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エルサレム以前のアイヒマン

600万人以上のユダヤ人を死に追いやった人物が、15年間アルゼンチンに潜みどの様な思想を掲げていたかが克明に書かれている。今までファシズムにおける官僚制の悲劇として扱われてきた「ユダヤ人絶滅計画」が生粋の差別主義者の確固たる信念によって遂行されて取り組みだった事がよく分かった。南米でヒトラーの誕生日を祝い、仲間たちと歴史修正を試みる討議の場を設け、偏った思想をまとめて出版する。アイヒマンがイスラエルによって拉致された後、ニュルンベルク裁判を経ても真実が明るみに出ないまま、アイヒマンの処刑により終わりを迎えた背景には戦時中にナチの恩恵に預かり罪を問われないまま、戦後社会に適応していった政治家や資本家の私的事情が見え隠れする。日本から見るとドイツは第二次世界大戦に対する他国への補償に真摯に取り組んだ印象に映るが、ドス黒い過去は国民社会主義者達が南米時代に綴った未公開文章とテープの中にまだまだ埋もれていそうな気配だ。
時代と場所が変わってもファシスト、レイシスト達の行動は変わらないのだとなと辟易とするが、反知性を好む冷笑主義に立ち向かうには、能動的な学び即ち読書が不可欠であるため、ナチ関連の書籍は継続的に読んでいこうと思う。安全保安を理由に公開されていない文章もステークホルダーが寿命を迎える頃には順序公開されて行くだろう。真実と向き合い歴史修正主義に毅然と立ち向かうのは、未来を生きる私たちの使命だと思う。

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