見出し画像

第72回・第33回全国高等学校駅伝競走大会 観戦記

本日2021年12月26日に、京都で男女の高校駅伝が開催され、女子は史上最多5回目となる仙台育英(宮城)、男子は二年連続11回目の世羅(広島)が優勝を飾りました。

歴史的な寒波到来で、ここ松本も氷点下に冷え込んでいたので、朝から部屋に籠もって、NHKのライブ中継を食い入るように観戦していました。共に47チームで競った女子の第33回(10:20~)、男子の第72回大会(12:30~)を、駅伝観戦歴40年を迎えたベテランの私が振り返ってみます。

【第33回女子】

都道府県予選最高タイム(1時間7分12秒)をマークし、30年連続30回目出場の仙台育英(宮城)が、戦力充実で優勝候補筆頭です。過去2年連続2位で、今年こその戴冠を狙う神村学園(鹿児島)、毎年上位を占める立命館宇治(京都)、大阪薫英女子(大阪)、須磨学園(兵庫)の近畿勢が追います。昨年アンカーの驚異的な走りで逆転優勝した世羅(広島)は、今年は強力留学生が不在で苦しそうです。

第1区6.0km(たけびしスタジアム京都~衣笠校前)

寒波襲来で、冷え込む中の号砲です。超高校級ランナーの呼び声高い、仙台育英(宮城)の米沢選手(3年)がトラックから先頭に立ち、一度もトップを譲ることなく独走で区間賞を獲得しました。史上二人目の18分台達成はならなかったものの、2位に30秒差をつける圧巻の走りで、悲願の優勝に向けて大きな弾みをつける先制パンチとなりました。

2位には、立命館宇治(京都)の主将、村松選手(3年)が好走で入り、3位には、長野東(長野)の村岡選手(3年)が続きました。神村学園(鹿児島)は、期待の久保選手(2年)が1分7秒差の17位と出遅れました。

区間賞 米沢奈々香(仙台育英3年・宮城)19分15秒

第2区4.0975km(衣笠校前~烏丸鞍馬口)

首位でタスキを受けた、仙台育英のダブルエースの一人、杉森選手(2年)も米沢選手の勢いを受け継いで快走。連続区間賞の走りで、3区中継時には2位との差を56秒差へと広げました。杉森選手は、狙っていたという日本人区間最高記録(12分35秒)の更新はならなかったものの、不本意な結果に終わった昨年の借り(2区・区間7位)を見事に返しました。

昨年も区間2位で走った須磨学園(兵庫)の道清選手(2年)が、6位から四人抜きで2位へと進出してきました。3位は立命館宇治が粘っています。

区間賞 杉森心音(仙台育英2年・宮城)12分41秒

第3区3.0km(烏丸鞍馬口~北大路船岡山)

首位を独走する仙台育英は、昨年1区2位と好走しているエース格の山中選手(3年)をこの区間に起用。今年3月に発症した故障の影響で、長らくレースから遠ざかっていた実力者は、その悔しさをぶつける意地の走りを披露。2位を守った須磨学園との差を1分15秒まで広げ、見事に区間賞を獲得しました。仙台育英の強さばかりが際立つレース展開になってきました。

区間賞 山中菜摘(仙台育英3年・宮城)9分53秒

第4区3.0km(北大路船岡山~西大路下立)

仙台育英は、この区間でも渡邉選手(1年)が、盤石のレース運びを見せました。中継所手前で手にしたタスキを落とし、タイムロスするアクシデントがあったものの、堂々と区間2位で走破しました。明貝選手の区間賞の活躍で2位に上がった大阪薫英女(大阪)に1分16秒差をつけ首位をキープしました。アンカーに大砲の外国人留学生を持つ神村学園、興譲館(岡山)との差は2分近く広がり、セーフティ・リード状態です。

区間賞 明貝菜乃羽(大阪薫英女3年・大阪)9分17秒

第5区5.0km(西大路下立売~たけびしスタジアム京都)

