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不確実性のロマンス〜量子コンピューターに恋愛相談をする学生の物語

🧬量子ビットとの出会い

私が"量子"の可能性に触れたのはSXSW 2015、MoMAシニアキュレーターであるパオラ・アントネッリ(Paola Antonelli)が『Quantum Design』に関する基調講演をした時である。彼女はQuantum Designは説明するのが難しいとしながらも、歌川国芳の「猫飼好五十三疋」を例にしていたことが印象的であった。彼女はこの浮世絵を例に、あらゆる状態の猫が一堂に介していることを量子の状態であると述べた。

Paola Antonelli: "Curious Bridges: How Designers Grow the Future" | SXSW Live 2015 | SXSW ONより画像抽出

IBMの量子コンピューターに関するレポート「The Quantum Decade」"量子コンピューターに関する衝撃的な事実(P29)"では、"量子コンピューティングは、量子力学の「確定した状態にある物理システムは、ランダムに振る舞うことができる」という基本原理を利用している"と書かれている。国芳の例で言うと「確定した状態=猫」、「ランダムに振る舞う=さまざまな猫のポーズ」と受け取ることができる。

IBMの量子コンピューターに関するレポート「The Quantum Decade」
"量子コンピューターに関する衝撃的な事実(P29)より抜粋

厄介であり興味深いのはこのIBM「The Quantum Decade」ファクト2で述べられていることである。ちなみにここで書かれている古典コンピューティングとは現在我々が使っているコンピューター(iPhoneなどのスマートフォンの仕組み含む)を指す。

ファクト2:古典コンピューティングにおけるビットは、0 か1 のどちらかであるが、量子コンピューティングの量子ビットは、無数の状態を同時に備え、0 と1 の両方を重ね合わせることができる。コインに例えてみると、コインをはじくと、表か裏かの二者択一だが、コインを回転させると、その次元の可能性は指数関数的に増大する。

IBMの量子コンピューターに関するレポート「The Quantum Decade

このコインの例は面白い。結果に至るプロセスである回転の速度や回数、状態は様々だ。

💡量子コンピューターに関するストーリー着想ポイント

先述のIBM量子コンピューターに関するレポート「The Quantum Decade」を読んでいるとQiskit.orgという量子コンピューターに関するオープンソースプロジェクトに遭遇した。量子コンピューターは一部の企業や科学者のみの特権かと思っていたらそうではない。誰にでもオープンな存在となっている。さて、近未来、自分の恋愛シミュレーションを量子コンピューターに依頼するような人も出てくるかもしれないなぁ・・・とぼんやり思っているというところからストーリー案が浮かんできた。IBM「The Quantum Decade」を読みつつわかる範囲での量子コンピューターが可能とすることをストーリーに入れる努力もしてみた。ただ、私は専門家ではないのであくまでも空想のストーリーであることはご理解願いたい。
それでは、量子コンピューターが身近になった近い未来の学生のバイト先の恋愛事情に関するストーリーを以下に紹介する。

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不確実性のロマンス〜量子コンピューターに恋愛相談をする学生の物語


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僕は夜を徹して"古典的な"コンピューターに向かっていた。ディスプレイから放たれる光が部屋を静かに照らす。バイト先の先輩の笑顔をもっと見たいという強い想いが僕を奮い立たせる。なかなかうまく会話できないし、恋愛経験もないので、どうしたら仲良くなれるのかのヒントが見つからない。世の中に溢れる恋愛分析、小説、YouTuberアドバイスは胡散臭く思ってしまい、より高尚な人付き合いをしたい僕には参考にならない。そんな矢先、ある記事に出会った。それは量子コンピューターを紹介するもので量子ビットの「量子のもつれ」や「0か1かではない」「ランダムな振る舞い」というキーワードが今の僕にはグッと来る。自信のない自分、でも積極的に話しかけたい野心的な自分、どっちを奮い立たせればいいのか?自分自身の葛藤がもつれ、や、ランダム性という言葉にフィットする。さまざまな状態を持っているが常に自分は自分である、この状態をもって勝手に量子ビットに親近感を持ってしまう。

何気なくスクロールして情報を探っていたときに出会ったサイトで量子コンピューターをオープンソースで学べるQiskitというものに出会った。
「僕の状態に似ていそうな量子コンピューターを学べば、バイト先の先輩に振り向いてもらえるのではないか?」馬鹿げた発想とは思いつつ、勝手な量子ビットへの親近感を現実のものにするため愚直に学び始めて数週間。まだまだ量子ビットの振る舞いは掴みきれるものではないが、量子コンピューターを学ぶことにより不確実性を受け入れ、同時に、不確実に見えるものも一歩引いてみると依存関係があるという事実に学ぶことがある。量子理論を学ぶことはバイト先の先輩の笑顔やたまに見せる不機嫌な顔に一喜一憂せずにその存在そのものを掴めるような気持ちに奮い立たせてくれる。古典コンピュータでは絶対にシミュレーションできない心の動きを、この量子コンピュータであれば表現してくれるに違いない、その想いは日増しに強まる。

古典的なビットでは、状況は単純な0または1、YES or NO、成功または失敗である。だが、量子ビットの世界は、これらの状況のスーパーポジション、つまりすべてが可能であることを示してくれる。そのような複雑性と無限の可能性が、バイト先の先輩の心を理解し、そして心を掴む鍵となるのではないかと考えている。だからこそ、僕は量子の世界に魅了され、複雑な現実世界を眺めるための手段を探した。古典的な理論では、全てが確定的で、未来は予測可能と見える。しかし、量子の世界は不確定性に満ちており、僕たちが選ぶ行動次第で、未来は無限に広がっていることを知れるのも勇気が持てる。

僕はQiskitで様々チュートリアルやAPIを学んで見たのだが、自分が欲しいバイト先の先輩とのシミュレーションが実行できるものはなかなか見つけられなかった。量子コンピュータを使った人間行動の予測シミュレーションは一部の専門領域で研究が進んでいるものの、まだ僕がAPIを叩いたら使えるというような身近な存在ではないらしい。しかも、学び続けるうちに、行動シミュレーションを現実のものにするためには、心理学、社会学、神経科学などを学ぶ必要もありそうだし、大量のシミュレーションが行われてからではないと汎用化して使えるものは出てこなそうである。ましてや僕のバイト先や、そのバイト先の先輩という特定の存在をシミュレーションするにはまだまだ先の話になりそうである。倫理問題なども出てくるだろう。特定の人物の行動シミュレーションをすることを許されるのか、否か、という。

僕はただただバイト先の先輩の笑顔が見たく、それをシミュレーションする相手として量子コンピューターに魅力を感じた。ただ、量子コンピューターに頼ると、まだまだ実用化には数十年かかりそうである。そうなるとバイト先の先輩は今のバイトを辞めて別のことをはじめてしまうかもしれない。そんなのは嫌だ!

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僕は夜を徹して"古典的な"コンピューターに向かっていた。ディスプレイから放たれる光が部屋を静かに照らす。量子ビットの動きを学び、様々な複雑性がることを受け入れた僕は、自分の素直な今の気持ちをメモ帳に書き連ねた。明日、シフトが一緒なのでバイト先の先輩に自分の気持ちを伝えるための下準備だ。たとえ断られても、万が一シフトが変わっていたとしても今の僕であれば耐えられる気がしている。個人の複雑性、一歩引いた相互依存関係を量子コンピューターを学ぶことにより知れたことは僕の成長だ。

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