小説こころ① 海辺の町で

小説こころ① 海辺の町で

 私は悩んでいた。いつだって小説を書く時は悩んでいて、その鬱憤をはらすべく小説を書くのだった。存在がほこりのような自分、透明人間のように扱われる自分、そんな自分にうんざりしながら、今日も動かない体で僕は生きているのだった。
 そしてひどいことをされた!とひどいひどいと出血多量な心で泣き叫びながら、自分のことばかりに注意を向けていた。自分のことばかりではないか、それでは辛いのは当たり前だ、と誰か偉人が言っていたような気がする。外に注意を向けるのだ。もっと他人に関心を持って、社会に関心を持って。そんなことをひらめいてみるが、上手くできるのだろか。

「いらっしゃませ」
感じのいい接客に僕は現実に引き戻された。ここはよく行くスーパーだ。ネームプレートを見るとリカと書いてある。何だかバンドでもやっているような髪型の子で、僕は気になった。そのスーパーにはもう一人そんな感じの子がいてマドカとネームプレートに書いてあった。
 あるとき僕は気になってリカに聞いた。
「君たちバンドやってるの?」

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