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吉本ばなな『N・P』感想メモ


文庫本で買って、一度読んで、書棚にしまっていて、20年ぶりくらいに読み返してみました。

文庫版の解説は村上龍。

【あらすじ】

主人公は、加納風美。夏が好き。
英語が堪能で、大学の研究室に勤めている。

幼いころに両親が離婚し、母と姉と暮らす。
母は翻訳家で、家で姉妹に英語を教えた。
現在、姉は結婚して外国に住んでおり、予知能力的な少し不思議な力がある。
父は不倫相手と結婚して子供を作るが、捨てられて落ちぶれている。

高校生の時、母親の翻訳家仲間の庄司という男と付き合う。
ちょくちょく庄司の家に泊まりに行っていた。
庄司が自殺した前の日にも泊まりに行っていて、当日の朝、異変を感じながらも学校に行くが、彼は自殺する。

その頃、翻訳家の庄司は、英語で書かれた高瀬皿男の未発表の98番目の短編小説「N・P」を日本語に翻訳している最中だった。

男が付き合った女の子が自分の子どもだったという話しである。

作家も自殺しており、その短編を翻訳しようとした人も過去に二人自殺していた。

高瀬の子どもは双子の姉弟(咲、乙彦)で、風美は、庄司と出席した出版パーティで見たことがあったが、話したことはなかった。

道で偶然すれ違い、再会し、交流が始まる。
乙彦が付き合っている萃に声をかけられる。
萃は、高瀬皿男の愛人の娘で、乙彦とは異母兄妹で、98番目の短編小説のモチーフになった人物である。

自殺願望の有った萃は、乙彦の子どもを妊娠したまま失踪し、その後手紙で元気であると伝える。

【感想】

NPはノースポイントで、古い歌のタイトルだと作品内で説明されていました。北極点?かな?

20代前半の若者たちの愛とか青春とか悩みとかがテーマになっています。
作者は、高名な知識人を父にもつ、若い女性の吉本ばななで、ヒット作を連発していました。

ライトノベルやケータイ小説的にあっという間に読み終わりました。
面白かったです。

☆世界系の世界観
世界は滅亡しないけど、狭い範囲で成り立っていてある意味では世界系なのかなと思います。

☆自殺願望
若くて魅力的で破滅的で知識人の子どもである萃に振り回されて、彼女を書いた小説に関わって、中年たちが自殺して、20代の世代は悩みながら生きている。

恐らくこれまでの小説や現実だと自殺するのは若い人が多いので、自殺願望の有る青年に振り回されて中年が自殺するという点は、この作品の特徴の一つなのかもしれません。

☆親子関係
家族を大切にしない父親が、子どもたちへの愛情がゼロではないと見せつつも、死んだり(高瀬皿男)、落ちぶれたり(風美の父)する。

父の愛情も母の愛情も感じられないと子どもは病む(萃)。
乗り越えるべき父が既に死んでいて、また謎が多く、なかなか乗り越えられない(双子)

☆インテリゲンチャ
1990年に刊行された時代に、外国と行ったり来たりしていたり、翻訳家だったりするのは、インテリゲンチャ的な存在で、あるいはスイの母親や風美の父の再婚相手(再婚後に父と離婚しまた別の男に行く)などぶっとんでる系だったり、庶民的感覚からすれば、まあまあ登場人物の誰にも感情移入出来ていません。

バブルの頃の陰キャ&インテリ&お金持ち系の若者のお話し、という性格もあるのかなと思います。

☆ダメな男たち
男性は、父でも、彼氏でも、知識人としても、ダメなキャラたとして設定されているようです。

主人公の父:妻と娘二人を捨てて、愛人と結婚して、息子をもうける。再婚相手に捨てられる。酒に強い。

高瀬皿男:双子の父。小説家。愛人がいる。愛人に産ませた娘と知らずに性的関係をもち、その後も継続する。短編ばかりで長編を書けない。自殺する。

主人公の元彼氏:翻訳家で、48歳なのに高校生と付き合い、自分の借りているマンションの部屋に泊まらせる。しかもその高校生の彼女は仕事仲間の娘である。自殺する。

双子の弟:自分の異母兄妹とつきあい、性的関係を持つ。子どもが出来る。自殺願望がある。

☆現実に向き合う女性たち
女性キャラは割と現実に向き合う設定になっているようです。

主人公:母子家庭で育つが、翻訳家の母から英語を習い、英語が担当で、大学の研究室に勤務している。自殺願望は特にない。傍観者的存在。

母:夫に捨てられたが、娘二人を育て上げ、現在は別の男性と再婚。シングルで働いて子育てする母。

姉:結婚し、外国に居住。

高瀬皿男の妻:高瀬の死後、高瀬の両親と同居して、双子を育てる。シングルで肩身が狭くても夫の両親に頼って子育てする母。

双子の姉:高瀬皿男の小説や翻訳家の死の謎を理解しようと、心理学の大学院に進学する。

スイ:母と縁を切り、自力で生きる。愛を知らずに育ち、性的対象として、父に依存、異母兄妹の兄に依存し、自殺願望のあるメンヘラ気質だが、子どもが出来ておろさずに失踪し、別の男性と結婚してその男の子として育てる

スイの母:高瀬の愛人で、商売女。子どもへの愛も薄い。キャラ付けも薄い。子どもを放棄する母。

主人公の父の愛人:愛に生きる女。好きな男が出来ると乗り換えるタイプ。キャラ付けは薄い。子どもよりも男を重視する母。

☆ストーリーの主人公
明らかにスイだと思います。
しかし、スイを主人公にしてしまうと、読者は感情移入できない
振り回される傍観者の眼を通して描いた方が読みやすいです。

スイ:親の愛を知らずに育ち、メンヘラに。自殺願望がある。父の愛人になり、父は自殺。自分を描いた小説の翻訳家が3人自殺。兄と付き合い、兄も自殺願望を抱く。兄の子どもが出来て、自分も自殺しようとしたけど出来なかった。他の男性と結婚してその男の子どもとして育てて行く。毒親からスイが解放されることにより、周りの人の世界も落ち着いた。

☆結論
毒親から親離れする過程を描いた物語とも言えるかもしれません。この小説では、そのためには、自殺するか、子どもが出来るかの二択で、結構えぐいかもです。


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