遠州灘の冬の風物詩、西風が海を変える(1)

遠州灘では秋冬になり、釣り場で出会った方とよく話題になるのが、「西風が吹き始めたからそろそろかな」という話。だいたい西風が吹き始めると良型の青物シーズンが開幕するのが遠州サーフのパターン。なぜ青物シーズン開幕に繋がるのかと言うと「ベイトが寄る」という通説があります。ただ、西風の影響によって海の中でどのような変化が起こり、結果ベイトが寄るのかはハッキリと理由がわからず、「西風が吹く→ベイトが寄る→青物の活性が上がる」という暗記で止まっています。このあたりはベイト・フィッシュイーター含む各魚種の生態や、気象情報、海況などが複雑に絡み合ってくると思うので、ゆくゆく時間をかけながら原因を考えてみたいと思います。

今日は手始めに、

西風による遠州灘(海)の変化

を考えてみたいと思います。


そもそも遠州灘の西風とは?

冬になると静岡県西部に吹き荒れる遠州の空っ風。地元にいたら当たり前のことで、学生の時は冬になるとチャリンコ通学の難易度がグッと上がる嫌な季節だという印象です。この遠州の西風の根元は秋〜冬に、アジア大陸から太平洋に向かって吹くモンスーンだそうです。このモンスーンは、乾燥したアジア大陸の季節風が日本海に吹き込み、日本海の対馬暖流の影響を受け、湿度の高い風に変化していくようです。この時の湿気を含んだ風が日本海で雪を降らせる要因になるようです。そして、日本列島の中心部にそびえる日本アルプスの山岳地帯をかけ上り、一気に日本アルプスの高所から太平洋側の平地へ吹き込んでくるようです。これが遠州の西風となるのです。遠州に吹き込んでくる前に、日本海側で水分を使い切った風は乾燥し、この乾燥した西風のせいで、アングラーのお肌がカサカサになってしまうわけです。

遠州灘で西風が吹くタイミング

では、1年のうち、いつ頃から遠州灘に西風が吹くのでしょうか。気象庁が発表している1990年〜2010年に渡る統計データを元に確認してみます。以下は1990年〜2010年における、ある遠州灘エリアの平年値を元にした「月ごとの最多風向き」です。

風向き

冬の風物詩と言いながらも、意外と1年間のうち大半が西風なんですね。風向きだけで見たとき、遠州エリアの風の変化点となるのは、「5月→6月:西風から西南西に」「9月→10月:北東から西に」の2ポイント。アングラーが良型青物を求めて「そろそろかなあ」というタイミングは”少なくとも”10月以降なわけです。「各月の風向き」以外の要素も、もう少し細かく見ていきたいと思います。「風速」を追加してみます。

風向き②

風速を3段階に分け、各月で何日間、その風速に該当する日数があったのかを表している図になります。こう見ると、12月〜3月までにかけての冷え込む時期に西風が10mを超える日が増えていることがわかります。なるほど、これが「冬の風物詩、遠州の空っ風」と呼ばれる由縁ですね。西風10mを超える日は、10月・11月・12月にかけて徐々に増えていきます。10月はまだ吹き始めですから、11月くらいに「そろそろかなあ」のタイミングを見計ってインするアングラーが多そうです。(最多風向きは21年分のデータですが、風速階級ごとのデータは30年分である点だけご留意下さい)もう少し分かりやすくグラフ化してみます。

風グラフ

引き続き、過去30年間分の風速(月別)が10mを超える日数のデータです。12月から3月までは風速10mを超える日が一ヶ月のうち半数を占めます。この期間は、だいたいの日が「西風爆風」なわけですね。

風速と平均気温

オマケで気温も重ねてみます。完全に気温と連動していますね。気温が低い時期は強風の日が多いです。

風速と気温の相関

強い負の相関。気温が下がれば下がるほど風が強い日が多くなり、気温が上がれば上がるほど風が弱い日が多くなる。

遠州の西風は例年、10月ごろから吹き始め5月ごろに収束する。そして、12月から3月で本格的に強風の日が続いていきます。気温が低い時に風は強風を伴う。これが遠州の空っ風の正体のようです。この西風が吹いてくるタイミングや月ごとの風の強さなど、少し傾向がわかってきました。


次に重ねてみたいのは、やはり水温。

月ごとに、過去21年分の「最多風向」と過去30年分の「平均風速」と昨年1年分の平均水温を並べてみました。

風速と水温

話が少し変わりますが、昨年の平均水温を見て気付きましたのは、昨年(2020年)の年末と今年(2021年)の年始は例年よりも水温が低く、本来であれば例年の2月、3月並の水温にまで落ちてしまってます。これは釣れないワケです。さらに脱線しますが、水温の話に焦点を当ててみたいと思います。「水温1℃の変化は気温の10℃の変化と同様」と言う説をよく見かけますもう少し違う、曖昧な言い方でよくあるのは、「魚にとっての1℃は人間にとっての10℃の変化と同様」というものですが、こちらは少し表現が正確ではないようです。「水温1℃の変化は気温の10℃の変化と同様」が正解に近いようです。なぜかと言うと、水と空気は熱を吸収する速さ(熱伝達率)が異なるため、同じ「1℃」の変化がもたらす影響が水と空気では全く異なるということでした。確かにそうですよね。気温が1℃変化したところで人間の体感ではほぼ気づかないのではないでしょうか。一方で、お風呂のお湯だとどうでしょうか?39℃のお風呂と40℃のお風呂では大きく熱さに違いがあるように感じませんか?極端な例で考えると、50℃のお湯、50℃の空気、50℃の鉄板、それぞれ同じ50℃ですが、人体に及ぼす影響は全く異なることが容易に想像がつきます。なので、魚にとってだけではなく、人間にとっても水温1℃の差というものは、気温の変化よりも大きな変化になるのです。さらに、魚は変温動物ですから、適正水温のエリアと連動しながら、快適に活動のできる環境下を回遊していることが理解できます。少し脱線しましたが、風と水温の話に戻りたいと思います。

平均風速と水温の関係

やはり風速と水温の関係性は緩やかに連動しており、風が水温へ影響をもたらすことが確認。ただ、相関係数から見るに、風速よりもやはり気温の方が水温に及ぼす影響は大きいです。気温が低く、風が強い日は尚更水温が冷え込むことが想像できます。ここまでで、西風のこと、風と水温について考えてきました。続いてベイトの接岸とフィッシュイーターの接岸についても考えていきたいと思っていましたが、想定より長くなってしまったので、次回のテーマにしたいと思います。

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