町に、次世代に染み出し始めたTECH BEAT Shizuoka 2024 ハイライト💡
2019年から続けているTECH BEAT Shizuoka。静岡県内企業、自治体とテクノロジースタートアップを掛け算する「共創」により、静岡の未来のビジネスの芽を生み出していくビジネスマッチングプロジェクトだ。私はCarbide Ventures ゼネラル・パートナー / Treasure Data KK 代表の堀内健后と共に立ち上げ当初からプロデューサーとして関わっている。
今年は2024年7月25日(木)〜27日(土)、三日間開催で約140社のスタートアップが出展、90社の静岡県内スポンサーが集まり、約8,000人の来場者で静岡市のグランシップは賑わった。
元々はフランスのVIVA TECHNOLOGYを参考に進めていたが、徐々にTECH BEAT Shizuokaらしさが生まれてきていると感じたのが2024年開催直後の感想だ。それはどのようなポイントなのだろうか? TECH BEAT Shizuokaを形成していくことになりそうな今年のハイライト(注目点)を紹介していきたい。
注:TECH BEAT Shizuokaオフィシャルとしての紹介というよりも、当事者である西村個人がどのようにTECH BEATの魅力を感じているのか?終了直後の感想を中心とした個人的な思い入れを伝えるものとして以下楽しんでほしい。
💡注目点 1) 「ファミリーデイ」の設置
最終日を土曜日とし、ファミリーデイとして静岡の子供達にテクノロジーを楽しく体感する機会を作れたのが今回の大きな収穫だった。VIVA TECHでも最終日は子供達がやってきて最新テクノロジーに触れていることを魅力に感じており実行委員長 & プロデューサー堀内氏とずっと挑戦したいと思っていたことをやっと実現できたのが今年2024年だ。ファミリーデイである土曜日に多くの子どもたちがスタートアップリトプラが提供するデジタル✖️塗り絵、デジタル✖️砂場の遊びに熱心になっている姿を見て「塗り絵の先にあるテクノロジー、砂場遊びの先にあるテクノロジーの魅力」を子供達に体感いただけたのではないかと感じている。
以下の動画の子供達の「がんばれ〜〜」という可愛い応援の声を聞いてほしい。
リトプラの他にも常葉大学が出展するVR自転車や、SXSWにも出展した4Kゴーグルなしで楽しめるVR体験「WONDER VISION」、インドブースのIoTクリケット体験など、多くの楽しめるコンテンツが提供できた。これらは数年前から実施していた静岡企業TAMIYAの体験ブースや、WILLの自動車椅子試乗体験などから「体験の大切さ」が徐々にTECH BEATの魅力として体感する人が増えていったことからの流れだと考える。
また、静岡のバスケチーム ベルテックスが主催の「think shizuokaワークショップ」では子どもたちも交えて未来の静岡を考えるワークショップも開かれた。テクノロジーに触れるだけではなく、子どもたちの意見も大切に吸い上げる企画の併設も注目だろう。
💡注目点 2) 合言葉「7月は静岡に集合」の多面的実現
VIVA TECHを参考にするだけではなく、我々には夢がある。それは「毎年7月は静岡に集合」の実現だ。これはTECH BEAT実行委員長であるしずおかフィナンシャルグループ中西会長の言葉なのだが、TECH BEATは静岡県内企業のスタートアップ商談を第一目的としつつ、静岡県外の方々にもスタートアップソリューションを知ってもらう機会とすることも目的としている。今年は首都圏 & 東海エリアはもちろん高知銀行や広島銀行など他県地銀の方々も静岡に集合した。特にこの部分はプロデューサーの片割れであるCarbide Ventures堀内氏の尽力が大きいが、7月に大きく静岡で各地域の特に地銀の方々が集まることにより、良いスタートアップを知り、各地域に最適なスタートアップを知っていただくことにより、日本全体がスタートアップの力でアップデートしていくことができる。
この部分は東京都内で開催するイベントよりも、TECH BEAT Shizuokaにアドバンテージがあると感じている。
