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【IRELAND②】アラン島のヴィンセントのカゴ

憧れ続けたIRELANDで最初に着いた街ダブリンは都会過ぎて惹かれず、早々にアラン島への出発地となるゴールウェイへ。

バスから見える景色は、長閑な中にもケルト独特の荒々しく神秘的な雰囲気が感じられて、あの日あのカフェで夢見たままの光景に

うわぁー!!
本当のアイルランドだぁー!!!


と、密かに泣きそうに感動していた。

そして着いたゴールウェイの街。
B&Bのマダムがとっても優しくて、一気にこの街が好きになった。素敵な宿で一晩休み、次の日の朝向かった念願のアラン島。


やっと辿り着いたその島は、出会うもの全てが私の想像の上を行く、常に感動で心が動いているようなそれはそれは素敵な場所だった。

島自体はアランニットと観光名所のドーンエンガスの崖以外は特別なものはない、半日もあれば自転車で一周できてしまうような小さな島。

だけど、風化した遺跡のような石灰質の独特の石垣や、どこまでも続く細く伸びる道。道の脇に広がる草原には羊たちがいて、遠くには荒々しい海と、頭上には真っ青な空。あの日、大好きだったカフェで思い描いていた以上のアイルランドが目の前に広がっていた。


そんな夢みたいな風景の中、草むらに魔女宅のキキみたいに寝転んで、真っ青な空を見上げながら、そこにいられる幸せで胸がいっぱいになった。

そしてドーンエンガスの崖に着いた時、とても会いたかったけど、本当にいるのか半信半疑だったカゴ編み職人のヴィンセント。その人が雑誌の写真そのままにそこにいた。

物語の人が実在してたような驚きと、商売っ気もなくひたすらカゴ作りに勤しむ姿に話しかける勇気もなくて、草の上に並べられたたくさんのカゴを無言で眺めていた。

今でもカゴは大好きだけれど、当時は一年中カゴで過ごしていたくらい大好きで、地元の面識のないお店の人に
「あー、あの一年中バスケットを持ってる人、、。」
と認識されていたほどだった。
(ただのあやしい人😂)

なので目の前に並べられたカゴたちが、私にとっては宝物の山みたいに映って

あれもこれも、
あっちのカゴも、、、全部欲しい!!


という衝動にかられていた。でもそれと同時に丁寧に作られた物たちを簡単にお金で買うことが忍びないような、そんな気持ちにもなっていた。


何分も眺めて欲しいカゴを絞ったけれど、ヴィンセントに話しかける勇気はなくて、このままカゴだけ買ってこの場を去ってしまおうか、と自分の中で葛藤していた。夢に見ていたカゴを買えるだけでも十分嬉しかったけれど、せっかく来たしもう一生来れないかもしれないからと、勇気を出してヴィンセントに声をかけた。

「この雑誌を見て、バスケットがすごく好きですごくあなたに会いたいと思っていたんです。」
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と雑誌の切り抜きを見せながら、そんな風に伝えたら、ヴィンセントはすごく優しい顔で、

「その雑誌知ってるよ。それを見ていろんな日本人の人が来てくれたよ。」
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
そんな風なことを話してくれた。

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そして、ずっと眺めて決めていたバスケットを指差しながら
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
「これ、とっても欲しいんだけれど、
買ってももいい?」 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
と聞いた。

ヴィンセントは
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「もちろん!!ありがとう。」
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と答えてくれて、その貴重なカゴを譲ってくれた。

その後ヴィンセントは、アイリッシュミュージックや島のPUBのことなどを話してくれて、
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「今夜、島のPUBでアイリッシュミュージックの演奏があるから良かったらおいでよ。」
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と教えてくれた。

そのPUBでのライブが気になって、予定を変えて島に宿泊することにしたものの、結局寝落ちしてそのライブには行けず仕舞い。
次の日の朝には、大好きだったその島を離れたけれど、その場所での夢みたいな体験からアイルランドが本当に好きになった。

私が感じたアイルランドは、PUBが人々の生活の一部になっていて、そのPUBにはいつもケルト音楽が溢れていた。その伝統的な音楽は、昔も今も変わず人々の生活に深く関わっていて、アイルランドの人たちにとってとても大切なもので。そんな文化を何て素晴らしいんだろうと思った。そして古くから続くケルト文化独特の神秘的な雰囲気と、そんな文化や信仰を象徴するような荒涼とした自然たち、そこに溶け込むように点在する独特の石の遺跡たち。何よりもそこに暮らすアイルランドの人たちの飾らない、素朴で優しい人柄。

あの日アラン島で手に入れたヴィンセントのカゴは、20年近く経った今も壊れることなく手元にあって、たまに活躍しては大好きなアイルランドのことを思い出させてくれる私にとって大切なものになっている。

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