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光る種

手渡されたのは光る種。
少女はその種をやさしく手のひらで包み込み、永遠の眠りにつく母へ言った。

「ずっと一緒だよ…」

*

「ねぇ、あの光る種って、あの後どうしたんだろうね」
「ん?あの予告の?ん〜…土に埋めたかな。あ〜でも、物語っぽく、少女の宝物入れとかに入れて、大切にしていましたとさ、とか。そんな感じ?」

「ずっと一緒だよ、って言うからには肌身離さず持っていたんじゃない?」
「なんだろね、気になるね。じゃ、あの映画始まったら見に行こうか」

映画館を出て、最初に話したのは見に行った映画の話。
散々話して、ふと思い出した。
予告編で見たあの映画『光る種』のこと。

*

それから二ヶ月後、約束通り二人で『光る種』を見に行くことになった。

仕事帰りに待ち合わせをし、食事をしてから映画館へ。
食事中もなんだか話が盛り上がらない。なんだかおかしな日。

映画館へ向かって歩いていると
「ちょっと待って」
「ん?」
「渡したいものがある」
「あ〜!わかったわかった!光る種でしょう?」

両方の手のひらを差し出す私。
そこへ一粒…

「え?やだ、本当に光る種じゃない。あ、そっか、ここで言うわけだ、私が。ずっと一緒だよ…ってね」
「土に埋めるのも、宝物入れに入れるのも、自由。でも、身につけてくれたら嬉しい」

「え?これって、なに?石?まさか、ダイヤとか??」
「光る種。光っているでしょう?光る種だよ。何にする?ネックレス?リング?」
「ん〜…じゃあ、ピアス!だからもう一つお願いね、光る種!」

手のひらに包み込まれた一粒を、やさしく小さな箱にしまう。
バッグの中に入れてもなお、ひっそり光っているように感じる。

「さて、どんな映画だろうね。…あ〜!ずっと一緒だよ…なんて言ったけれど、永遠の眠りについたりしないでね。まったく、映画を見る前に渡すなんて、かなりのギャンブルだよ。バッドエンドだったらどうするのよ」

ブツブツ言いながら、歩く足取りは軽く、心は躍っていた。







***

小牧幸助さんの楽しい企画に参加させていただきました。


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