見出し画像

失われたもの(「クレヨンしんちゃ新婚旅行ハリケーン 失われたひろし」感想)

はちゃめちゃに勧められたので見たんですけど、「本当にストーリーラインなんとか、ならんかったの!?」と、はちゃめちゃ観ながら慌ててしまった映画です。ハッピーエンドしかありえないのに、まさに足くさならぬ道草の多い映画……。

野原一家が新婚旅行に行く、これはすごくいいんですよ。ただ、これをやるならもっと日常パートを細かくやるとか、新婚旅行に行くまでの描写が丁寧であっても良くない!? って思ってしまう。旅に出てからが本番なのはわかるんだけど……。(画面がつまらないから、日常パートカットしたのかもしれない)

とのっけから不満を挙げてしまうんですけど、べつにこの映画ぜんぜんつまらないわけではない。

失われるのが花嫁ではなく、花婿にあたるひろしなあたりからして、立場を逆転させたお芝居を見ている感覚なわけで、みさえやトレジャーハンターという女性が「勝つ」構図は、最近の風潮を加味して作られているのかもしれない。いや、母は強いのだ、というブレヒトが綴ったように万国共通のお話なのかもしれない。

オーストラリアの僻地・仮面族の部落(漂う差別臭!)と平和な日本の春日部との対比で最後は展開を見せる。綺麗な花嫁と富を得て結婚するのか、それとも春日部に戻ってひもじく家族と暮らすのか。どちらが真の幸せなのか、という命題は、真相が明らかになるまで、観客にも突きつけられている、ように思う。思うけれど、この家族にはそんな命題ははなから機能していないところが、見ていて本当に安心感があって好きだ。

劇中でかかる懐メロをひろしとみさえがそれぞれに歌うシーンはそれだけで胸が詰まるし、ひろしのプロポーズは本当に刺さるし、そして現代の歌姫あいにょんが幕を下ろす……というのがあまりにハマりすぎている。

ファジーでファンタジーな世界を描くのが、クレヨンしんちゃんの映画の特徴なのはわかっているんだけれど、新婚旅行はアドベンチャーなくても十分な冒険なんだよな……とネネちゃんじゃなくても思うのでした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?