仙台育英のアンカー、須郷選手(1年)は、将来のエース候補の呼び声高いホープ。先輩の米沢選手に似た伸びやかなフォームで淡々と距離を刻み、1時間7分16秒で優勝テープを切りました。(区間5位)

神村学園は、1分51秒差の5位でタスキを受けた、3000mの高校歴代最高記録を持つカリバ選手(1年)が自慢のスピードで追い上げ、一時は2位まで上がったものの、ゴール前に大阪薫英女のエース、水本選手(3年)に抜き返され、3位に終わりました。区間賞は13人抜きを演じてチームを5位まで押し上げた興譲館(岡山)のエスター選手(3年)が獲得しました。

区間賞 ワングイ・エスター (興譲館 3年・岡山)15分14秒

勝手に寸評

優勝 仙台育英(宮城) 1時間7分16秒
2位 大阪薫英女(大阪) 1時間8分22秒
3位 神村学園(鹿児島) 1時間8分23秒
4位 立命館宇治(京都) 1時間8分59秒
5位 興譲館(岡山) 1時間9分45秒
6位 須磨学園(兵庫) 1時間9分46秒
7位 長野東(長野) 1時間9分51秒
8位 諫早(長崎) 1時間9分54秒 

昨年の大会で、外国人留学生の最終区での快走に連覇を阻まれ、3位に敗れた仙台育英が、今年はトップから一度も首位を譲らず、横綱相撲で見事に雪辱を果たしました。

女子駅伝は、出走できる選手が5人と少なく、区間あたりの距離も短いことから、有力選手が揃う1区での出遅れは致命傷になります。仙台育英の1区・米沢選手の走りはまさにエースの仕事でした。チームの絶対的エースが期待以上の快走を見せたことで、他チームに焦りを、自チームには安心感をもたらしたと考えられます。

同校のOBで、東洋大学駅伝部で主将も務めた釜石慶太監督は、2012年に女子監督に就任して以来、これが3度目の優勝で、その選手育成、チーム作りの手腕は高く評価されています。特に今回の優勝は、飛び抜けた実力を持つ外国人留学生抜きでのものであり、価値あるものと考えられます。

【第72回男子】

都道府県予選最高タイム(2時間3分35秒)をマークしているのは、西脇工(兵庫)です。ただ、本大会での優勝候補の筆頭は、連覇を狙う世羅(広島)と考えられています。さらに各学年にバランスよくエース級の実力が揃う仙台育英(宮城)、今年中長距離3種目の日本人高校最高記録を更新した佐藤圭汰選手(3年)を擁する洛南(京都)、強力留学生と有力日本人選手が融合し、毎年好チームを作ってくる倉敷(岡山)も注目されています。

第1区10km(たけびしスタジアム京都~烏丸鞍馬口)

高校長距離界のトップランナーたちが1区に顔を揃えました。5000m13分台のタイムを持つ選手が12人もエントリーされており、ハイレベルなレースになることは必至です。京都の1区は難コースで、前半のだらだらと続く上り坂を余裕をもってしのぎ、7㎞過ぎからはじまるペースアップによる競り合いが見所です。

雪が舞う中の肌寒いコンディションの中、スタートから飛び出したのは、西脇工(兵庫)のスピードランナー、長島選手(2年)です。最初の1㎞を2分43秒、続く2㎞までを2分40秒と超ハイペースを刻んでリードしますが、精鋭揃いの後続集団も50m程度の差で続いていきます。

日本人高校チーム最高を狙う洛南(京都)の溜池選手(3年)、2年連続1区を走る仙台育英(宮城)の吉居選手(3年)、大会連覇を狙う世羅(広島)の森下選手(3年)、5000mの高校2年生歴代最速記録を持つ佐久長聖(長野)・吉岡選手(2年)ら13分台ランナーを核とする先頭集団は、先行する長島選手を6㎞過ぎに吸収し、いよいよ揺さ振りが始まります。

