でなく、レジスタンスのリーダとか虐げられる国民の一人とか、パピが大統領としての自分と私人としての自分の間で苦悩する位置にいる相手の方が個人的に好みの展開で好きだったかもしれません。仮にそうであれば最後の「民衆によって」独裁者が打倒される展開において、長の力と民の力両方をキャラクターに乗せて描くことが出来、「自分ができる事を精一杯やるしかない」という、パピがスネ夫に言って聞かせたそれをパピと共に立場を超えて証明する事が出来たはずで、ともかくパピの掘り下げという改良を行った結果、新キャラが既存キャラの引き立て役としてしか機能しなかったように見えて、その点は残念でした。
また、スネ夫がパピと会話することで気を取り直して出来ることを頑張るというのはとても良かったのですが、途中段階で気を取り直しすぎてしまうせいで旧作と同じく基地が襲われるとなった段階で一度逃げ出してしまう点が若干不自然になり(旧作だとこの段階まで気を紛らわしてなんとかついてきているだけなのでまだ自然なのですが)そのあと勇気を振り絞るも旧作においては女の子を一人で戦わせるわけにはいかない、という古臭くはあるがシンプルな動機がパピとの交流があったがゆえにどことなく曖昧になってしまったのも少し残念でした。
普通にパピとの友情で再び奮起する形で良かったような気がしますが、それをするとしずかちゃんの件のセリフを外す必要が発生する可能性があるため難しかったのだろうことは分かるのです。しかし、今作においてはしずかちゃんではなくあえてスネ夫にもっとスポットを当て、しずかちゃんには少し下がってもらうほうが個人的に好みではありました。同じことがパピとのび太の間でもいえ、スネ夫を旧作より掘り下げるのであれば、パピが自ら投降する時もスネ夫との交流でよかったのではないかと思うのです。これはリメイク版大魔境でジャイアンを旧作より掘り下げた結果ペコとの友情関係がのび太とジャイアンの間でフラフラしてしまったのと似ていると感じていて、すべてのメインキャラに晴れ舞台を用意しなければいけないのは非常によく分かるのですが、いきなり決め台詞をいうジャイアンも含め、無理に見せ場を作ろうとしなくても今作はスネ夫とパピの映画にすると決めてもっと改変してくれたほうがより素晴らしかったのではないかと思ってしまう僕がいます。
そしてパピと一行の交流パートが延長された結果、パピの一人で背負いこみ過ぎて独断先行してしまう回数が増え(友達を思えばこそとはいえ)若干独りよがりなまま演説シーンとなり、いや10歳前後のただの男の子を強調したわりに周りに頼れるように成長したりするとかはないのね、なんてちょっと贅沢な思いを抱えたりしてしまったりしました。

あ、今作において出木杉君の使い方が上手かったのはすごく良かったです。ラストのオチに彼がなるのは面白かったし、彼もまた仲間の一人として旧作のように投げっぱなしにされることなく描かれた事に喜んだ人は多かったのではないでしょうか。
ドラコルル長官の声が諏訪部順一さんになったのも良かったですよね、宇宙小戦争において彼の存在が極めて重要なのは知っての通りで、その優秀さは新作でも健在であり、諏訪部さんの声も相まって強敵感が素晴らしかったです。僕は個人的に新開拓のギラーミンを改悪したことを根に持っているので、今作のドラコルル長官がどうなるか戦々恐々としていましたが、良い意味で期待を裏切ってくれました。
それと、今作の戦闘シーンも最高でした。現代戦争の映像でバージョンアップされた無人兵器の射出シーンは恐怖感が凄かったです。特に対無人兵器初戦でのび太が偶然も味方にした天性の射撃センスによって、装甲強度も回避性能も分からない相手に対して「急接近して横っ腹にゼロ距離でぶち込む」という最適解を導いていたのは感動すら覚えました。奴は確実に射撃の神に愛されています。

ですが残念な事にこれらの改変によって、宇宙小戦争で僕が一番重要だと考えている悲壮感が失われてしまいました。
旧作の宇宙小戦争には、全編通じて常に暗い悲壮感が付き纏っていました。旧ドラコルル長官は冷酷でずる賢さを感じる悪い声をしていたし、のび太たちも表向きは明るくふるまっていますが自分達の理念のために現実の戦車(を模したプラモとはいえ)に乗り込んで戦争に突入していくしかない不安と恐怖を抱え、資源衛星や地下に潜伏するレジスタンスからは小さな希望の光で辛うじて立ち続けている儚さがあり、大統領救出作戦の成功率も決して高くないであろう決戦前夜の地下室で弾き語られる「少年期」から、この先に待つ大人の世界という理不尽に必死に顔を落とさず歩いていく少年達の悲哀を感じるのは僕だけでしょうか。
戦争というどうしようもない不条理に対し、せめて「みじめじゃない」生き方をしようとする健気さこそ、リトルスターウォーズという作品の魅力そのものだと僕は思っています。
しかし残念ながら、今作においてこの悲壮感はほとんど取り払われてしまうこととなりました。戦争から感じる恐怖感や正義と自由を貫く高揚感はより高められましたが、悲壮感というやつだけは今の子供たちに見せるのは2021年においては厳しすぎるという事なのでしょうか。それは仕方がない事だと理解しているのですが、それでもなお、その悲惨さこそが宇宙小戦争の良さであると考えている自分としては、残念に感じるポイントとなってしまいました。不幸にも現実の世界において戦争の悲壮感が高まっているタイミングでもあったため、劇中少年少女達が旧作より強化された友情と義憤によって戦争へ深入りしていく事に、より強い危機感を感じてしまう事になってしまったのも、原因の一つだと思います。それは誰のせいでもない、仕方がない事なのですが、どうしても映画を見ながら考えてしまいました。

答えを決めるのはどっち?/後編

さて、良かった感想より悪かった感想ばかり書き連ねてしまったような気もしますが、これらは結局のところ新たに改良された部分によって宿命的に発生してしまったものであって、むしろ旧作の流れやセリフを守るために発生してしまった古い部分と新しい部分の間に生まれた齟齬といったものだと思います。
ですのでこれら個人的に残念に感じたポイントがあったとしても全体としては旧作より良くなったなと思いましたし、トータルとしてこの映画をしっかり楽しむことは出来ました。
実際帰ってからすぐ旧作を見直しましたし、今作もまた劇場で見直したり、原作を読みなおしたりしたいと思っています。

「ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021」は、子供にもわかりやすいようにお話を改良しつつ、無くすべきでないシーンはしっかり入れ込んで原作や旧作ファンも喜ばせるバランスのいい良リメイク作品でした。それを僕は「マイナーチェンジ」と感じてしまいましたが、このリメイクによって今の子供たちがあの頃の僕たちのように目を輝かせているであろう事こそが、答えなのだと思います。


駄文をまき散らしてしまいましたが、僕が宇宙小戦争2021に感じた感想は、以上になります。ここまで読んでくれた酔狂なあなたに、感謝申し上げます。ありがとうございました。



ココロありがとう/あとがき

書き忘れてましたけど、しずかちゃんの牛乳風呂のシーンは今という時代に出来る最大限の表現をしてくれて本当にありがとう。あと全編に渡ってしずかちゃんがずっとかわいい。マジでかわいい。必見。ホントありがとう。

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