トレーニングを始める(2019年執筆)

ずっと運動が苦手だった。
家で本を読んでいるのが大好きないわゆる文学少女、大学も文学部へ。
本が友達。自分以外の人たちは輝いていて違う人間に見えた。だから人と話すのは苦手だった。それでもこれが自分だから仕方ない……。そんなインドア人間が外に出るようになった。

きっかけは自転車である。ダイエットとして交通手段を自転車に、気がついたらスポーツタイプの自転車に乗り換え、サイクリングを楽しむようになり、ロードバイク を買っていた。車の免許を持っていなかったので、自転車という足を得てそれまで行ったことがなかった場所に行くようになり、体を動かして美味しいものを楽しむ。走っているうちに他のサイクリストとも知り合い、色んな方と走るようになった。自分のように自転車以外はスポーツをやっていないという人もいたが、元々他のスポーツをやっていた人が多いように思う。他の人と走るのは楽しい。だけど。

一緒に走っていてもついていけない。

やっぱりスポーツをやっていた人は身体が違うなと感心する。スポーツマンは心も真っすぐである。「ヒルクライムが好きなんてすごい!速いんですね」「峠好きなんてクライマーですね!」登るのが好きなことと速く登れることは違う、遅いんですよと何度言っても気を使ってクライマー扱いをしてくださることが多い気がする。

私が一目惚れして買ったロードバイク、 addictはヒルクライムマシンらしい。なのに、乗り手に恵まれなかったせいで登れない不憫な子だ……。いつしかそんなことを思うようになった。

走っていれば少しづつ速く登れるようになれるはず。練習会に参加して強くなるんだ!自転車を買ったお店では定期的に練習会が開かれていることもチェックしていた。ばっちりだ。まず初めにサイクリングに参加をした。朝集合場所に行くと誰も挨拶をしてくれなかった。アウェー感。いざ走るとスピードが全然違った。店長さんが一緒に着いていて下さったが、サイクリングでこれなら練習会は無理だと諦めた。

サークルに入ってサイクリングを楽しんだ。練習をしなくても走れるようになり、自宅から自走で行けるレースとして唯一毎年参加している伊吹山ヒルクライムのタイムも縮まっていった。

ある時、しばらく一緒に走っていなかった友人がサイクリング企画を立ててくれた。サイクリングならついていけないことはないだろう。そう思って参加したが全くついていけないどころか千切れてしまった。力の差があっても速い人が遅い人に合わせることは出来る。だけど、みんな限られた時間で趣味を楽しんでいる。本来3時間で走れるところを私が遅いことで4時間かかるとしたら。余分にかかった1時間で何が出来た?
今の私では一緒に走れない、と思った。でも諦めちゃダメだ、ちゃんとトレーニングをしよう。みんなと走れるくらい速くなりたい。

addictの能力を引き出すことが出来ればまた一緒に走れるはずだ。スコットのバイクにはその力がある。何度も足を着きながらやっとの思いで完走した伊吹山ヒルクライム。あの山を初めて登った時から胸に抱いた野望があった。addictの性能を生かせるようになりたい。addictに相応しい乗り手になりたい……!
休日に乗ることで勝手に速くなっていたが、単純に走行時間を費やすだけではいつかは頭打ちになるだろうと予想していた。ちゃんとトレーニングをしよう。

ちょうど良いことに名古屋では56サイクルの筧五郎氏がローラー教室をしていた。ガチ勢しか通ってなさそうで敷居が高かったが、通っている方が紹介をしてくださることになったので思い切って見学に行くことにした。黄金駅から10分ほどの場所。行ってみると名古屋駅の西側は暗かった。普段栄や名駅といった明るい場所で生活している身には心細かった。
56氏が話してくれたことで心に残った言葉がある。

「トレーニングをして強くなっても決して楽にはならないんだ。」

おおよそこのような内容である。トレーニングをする上で大事なのは続けられることだ、ということだと思った。56サイクルのローラー教室に通ったら確実に強くなると思う。しかしここへ通い続けられるだろうか……。
そんな心を見透かすように、56氏が出してくれた特製コーヒーを倒してしまった。夜道の照明も人通りも少ない道を帰りながら、この道を通える自信が私にはないなと思った。

幸運なことに名古屋でもう1つ自転車トレーニングを行っている人がいた。サイクルスタジオアイの伊藤透氏である。久屋大通駅徒歩1分の場所。明るい。一本道。私でも通えそう!

とはいえ、もう1つ難関があった。こんな所に通っているのはガチ勢だけであろう。自分のような者が混ざれるだろうか……。いつかの練習会の光景が蘇る。不安を抱えながら見学に行くと、ホームページで見る雰囲気と良い意味で実際の伊藤氏は違った。とにかくよく喋る。普通のいわゆるリア充っぽいお兄さんである。ここへ通えば強くなる上にコミュ力も上げることが出来るのではないか?一石二鳥である。

サイクリストのトレーニングとして真っ先に頭に浮かぶのは、パワーメーターを利用したローラー練習である。スタジオでもローラーは行われているが、フィットネストレーナーでもある伊藤氏が重視するのは筋トレである。走りたくば筋肉を鍛えよ。まずは週1回コースで通ってみることにした。始めは自重で出来るトレーニングから。お喋りを楽しみに来ているんじゃないか?というくらいよく話す人たちが多かった。井戸端会議を楽しみに来るような、そんな軽い気持ちで通えばいいんだ。スタジオに置いてある物々しいトレーニング器具が自分にも扱えるようになれる自信はなかったが、他の会員さんを見ていると肩の力が抜けた。


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