静岡という地域には製造業、農業・漁業、観光業など様々な産業がある。TECH BEAT Shizuokaは静岡県と静岡銀行が実施しているので、県内企業の困りごとは概ね把握ができている。その企業のニーズに呼応するスタートアップを呼ぶので「地域が本当に必要としているスタートアップソリューション」を地域フィルターで呼ぶことができるのだ。よって、TECH BEAT Shizuokaに来ることは都内や海外のスタートアップイベントにいくよりも地域の方にフィットするソリューションに出会える確率が高いことを、声を大にして日本の地域の方に伝えたい。そして、その声が届き始めていることを実感できたのが今年である。
💡注目点 3) インドパビリオンの設置
静岡議連では2023年末に日印友好議員連盟(インド議連)が発足したので、今年はインドを中心とするVCであるTRTL Ventures の協力を得てインドスタートアップが5社インドから来静しインドパビリオンを盛り上げた。 元Apple Siri開発者が作った多言語音声翻訳AI であるCAMB.AIは「ものまね」のように話した本人の声のトーンやスピードを真似して140言語にほぼリアルタイムに翻訳できる。サウジアラビアのTHE LINEスマートシティーでも採用が決定しているという。静岡企業に関心を持ってもらえたところはインバウンドの観光客向けのツアーが他言語で実施できるようになるということ。またブースを訪れていた県内製造業の方は、今まで実現が難しかった多言語対応が可能になることによる新プロダクト案が考えられそうだ、とワクワクしながら話を聞いていたことがとても興味深い。
もう一つインドから来てTECH BEATを盛り上げていたのが、Str8bat (ストレイトバット)IoTクリケットバットだ。このバットを体験できるブースも連日賑わっていた。2028年のロサンゼルスオリンピックの採用が決まったクリケットは日本ではまだ馴染みが薄いが、実は静岡県川根本町はインドのZoho社の日本支社があり文化交流として小学生もクリケットに触れている。大谷翔平も練習に使うなど今後クリケットの需要が伸びていくと思われる中、静岡県 鈴木康友知事もIoTクリケットバットを体験し、カキーンと良い音を立てて一発でボールを仕留めていた。知事は12月にインド訪問をするということで、ビジネスも文化の交流も含めて今後も静岡とインドの関係は深くなりそうである。
💡注目点 4) 静岡の町に染み出したTECH BEAT
せっかく様々な地方から来てくださる方々がいるのに会場であるグランシップ(JR東静岡駅)に来てそのままトンボ帰りされているだけは静岡の魅力が伝えきらない!と考え、今年のTECH BEATは多くの企業の協力を得て静岡市内に多く浸透していった。静岡鉄道が有するホテル プレジオがスタートアップの宿泊向けに協力したり、静岡市内の飲食店がTECH BEATの事後交流会を手伝うなど。
リノベーション店舗、工芸作家の常駐、駐車場を活用した学生たい焼き屋が常時出店するなど創造舎 山梨社長が手腕を発揮している人宿町(ひとやどちょう)では、連日TECH BEAT関係者が集まるネットワーキングイベントが繰り広げられた。また、初年度TECH BEATから参加している江崎新聞店が企画・管理するボーリング場併設の「Bolo」では、浜松 天竜二俣で開催されている「スナック ひろこ」「BAR青田」(元ヤマハ執行役員 大村寛子氏と ヤマハ発動機 執行役員 青田元氏が行うカジュアルな飲み会)が出張版として毎夜TECH BEAT参加者のカジュアルな交流の場を提供していた。
スタートアップと静岡企業の商談も、人と人とのつながりから始まる。今年のTECH BEATは「人と人が気持ちよく繋がれる」場所を考え、場づくりが提供でき始めた年かもしれない。
💡注目点 5) より具体的な指摘となる登壇者各位の発言
TECH BEAT Shizuokaの魅了の一つが、豪華なゲスト登壇者でもある。早稲田大学入山章栄教授、WiL伊佐山元代表、東京大学 松尾豊教授、慶應大学 宮田裕章教授、日本総研東博暢氏らは常連としてTECH BEATの進化を追ってくれている。毎年の変化を見てくれているからこそ、その年にあった形でアドバイスをくれることがありがたい。
初日の基調講演を務めた早稲田大学 教授 入山 章栄 氏とWiL 代表 伊佐山 元 氏からは、未知なる場所を探索し、学び続ける大切さが語られ、TECH BEAT期間中の知の探索方法として「自分の仕事に一番関係ないと思われるブースに行き、会話が通じない居心地悪さを味わって欲しい。その居心地の悪さが、学習欲を刺激し、その学びが新たなビジネスヒントにつながる」と、具体的にブースを巡る際のアドバイスをもらった。
