「モノクロの光」

第4章 シャッターを押す
 対話の末、こびとは森の奥深く、5m以上あるユズリハの木の前
まで私を案内した。葉や実の多くが影になり黒い。いつの間にかこ
びとは消え、ユズリハが静かに問いかけ始めた。「人との争いや不
条理なこと、努力では乗り越えられないことがある世界になぜ戻り
たい」「そういう世界の生きた光を写真で切り取りたい。世界は暗
闇ではないと、表現を通じて希望を示したい、そういう思いで写真
家になった。それを貫きたい」「最後に1つ実現してほしい。光が
届かない私に光の写真が撮れるか。それが出来たら解放しよう」。
 私はユズリハと向き合う。自分が今立っているところからはっき
りとした光は見えない。漆黒のもさもさとした葉が、黒のグラデー
ションで見えるだけ。私はライカを握りしめると、こびとの目線は
どうかと土に顔を押しつけ寝そべり、木の根元にカメラを向ける。
 ファインダーを通して見る世界は現実世界よりも鮮明なことがあ
る。それは、自分が覗いた先の世界とシンクロしてこれを撮る、と
いう思いがそこにあるから。真っ白な気持ちで撮ろう。自分を導い
てくれたこびとが見ている世界で、どんな光があるのか。被写体と
向かい合う時の感覚を、機能としてカメラに乗せることはできない。
でも自分なりのアングルを見つけた瞬間、それまで見えてなかった
新しい何かが見える。私はこびとへの感謝、ユズリハとの対話を思
い出しながらファインダーを覗くと、うっすら黒が和らぐ箇所が幹
に見えた。何としてもこの光が写って欲しい、強く願いながらシャ
ッターを切る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?