小説こころ④ メンクリ

 小説こころ④ メンクリ
 
 今日も世界は僕だけを置いて順調に回っているらしい。
 
 先日いいことがあった。いつも昼飯を外食しようとすると、混んでいたり、休んでいたりで上手く食べれなかったが。人づてに噂を聞いて新規開拓をしたのだ。一件は空いてるところが僕好みだったし、いつでも来れそうなアクセスのよさがよかった。落ち込んでいるときは外食に限る。やっと少し落ち着けたような心地になった。次の日も別の店にいったが、ここが旨さが半端なかった。しかも安かった。コーヒーがフリーで、しかもめちゃ上手かった。衝撃の店だった。ということで外食できる場所が増えて私はホッとした心持になれた。外食の新規開拓ばかりして、仕事の新規開拓は一切しないと私は上司に怒られるだろうか。
 
 浜崎伝助チャレンジ開幕。最近ユーチューブに動画をアップしたり、小説をnoteにアップしたりと趣味に取り組んでいる。すると会社でも趣味気分が抜けずに趣味のことを考えてニヤニヤしたりする。不謹慎だろうか。しかし、プライベートでも仕事の心配がよぎったり、仕事のことを考えることがある人もいるだろう。それの逆があって何が悪いのか。仕事中に趣味のことを考えるのもありじゃないか。私は釣りバカ日誌の浜ちゃんこと浜崎伝助検定の4級を取ったと思っている。趣味に力点を置いていきたいのだ。この感じはいい流れだ。今まで仕事にそれなりに力点も置いてきたと思うのだが、職場でまるで評価されない。私の自尊心は大いに傷つき重症だ。
 アニメ「鬼滅の刃」の上弦の鬼あかざの声が聞こえてくる。
「死んでしまうぞ〇〇。鬼になれ~鬼になると言え~」
「死んでしまうぞマーク。浜ちゃんになれ~浜ちゃんになると言え~」
そう、もう私の自尊心、自己有用感は瀕死の重体で、薄いわら半紙一枚の軽さになり、風でどこかに飛んでいってしまいそうだ。
 浜ちゃんにならなければいけない。本家浜ちゃんは上司に怒られているときも、上司の口が魚の口に見えてしまうほど、釣りに熱中しているらしい。そこまでいければ浜ちゃん検定5段と言えるだろう。とにかく趣味というか仕事以外のことに力点を置いていきたいのだ。
 
 ドラマ「スタンドアップスタート」が面白い。人間投資家の竜星涼が豪快に人を巻き込み、起業させて成功に導くサクセスストーリーなのだが。今週は珍しく竜星涼の豪快で元気いっぱいな様子がなりをひそめ、落ち込んでいた。自信を失い、これからどうしていいのかわからないと、人生の迷子になっていた。その時の意気消沈し、生気の失せた顔は私にそっくりだった。
 そして大企業の副社長役の反町隆史は、過去に先代社長からされた仕打ちがフラッシュバックし、恨みを募らせ会社に復讐しようとしている。この屈折した気持ちも私はわかるのだった。たぶん先代社長(兄)のことを好きだったからこそ尚更、された仕打ちが傷ついたのだろう。好きだった分だけショックもより大きくなる。落差が激しくなる。そしてその仕打ちがいつもフラッシュバックする反町も可哀そうだと思う。私も復讐こそしないが、同じ気持ちがわかる。最終回に向けてなかなか楽しみなドラマである。
 
 
 
 僕はかかりつけのメンクリに行った。先生と臨床心理士のアヤにカウンセリングをお願いしている。アヤはゴージャスな感じがする華やかな人だ。笑顔に救われたりする。
「最近の調子はどうですか?」
「そうですね、やはり自尊心がくだけちってきつくはあります。近年はずっとそんな感じです。先日も職場の評価が低いことが改めて浮き彫りになり、激しく動揺しました。しかし今は趣味や生活に意識をシフトしようと思って、気持ちの切替えを図っている最中です」
「そうですか、あまり思い詰めずに、目先を変えるのはいいかもしれませんね。前回お薬を減らしたいと言っていましたが、どうしますか。変えない方が良いですか」
「いえ、少し減らしながら様子を見たいです。ダメだったらまた戻します」
「わかりました。あるがまま、を受け入れてそんな自分を認めてあげて下さいね。仕事だけが人生じゃないですし」
「はい、少し気を楽にして生きて行こうと思います」
 
 診察を終えてアヤが次回の予約を取ってくれた。
「アヤさん、お仕事は楽しいですか?」
「やりがいはあるけど、忙しくて大変です。もう少し一人一人と向き合えればいいんですけど」
「そうですか、どこも忙しくて大変ですね。無理せずがんばってください」

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