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光学的観想としてのカメラ撮影

玄関を抜けると、数ヶ月の以前から据えたままの鍋に雨風に曝されて湛えた花筏が庭をしずかに彩っていた。鍋は母が据えたもの、取り去らなかったのも母のわざからなる。

鍋のうちの花筏

そこに水辺のあることと、そこに散る花弁のあることは、花笠あるもとに現前する。

枝垂れ梅

裏の山では車のかたちにひとときの轍を跡す杉の葉もあり。石蕗、羊歯はくすんでもなお緑をとどめる。

杉の枯れ葉の轍

遺れるものに幸いがとどかずあるだろうか。

落ちそびれたる椿

枯れあり、また繁りあり。そのいずれもあってある。

繁木のもとにあれ坐す石のしずか

それは天然にのみ留まりもせず、建築のうえにも現われる。

或仏具店跡の裏

生え延びる蔦にも根にも劣らず、その美しい窓や排気管の構成に目を瞠る。

埋もれたる室外機
人の根を建築間に見つける

その明暗をばかり追い、たどり着いた非常階段。

なお進み、やがて路地へと入る。朽ちるものと栄えるものの併存が美しい。

廃墟の佇まいする祠の屋根に負う緑の蓑

勾配を辿るうちに寺へと至る。

530年を貫いて名号に帰依を証する石もあり
一念合掌して立ち去る
辻にある家の形
おそらくは本日限りの自転車のにらみ合い

市街地を離れ、このあいだの鳥の足跡を撮影するため北上したが、それどころではなかった。

美しいものだけが美しいのではなく、あることはそのまま美しいものになる。

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