鑑賞ログ数珠つなぎ「歌うシャイロック」
ある作品を観たら、次はその脚本家や監督、役者の関わった別の作品を観たみたくなるものである。まるで数珠つなぎのように。
前回:映画「最初の晩餐」
数珠つなぎ経緯
いつもはテレビで見ている役者さんたちを、生の舞台で見るのは面白い。ドラマに映画に引っ張りだこの役者さんたちは、映像で見るよりも舞台上では『頑張って』いて、ものすごく人間味がある。
映像は切り取られた世界であって、監督が役者や世界観、ストーリーの見せ(魅せ)方を試行錯誤し、演出されたものを見ている。だけど舞台は、立ってしまったら、やり直しはきかないし、カットもかからない。もちろん稽古で演出をつけられはするし、音響や照明さまざまな演出効果はあるが、舞台上でその瞬間を生きられるのは役者だけである。そして、その瞬間を見ることができるのは、その時の観客だけである。
大阪時代からの役者仲間が立つ舞台でもあったので、とても楽しみに池袋のサンシャイン劇場へ足を運んだ。
あらすじ
シェイクスピア「ヴェニスの商人」をモチーフに書かれた作品。
わたしはシェイクスピアに疎めなので、ちょっと心配だったけれど、基本コメディだし、関西弁でテンポよく繰り広げられるストーリーで観やすかった。
強力なラインナップと彩り
主演は岸谷五朗さん。かなり前だが寺脇康文とのユニット「地球ゴージャス」で一度拝見したことがあったが、今回も舞台上での強さが印象的だった。そして、(おっさんのほうの)マギーさん。『世界は笑う』で見て、「自由に遊ぶ人だなぁ」と感じていたけれど、今回はさらに「異常に遊ぶ人だぁ」とパワーアップしていた。
中村ゆりさんは映像の人だと思っていたけれど、舞台上での力強さと華やかさがあった。和田正人さん岡田義徳さん渡部豪太さんも同じく、舞台で拝見したのは初めてだったけれど、いい意味で貪欲で泥臭く弾けていて、人間味が溢れ出ていた。
真琴つばささんと福井晶一さんは最高に当て書きな役どころで(作・演出の鄭さんの狙い通りだと思う)、本当にイキイキとしていた。途中、宝塚風の衣装で颯爽と出てきたときは、笑ったし、拍手を送りたくなった。歌のシーンも素敵だった。
友人の曽我廼家桃太郎くんは複数役をこなし、歌って踊り、要所要所で笑いのパートを担い、忙しくはっちゃけていた。正真正銘の賑やかしポジションで、ストーリー的にはほぼ影響が少ないのだけど、知り合いということで(無駄に)目が行きがちなのは、役者あるあるなのではと思う。
圧巻のラスト
「ヴェニスの商人」ではシャイロックがあくまでも悪役で、非道な人物として描かれ、パッサーニオやアントーニオ的にはハッピーエンドとなる。
しかしシャイロックは本当に「悪」だったのか?、彼には彼の守るべきものや信念があったのではないか、という点がフォーカスされる(シャイロックはユダヤ人で作中でも侮辱的な扱いを受けている)。
片方から見るとハッピーエンドだが、反対から見ると違う世界がある。「正義と悪」、「善と悪」の判断の難しさというものを感じざるを得ない。また、民族間の問題は常に横たわっていると感じる。実際、この作品は議論が多いと言う。
最後、裁判に負けたシャイロックは、ショックで幼子のようになったジェシカと共に、街を追われることになる。
ラストシーン、しんしんと降り積もる雪の中で、ジェシカを乗せた荷車を引くシャイロックの切なさと力強さたるや、なんとも美しく、そしてかっこいい!歌舞伎のワンシーンを見たような気分。
そう言えば新喜劇にもこんなシーンがあったような…
あれは花びらだったかしら。
やはり舞台ならではの演出、そして空気感、定期的に味わわないといけないな。
次の作品
韓ドラ