7㎞を過ぎて、溜池選手(3年)が積極的に集団をリードし、残り1㎞からは区間賞候補最右翼の吉岡選手が満を持して抜け出します。スピードを上げて一時は差を広げたものの、必死に食らいついた好調の森下選手がラスト200mからのスパートで逆転し、区間賞をもぎ取りました。1区の28分台達成は、これで3年連続です。

2秒差の2位に吉岡選手、6秒差の3位に吉居選手とここまでが28分台を記録。健闘の倉敷(岡山)の南坂選手(2年)が4位、溜池選手も後半引き離されたものの16秒差の5位に踏みとどまりました。前半飛び出した長島選手は、30秒差の13位となりました。

区間賞 森下翔太(世羅3年・広島)28分50秒

第2区3km(烏丸鞍馬口~丸太町河原町)

2区は下り基調の短い3kmのスピード区間。

首位で襷を受けた世羅の中村選手(2年)は、2位に上がった800mランナーの洛南・前田選手(3年)に追い上げられたものの、凌ぎ切り4秒差で首位をキープしました。連覇を狙う世羅にとってここまでは、想定を上回るレース運びです。

後続では、西脇工の山中選手(3年)が7分台で走破し、10人抜きで9秒差の3位まで進出。仙台育英は4位、佐久長聖は5位に下がりました。

区間賞 山中達貴(西脇工3年・兵庫)7分59秒

第3区8.1075km(丸太町河原町~国際会館前)

3区は、上り基調の8.1075km。力のある外国人留学生ランナーの爆走などで、チームの順位変動が激しい区間です。

首位を走る世羅・コスマス選手(3年)は、昨年同区で区間記録を作った超高校級ランナー。後続をどんどん引き離すかと思われたものの、4秒差の2位で襷を受けた注目の洛南・佐藤選手(3年)はそれほど離されずにペースを刻んでいきます。

佐藤選手は、後方から追ってくる倉敷・キプチルチル選手(2年)を振り切り、連続区間賞を獲得したコスマス選手にわずか11秒負けただけの区間4位・23分10秒(日本人区間最高)と額面通りの力を発揮しました。

4区中継時点で、首位の世羅と2位の洛南の差は15秒、3位の倉敷とは16秒差しかなく、大砲のコスマス選手で「3区終了時点で2位に30秒差」と目論んでいた世羅としては誤算でしょう。5000m13分台ランナーの塩出主将を直前の故障で起用できなかった世羅としては、やや不安な展開です。

41秒差の4位には大分東明(大分)の外国人留学生・ダニエル選手(2年)が9人抜きで入りました。八千代松陰(千葉)の工藤選手(2年)が区間6位の好走で5位に進出してきました。仙台育英は、主将の堀選手(3年)が区間15位と振るわず、1分31秒差の10位と男女アベック優勝に黄信号です。

4区中継時点で、1時間00分08秒と高校最高記録を14秒上回っています。

区間賞 コスマス・ムワンギ(世羅3年・広島)22分59秒

第4区8.0875km(国際会館前~丸太町寺町)

ほぼ3区を逆走する4区8.0875㎞は、下り基調で、スピード自慢の準エース級の選手が集います。

首位をいく世羅の吉川選手(3年)に、洛南・森本選手(3年)、倉敷・桑田選手(1年)が2㎞過ぎで追いつき、しばらく3人での並走が続きました。中間点を過ぎて桑田選手が遅れ、地力に勝るとみられた宮本選手が主導権を握っているかに見えたものの、残り2㎞あたりから、吉川選手がペースを上げて逃げ、5区中継では8秒差で首位を守りました。

3位倉敷とは34秒差に開き、世羅と洛南の一騎打ちの様相になってきました。残る区間の選手の持ちタイムを見ると洛南に分がありそうでしたが…

仙台育英は、この区間に置いた大砲のムテチ選手(3年)の爆走で挽回にかけていたものの、首位とは1分29秒差とほとんど詰まらず、優勝は限りなく難しい状況となりました。

