「喉が渇き続ける男」
急いだ自転車を止めて
自販機の前に止める男
(ウチのお客じゃない…)
目を離して仕事していたら
「出て来ないんですけど…」
男が私に訴えた
小銭を携え試しにいれても
お金の落ちる音がしない
レバーを押してみたが
百十円入れて戻ったのは
百円だけだった
おかしい
もう一度試しても
商品も買えない
今度はお金はちゃんと戻った
おかしい…
買えないので
立て替えて返金しようとすると
男は五百十円入れたという
仕方なしにレジまで戻ると
男は店に入ってきて
喉が渇いたと言い
店の飲み物を買いたいと
差し引いてお釣りを渡した
男は店の前で
喉が渇いたと言いながら
買ったお茶をグッと飲み干し
再び走り去っていった
すぐさま自販機の会社に電話をし
見てもらった
点検に来た社員は
十円玉と厚紙が詰まっていたと私に見せた
詐欺られた…
男は一銭も入れず
ただ厚紙をコイン入れに器用に詰めて
出てけこないと騙したのだ
その手口と
小金を騙し取る労力に
ただただ呆然とした
小金のためだけに人を欺くのかと
自販機の社員は言った
最近はなかったが
景気が悪くなると
こういう詐欺が増えると
人を欺くほどに
生活が困窮してるのか
男の天秤の小金に
私は負けたのか
喉が渇いたと言っていたが
人を騙して
本当に潤ったのか?
またすぐに渇くのではないか?
男は騙す限り
潤うことはないだろう
ずっと喉は渇き続け
無限地獄を彷徨うだろう
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