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寒い夜に聴きたい曲①:ニューヨークの夢

松本は寒いです。明日はもっと気温が下がって冷え込むようです。そんな温もりが恋しい夜には、極上の音楽を味わって暖まるのが最適でしょう。今週は、心に沁みる「寒い夜に聴きたい曲」を選んで、語ってみます。

今夜取り上げるのは、ザ・ポーグスとカースティ・マッコール(The Pogues featuring Kirsty MacCall)『ニューヨークの夢 Fairytale of New York』(1987)です。


クリスマスの定番ソング

この曲は、アイリッシュ音楽にパンク音楽のテイストを込めた独特のサウンドで人気を博した英国のバンド、ザ・ポーグスが、英国のシンガー、カースティ・マッコールをゲストに迎えて制作したものです。1987年11月23日にシングルとして発売され、英国チャートで2位を記録しています。巨匠、スティーブ・リリーホワイトがプロデュースした彼らの3枚目のアルバム『堕ちた天使 If I Should Fall from Grace with God』(1988)にも収録されています。

ザ・ポーグスのフロントマン、シェイン・マガウアン(Shane MacGowan 1957/12/25-2024/11/30)とメンバーのジェム・ファイナー(Jem Finer 1955/7/20-)の作品です。成功を夢見てニューヨークへ渡り、年老いてしまったアイルランド系男女のクリスマス・イブのやり取りを描いた楽曲で、英国では定番のクリスマスソングとして大変人気があると言われます。

マガウアンが、アイリッシュ訛りの英語で、滔滔と歌い上げるロマンティックな前半、その後バンドの演奏とカースティ・マッコール(Kirsty MacColl 1959/10/10-2000/12/18)の歌声が加わって、じわじわと盛り上がっていく構成は本当に見事で、ほれぼれするくらい、美しい曲だと思います。

追悼、マガウアン

シェイン・マガウアンは、長い闘病生活の末、昨年11月に亡くなりました。アイルランド人の両親によって英国のケントで生まれ育ったマガウアンは、1982年に結成したザ・ポーグスで、自らの音楽的才能と伝統的なアイリッシュミュージックを融合した独特の世界観を持つ作品を残してきました。

その傑出した音楽的才能の評価は高く、「英国で最も重要なソングライターの一人」と言われるほど賞賛されている一方、大量のドラッグ摂取とアルコール依存症の影響により、破滅的な人生を送ったと言われます。

歌詞の世界に浸って

4分32秒の短い楽曲の中に、人生の浮沈とアイルランドルーツのヒントを埋め込んで作り上げた世界観に、何度も魅せられます。今日のような寒い夜に部屋で聴いていると、しんみりしてきます。サビとして、

The boys of the NYPD chair were singing "Galaway Bay".
And the bells were ringing out for Christmas day.

というフレーズが、何度も繰り返されます。NY市警の合唱隊が歌う”ゴールウェイ湾”は、アイルランドの有名なフォークソングであり、合唱隊員がアイルランド系移民であることが示唆されています。警官にはアイルランド系が多く、危険な仕事を実直にこなす世渡り下手のアイルランド人の像が浮かび上がってきます。こういった背景を知って聴くと、マガウアンのソングライティングの才能の非凡さが際立ちます。

後半は、今は人生がうまくいっていない男女の罵り合いの歌詞が続きますが、ラストのこの展開は圧巻だと思うのです。

男)I could have been someone. 
女)So could anyone.
     You took my dreams from me when I first found you.
男)I kept them with me babe.
  I put them with my own.
     Can't make it all alone.
     I've built my dreams around you.
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男)俺は何者かになれるはずだったんだよ…
女)誰だってそう思うものよ。初めて会った時に、あなたは私の夢を奪い取っていってしまったのよ
男)いや、夢は持ち続けている。
  俺自身のものと一緒にして。
  俺は、ひとりではやっていけない男だ。
  俺の夢は君の周りに築かれてきたんだ。

私訳

寒い夜に、最高に沁みる一曲です。デュエットの相手には、当初プリテンダーズのクリッシー・ハインド(Chrissie Hynde 1951/9/7-)が候補に挙がっていたというエピソードもあるようで、そのバージョンも聴いてみたかった気がします。


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