また、二日目の宮田裕章教授基調講演『地域共創で未来をつくる』では、来場者から「新しいことを受け入れない地域住民が変化するためにはどうしたら良いのか?」との質問が出た。宮田氏と一緒に登壇していた神山まるごと高専の松坂孝紀氏の回答は、徳島県神山市の事例として「アート」の活用が紹介された。神山まるごと高専がある神山市は 1999年から海外アーティストも含むアート・イン・レジデンスを行っており、常に新しい人が新しい展示をまちなかで繰り広げている。言葉も通じない、しかも理解が難しいアートを一度受け入れた住民はその後、様々な変化を受け入れやすくなるという。また、静岡アートカウンシル 鈴木一郎太氏のセッションでも「アート」を活用した静岡企業の変化の起こし方が紹介されたのだが、展示するものとしての「アート作品」だけではなく、「思考としてのアート」も新しい変化を受け入れるためのヒントになることが伝えられた。
具体的なDXの社内での起こし方は、スズキの常務役員 IT本部長 鵜飼芳広氏からアドバイスが得られた。経営者を含めて会社全員がDXを自分ごと化することを目的にしているスズキは、経営者も先頭に立ち、率先して「学ぶ」姿勢を見せているという。この「学び」はマイクロソフトや、アマゾン、富士通などから学ぶだけではなく、若手社員からも役員が学ぶという仕組みもあるという。役人・本部長自らが手を動かす体験を通してDXを学ぶことを目的に、ハッキングの経験をしたり、ノーコードでアプリを作ったりしているという。鈴木修会長もChatGPTを学びにきているという(特に呼ばないで自主的にきているということに凄みを感じる)。スズキの中では「意識ではなく行動が大事。人ではなく電子を走らせろ、電子は疲れない。」という言葉もあるという。同じ静岡県内の企業の会社全体DXの話はインパクトがあったと思う。翌日の中日新聞にも当セッションは取り上げられていた。
💡注目点 6) XR人材を育てることが静岡の未来に?!
TECH BEATではここ数年 静岡県が有するオープン点群データ「VIRTUAL SHIZUOKA(バーチャル静岡)」について紹介しているが、今年はより具体的に未来につながる動きが見えた。大昭和紙工が展示するWONDER VISIONの中で体験するVirtual Shizuokaは、満開の河津桜の花見のシーンが紹介されていた。ドローンなどの通常のカメラでは体験できない「花々の間を潜り抜ける」体験ができるのも点群データで集めたデータだからだろうか、非常にスリル満点な花見を体験できた。
最終日、ファミリーデイの基調講演ではVirtual Shizuoka生みの親である静岡県の杉本直也氏と、XRの世界的有名企業Pokemon GOを産んだナイアンティックの村井説人氏、新しく静岡県にXR人材を育てていくことをミッションに静岡県とともに講義を開発している静岡理工科大学の中村啓氏と一緒に登壇させていただいた。静岡理工科大学の新キャンパスはすでに3D 点群データでデータ保存されているという。これから学ぶ学生は自分がいる場所を3D点群データとしても遊ぶことができるそうだ。また、ナイアンティック社が買収したScaniverse(スキャニバース)というiPhone上のサービスは無償で3D点群データとつながるスキャンデータが取れるという。すでに静岡では上下水道の配管工事の際にScaniverseを使って土に埋める前のデータを撮り、Virtual Shizuokaと連動しているようである。目の前のオブジェクトをスキャンし、デジタルツインにあたるVirtual Shizuokaと連動させることにより次世代に残せる3D点群データが静岡ではいち早くアーカイブしていくことができそうである。これは、少し先の未来にとっての大きな財産になることだろう。
以上、プロデューサーとして、登壇者として、関わっている中でTECH BEATの特徴と思うポイントを6つ挙げさせてもらったのだが、本当はまだまだご紹介したいものがある。ただ、全部挙げていってしまうとキリがないの、一旦は6つで終わらせたいと思う。2019年から10回開催している中で、誌面に収まらないほどの面白い特徴が出てきているのでこの続きが知りたい方はぜひ静岡市の人宿町あたりのクラフトビールを片手に語ることができれば幸いである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?