PL学園硬式野球部1年「憂鬱な5限目編」

5限目の現代国語の授業。睡魔とこの後の練習についての不安で心はぐちゃぐちゃになっていた。
学校で過ごせる時間は残り50分。1時間後にはユニフォームに着替えて、グラウンドに向かって走らなければならない。想像するほど吐き気がするほど憂鬱な気持ちになった。

「ザンナオ「の授業はマジメに受けろ」

入学当初、先輩に寮と学校のルールを叩き込まれているときに、教えられた唯一学校でのルールがこれだった。
ザンナオとの異名を持つ先生は現代国語の一年生の担当だった。風貌はワンピースに出てくる四皇の一角、ビックマムによく似ており言動や覇気はビックマムそのものだった。各町のお山の大将が集まるPL学園の野球部の生徒をもってしてもザンナオに抵抗することは出来なかった。

ザンナオに抵抗すればメンバーからもバズされるという都市伝説まで出回っていた。

そのため、僕たち1年は唯一、現代国語の授業だけは眠らずに真面目に受けていたのだ。決まって5限目にある現代国語の授業はいつも空気がピリついていた。

他の授業では考えられない光景が目の前に広がっている。いつもマイ枕を持ってきて始業のチャイムから終業のチャイムまで寝ている野球部の部員たちが全員背筋を伸ばして、ノートを広げて黒板の文字を板書していた。当然僕もそのうちの1人だった。

ザンナオは常に覇気を纏って授業をするので僕たちは1秒たりとも気を抜けなかった。今考えてもザンナオは不思議な存在だった。年齢は50前後(推定)でもちろん暴力は振るってこないし、大きな声で怒鳴ることもなかったがみんながザンナオを恐れて平伏していた。

ザンナオは飴と鞭を巧みに使い、僕たち硬式野球部の生徒をコントロールしたいた。

「ここまで板書したら眠ってもええで」

ザンナオは毎回この決まり文句を発する。僕たちは素直に一才の私語をせず、黙々と黒板の文字を板書する。真面目に板書をすれば30分でノートを書き終える事が出来るのだった。なので残りの20分を睡眠に充てる事ができた。

練習前の授業は現代国語の時がいつも調子が良かった。それはザンナオがいつも20分の睡眠時間を与えてくれるからだった。他の授業ではフルで50分寝てしまうので完全に体が眠ってしまって怠かったが、ザンナオの授業は20分という仮眠には最適な時間だったので、いつも快調だった。

終業のチャイムが鳴った。僕の心臓がドクドクと高なる。学校の時間が終わってしまう。しかし、時は止める事ができない。腹を括るしかない。ひたすらに憂鬱だが眠っていた体と頭をフル回転させて叩き起こす。

これから練習場に向かうために…。

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