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『74thカンヌ国際映画祭』 コロサレル!

先日終幕した2021カンヌコンペのお話を少し。
まずはコンペの各賞からおさらい。

コンペ部門各賞

<パルムドール>
『Titane』Julia DUCOURNAU(ジュリア・デュクルノー)

<グランプリ>※ダブル受賞
『Un Héros (A Hero)』Asghar FARHADI(アスガル・ファルハディー)
『Hytti N°6 (Compartment n°6 / Compartiment N°6)』Juho KUOSMANEN(ユホ・クオスマネン)

<監督賞>
『Annette』Leos CARAX(レオス・カラックス)

<脚本賞>
『Drive My Car』Ryusuke HAMAGUCHI(濱口竜介) and Takamasa OE(大江崇允)

<審査員賞>※ダブル受賞
『Ha'Berech (Le Genou d'Ahed / Ahed's knee)』Nadav LAPID(ナダヴ・ラピド)
『Memoria』Apichatpong WEERASETHAKUL(アピチャッポン・ウィーラセタクン)

<女優賞>
Renate REINSVE(レナーテ・レインスベ)『Verdens Verste Menneske Julie (en 12 Chapitres)/ The Worst person in the World)』Joachim TRIER(ヨアキム・トリアー)

<男優賞>
Caleb LANDRY JONES(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)『Nitram』Justin KURZEL(ジャスティン・カーゼル)

※名前はカタカナのブレがあるので英語でも表記し、以降はカタカナで表記します。

今回のカンヌ国際映画祭で感じたこと。

まず前提として私は今回のコンペ作品は一つも観ていないし、もちろんカンヌにも行ってません。その事をご理解の上で読んでください。
日本から参加していた濱口監督の『ドライブ・マイ・カー』は見事に脚本賞に輝きました!
スクリーン誌を初めとした現地で批評家が採点している様々なサイトや批評家個人のTwitterなどで見ていた限り、概ね高評価だったのは濱口/レオス・カラックス/アピチャッポンの3人。
そして授賞式。冒頭で審査員長のSpike LEEスパイク・リーが「パルムドールはジュリア・デュクルノーTitane」と言う場面があり(本来最高賞であるパルムドールの発表はもちろんラスト)、みんながこれはジョークだと思った。(ジョークにしては悪質だし、スパイク・リーと周囲は本気で慌てているようだったけど。)
理由はジュリア・デュクルノー『Titane』の評価が軒並み低かったため。
ちなみに各主要サイト各批評家の評価の平均値は4点満点中
<スクリーン>/<カイユ・デュ・シネマ>
濱口=3.5/3.1
カラックス=3/3.7
アピチャッポン=3.4/4

ジュリア・デュクルノー=1.6/1.9


その後各賞が発表されていく中で濱口監督は脚本賞、カラックスは監督賞、アピチャッポンは審査員賞に名前が呼ばれて「これは本当にジュリア・デュクルノーがパルムドール?」という雰囲気になり実際に彼女が再びパルムドールに名前を呼ばれた、というのが事の顛末。

私自身は作品をまだ見ていないので何も言う立場にはいないのですが、どうしても今回の流れを見ていると
“フランス人”(2015年のJacques AUDIARDジャック・オーディアール以来フランス人が受賞していないため)
“女性”(今までパルムドール受賞した女性監督がJane CAMPIONジェーン・カンピオンただ1人しかいないという時代遅れ感を打破するため)
そしてこれからの映画界を担う“若手”というキーワードありきでジュリア・デュクルノーかMia HANSEN-LØVEミア・ハンセン=ラブあたりに狙いをつけて選んでいたようにしか思えなかった。
保守的で権威主義的なカンヌが近年、Bong JOON-HOポン・ジュノ是枝裕和などフランス製作以外のそれも極東の新しい才能に門戸を開いていった事は新しいカンヌを作っていくメッセージなのだと思っていた。
しかし世界的なパンデミックがあってフランス国内の映画産業が大ダメージを受け公開待機作品が大量に溢れる現状では、右傾化・権威主義の復活と新たなポリコレが侵食してしまった。
今回のコンペ作品の中で外国人監督作品であってもアピチャッポンやPaul VERHOEVENポール・バーホーヴェンなどは製作にフランスの会社が入っているし、そもそも2010年代のパルムドール作品で製作にフランスが入っていないのは前出のポン・ジュノと是枝以外には2011年のTerrence MALICKテレンス・マリック 『ツリー・オブ・ライフ』のみ。

さらに今回衝撃的だったのが、カンヌの批評家週間の選考委員もしている日本人の方が「女優賞のプレゼンターだったLee BYUNG-HUNイ・ビョンホンがフランス語で発表前にスピーチをしていた時、会場にいたフランス人ジャーナリストが彼のフランス語の発音を馬鹿にしてゲラゲラ笑っていた」とツイートしていた事。

そして先日発覚したサッカーのフランス代表2選手による日本のホテルでの出来事。

国を代表する場所で起きた事を個人の問題だと片付けて本当に良いのだろうか。
どちらにしても芸術もスポーツもただその作品や競技のパフォーマンスのみで語られる事を願うばかり。
カンヌに関しては1968年のカンヌ国際映画祭粉砕事件を機にコンペとは別に独立した部門として監督週間ができたように、何のための映画祭なのかもう一度見つめ直して欲しい。
(40年以上経っても監督週間や批評家週間の独立選出とコンペを含む公式選出が共存しているという事実は、カンヌのコンペというものが権威的で商業的な要素を捨てるつもりはないという意志の現れなのかもしれない。)

とりあえず各コンペ作品の先頭を切って日本では濱口監督の『ドライブ・マイ・カー』が8月に公開されるので、この目で確認してこようと思います。


映画にコロサレル!
ニシダ

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