生き方が変わった日

自転車を買った日、私の人生が変わった。

初めはダイエットのために自転車通勤を始めた。スポーツタイプの自転車があるということを全く知らなかったので普通にママチャリである。友人にママチャリより楽しく走れるスポーツタイプの自転車があることを教えてもらった。ロードバイクを題材にした漫画も教えてもらった。速く走ることに賭ける少年達の物語を夢中になって読んだが、こんな世界があるんだな程度だった。そのうちにママチャリがいなくなったのでスポーツタイプの自転車に買い替えてみようかな、と思ったがロードバイクにするという選択肢はなかった。なんせ学生時代から大の運動嫌いでスポーツという物には全く興味がなかった。ロードバイクでレース?自分とは関係ない世界の話である。

カゴはついてないけどカッコイイスポーツタイプの自転車。クロスバイクを買うことにした。ママチャリより値段が張るけど折角なので奮発した。性能とかはよく分からないから、予算内で買えて見かけが好きな物にした。40%オフになっていたスコットのクロスバイクである。乗ってみると驚くほどスイスイ進んでくれる。ただ自転車に乗って走っているだけなのに、どこまでも行けそうになる。楽しくて、近所だけでは物足りずサイクリングに出かけることにした。やがて自転車を買ったお店「ワイズロード」で毎週サンデーライドというイベントがあることを知る。店員さんの先導による他のお客さんと一緒にサイクリングを楽しむ企画だ。周りはロードバイクの人ばかりだった。それでもサイクリングが楽しくて毎週のように参加した。他の人はロードバイクだったので、もっとサイクリングを楽しむならロードバイクがあった方が良いのではないかと思うようになった。とはいえロードバイクは高い。エントリーモデルでも10数万はする。一年お金を貯めてスコットのエントリーモデル「スピードスター」でも買おうかなと思い始めた。そこへ登場したのがスコットの名機addictである。

ADDICT is BACK
https://www.youtube.com/watch?time_continue=6&v=-0UO5tkje4c

2014年、スコットはヒルクライムモデルとして好評を博したaddictのニューモデルを発表した。もちろん私は往年のaddictのことは知らなかったが、かっこよさに心を奪われた。マットな黒の車体に控えめに光るロゴが気に入った。

予算より高かったが、絶対に買わないと後悔すると思い、買った。納車されるまで、ひたすらカタログを見る。完全に見た目で購入したが、どうやらこいつは山を登る用らしい。

ならば山に登ってみよう。

初心者でも登れる山を探すと、岐阜にある伊吹山を登る「伊吹山ドライブウェイヒルクライム」というレースがあることを知った。伊吹山は初心者向けらしい。後から考えると、初心者向けというのは自転車で登るヒルクライムとしてではなく、登山での初心者向けだったのではないかと思う。

addictが手元に来るのは春。レースも春。今思うとロードバイク乗り始めてすぐヒルクライムレースに出るというのは無謀だったが、ヒルクライムモデルなら登れるはずだという思い込みがあった。(もちろん今はレースに出るならしっかり練習を行った上でだと思う)その上、会場まで片道約60kmもあった。その段階で走ったことのある最長距離である。往復なら約100kmになる。前後輪を外したりつけたりするのも自信がなかったので輪行するという選択肢はなかった。免許を持っていないので車で行くのもムリである。だが、一度に100km走るのではないから大丈夫だと謎の確信があった。

伊吹山ドライブウェイヒルクライム(以下伊吹山)は、フルコースで約15km平均勾配6.3%のコースを自転車で登るレースである。年に一度この日だけ。普段はドライブウェイのため車でのみ走行が可能だ。残雪状況により距離は10kmに短縮されることが多い。

私が参加した年は幸か不幸かフルコースで開催された。初めて参加したヒルクライムレースで頂上まで登ることが出来たのは幸運だったと思う。レースとはいえその時の私には完走することだけが目標だった。さすがにaddictに乗るとはいえ何もせずに登るのは無謀だと思い、慣れないジョギングをしてみたりした。練習で往復約60kmの二ノ瀬峠を登った。約6kmと伊吹山の半分以下にも関わらず何度も足をつき、途中で諦めたいくらいしんどい思いをして頂上にやっと辿り着いた。こんなので伊吹山を完走できるのか。そもそも会場から自宅まで往復できるのか。

当日は朝3時出発で会場を目指した。何とかギリギリに到着出来たが自分が出走するフェミニンのクラスは既にスタート地点に移動していた。初めての参加で勝手が分からず自分のクラスの出走には間に合わなかった。結果的には良かったのかもしれない。周りは違うクラスの男性だったので逆に焦らず自分のペースで走ることが出来たように思う。何度も足はついたが(周りの邪魔にならないよう休憩する際は注意した)、驚くことに走っている最中に「頑張れ!」と応援してくださる方が何名かいて勇気づけられた。レースで応援されるとは思わなかった。あれから何度か参加して知り合いでもない参加者の方に応援されるという経験はしていないので、よっぽど悲壮感があったのかもしれない。本当にきつかったが必死でペダルを回し続けてゴールまで行くことが出来た。頂上に辿り着けた。

あんなに運動が嫌いだった自分が、ロードバイクで走ることを楽しみ、山を登ることが出来た。それは大きな自信となった。

自転車は一人で走るのも楽しいが、みんなで走るともっと楽しい。ずっと自分に自信が持てなくて人と接するのが苦手だった。だけど人と走りたくて、そのためには人と話せないといけない。コミュニケーションを取るのは下手だけど、自転車に乗ってる人とサイクリングに行くという目的で話すことが出来るようになった。


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