区間賞 森本陽叶(洛南3年・京都)23分8秒

第5区3km(丸太町寺町~烏丸紫明)


2区を逆走する上り基調の短い3km。優勝を争うチームであれば、この最短区間にも5000m14分台前半の持ちタイムを持つ好ランナーを起用してきます。

世羅と洛南の優勝争いは、後続区間の顔ぶれから劣勢かと思われた世羅の小島選手(2年)が中継直前に猛スパートを見せ、差を16秒に広げました。洛南の岡田選手(1年)は区間16位とやや精彩を欠き、追い上げムードに水を差してしまいました。

3位の倉敷は、昨年7区で区間タイ記録をマークした山田選手(3年)が区間2位と好走したものの、依然として30秒差です。

区間賞 瀬間元輔(東京農大二1年・群馬)8分50秒

第6区5km(烏丸紫明~西大路下立売)  

近年勝負を左右する重要区間になっている6区の5㎞。前半の約3㎞がだらだら上り、以降は一気に下るチェンジ・オブ・ペースの難しいコースです。

首位を走る世羅は、花岡選手(3年生)がスタートから飛ばし、以降をうまくまとめて区間2位と好走し、2位・洛南との差を24秒へと開きました。洛南・児島選手も区間4位と悪い走りではなかったものの、なかなか詰め寄ることができません。

3位は倉敷が守ったものの、首位とは43秒差へと開きました。4位には仙台育英が上がり、5位大分東明、6位佐久長聖、7位西脇工、8位学法石川、9位八千代松陰、10位鳥栖工と8位の入賞争いは熾烈です。

5区、6区と後方を走るチームから区間賞が生まれています。

区間賞 大野聖登(秋田工2年・秋田)14分35秒

第7区5km(西大路下立売~たけびしスタジアム京都)

最終7区は下り基調の5km。優勝を争うチームは、トラック勝負を想定してラストの斬れ味があるスピードランナーを起用してきます。

逃げる世羅のアンカーは、塩出主将の代役となる村上選手(2年)。追う洛南のアンカーは、スピードのある柴田選手(2年)。5000mの持ちタイムでは柴田選手に分があるものの、村上選手は終始安定した危なげない走りで、柴田選手を寄せ付けず、高校国内国際最高記録(2時間1分18秒)に3秒と迫る、2時間1分21秒で堂々連覇のテープを切りました。村上選手は区間賞も獲得しました。2位の洛南も、昨年自らが樹立した高校最高記録(2時間2分7秒)を更新する2時間1分59秒と初の2時間1分台を記録しました。

8位入賞の学法石川のタイムは2時間3分50秒となりました。気温が低く、風の強い悪コンディションでのこのタイムは驚きです。

区間賞 村上響(世羅2年・広島)14分22秒

勝手に寸評

優勝 世羅(広島) 2時間1分21秒
2位 洛南(京都) 2時間1分59秒
3位 仙台育英(宮城) 2時間2分59秒
4位 大分東明(大分) 2時間3分30秒
5位 佐久長聖(長野) 2時間3分30秒
6位 倉敷(岡山) 2時間3分44秒
7位 西脇工(兵庫) 2時間3分50秒
8位 学法石川(福島) 2時間3分50秒 

昨年も痛感した高校生ランナーのレベルアップ、選手全体の底上げが一層進んでいることが感じられる大会でした。

もはや、花の1区で高校生トップを争うランナーならば、5000m13分台半ばで走るのが当たり前という感じです。強力な外国人留学生ランナーの存在が依然として大きいものの、外国人留学生のいない洛南、佐久長聖、西脇工、学法石川の4校が入賞を果たしています。今回、3区で強力な留学生ランナーと互角に渡り合った洛南・佐藤選手のような強い選手が登場することで、高校駅伝も新しい局面を迎えることになりそうです。

サポートして頂けると大変励みになります。自分の綴る文章が少しでも読んでいただける方の日々の潤いになれば嬉しいです。