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【2021/4/16】当て書き

「当て書き」
演劇や映画などで、その役を演じる俳優をあらかじめ決めておいてから脚本を書くこと。

映画『騙し絵の牙』を見に行った。作品自体は知っていたが、正直映画館に行って見る気はなかった。なのに見に行った理由は「ティーチイン上映」されているからだ。

そもそも「ティーチイン」って?

わたしがこの言葉を知ったのは、事務所の先輩である松原タニシさんの著書『恐い間取り』が映画化され見に行こうと思っていた時に、タニシさんのティーチイン上映の告知ツイートを見たのがキッカケだった。

その時はタイミングが合わず行けなかったのだが、監督や脚本家など制作に携わった方々が映画について話すイベントを「ティーチイン」と呼ぶのだと知った。元々は「teach-in」で学内討論集会という意味らしい。

今回のティーチインに登壇したのは、吉田大八監督、脚本の楠野一郎さん、スペシャルゲストでキャストの塚本晋也さん、プロデューサーの新垣弘隆さん。楠野さんのTwitterでティーチイン上映があることを知った。直前まで行くか迷ったけれど、行ってよかった。

『騙し絵の牙』は塩田武士さんの小説が原作で、大泉洋さんの当て書きだったというのでも話題だった。以下、塩田さんのコメントを映画の公式HPから抜粋。

大泉洋という比類なき俳優を「小説であて書きする」という今回の企画は、映画化を持って完結する。ここまで来るのに7年の歳月を要した。決して平坦な道のりではなかったが、吉田大八監督がメガホンを取ってくださると聞いたとき、全て報われた気がした。(中略)小説では、荒れる出版業界の海を痛いほどのリアリティで迫ったつもりだ。私が理想とする大人の男が、いかにしてその荒波に立ち向かうのか。今からスクリーンに映る速水編集長が楽しみでならない。

大泉洋さん当て書きは知っていたけれど、端っから出版社の企画だったのか。塩田さんが個人的に大泉さんのことが好きで書いたかと勝手に思っていた(んなわけないか)。ということは、小説→映画は初めから決まっていたのだね。『騙し絵の牙』の世界のように新しい試みをしたということだ。

ティーチインの中で、お客さんから質問を受け付ける時間があった。大泉さんがメディアで「自分の当て書きのはずなのに、演技をダメ出しをされた」と冗談交じりで愚痴を言っていたのに対して「どのような演出をされたのですか?」という内容の質問だった。

確かに自分をモデルに書かれた作品のはずなのに、自分らしく自分の思うように演じたらダメなの?と思うのは分からなくもない(これはネタで、大泉さんは本当はそう思ってないと思うけど)。

監督は「何を言ったか覚えてない(笑)」と言っていたけど、返答(というか主張)の中ですごく頷いたのは

「当て書き」だからって本人のまんま演じていいって意味じゃない

っていうこと。確かに大泉さんをモデルに書かれてはいるけれど、作品に登場するのは「出版社に勤める編集者の速水」であって大泉さんではない。だから、監督が思い描く速水になる必要がある。

わたしも脚本・演出をするときにその人のイメージで当て書きをすることがあるけれど、本人役でない限りは演出をつけるし、その役である〇〇さんを演じてもらうようにお願いする。その人の個性を生かしつつ、自分が考える役になってもらいたいと思うから、とても納得した。

作品についてはほとんど予備知識なしで行ったので、最初からめっちゃ探りながら見ていた。

開始早々、出版社である薫風社の伊庭社長が亡くなる。これは実は殺人事件で犯人捜しのサスペンスが始まるのか?と考えていたら、それは違った。同じ塩田さん原作の映画『罪の声』はサスペンスだったので偏見があったようだ。始まってからなかなか大泉洋さんが出てこなかったので「まだ?」とも思った。大泉洋さん演じる速水が何者なのかすらめっちゃ探っていたら、シンプルに薫風社の編集者だった。

登場人物の相関図が見えてきたら、一気に入り込んだ。出版社の現状、利権争い、新旧の戦い、頭脳戦、裏切り、、、タイトル通り”騙し”合いが始まる。それぞれの正義を、信念を、大切なものを守るために、それぞれがそれぞれの方法で戦を仕掛ける。途中までは「誰が悪なのか」という視点で見ていたけれど、ある時からそういう次元の話じゃないと気付く。

あー。あんまり書くとネタバレになるのでこの辺で。

どうしても原作が気になったので、KADOKAWAのサイトで試し読みをした。すると、本当にもうビックリしたのだけど、入りから原作とかなり違う。監督と楠野さんが「上映日が延びたので本を一から考え直した」と話していたけれど、それもあるのだろうか。元から作った流れから大幅に違うのだろうか。小説を全部読んでいないから分からないけれど、俄然読んでみたくなった。『罪の声』は小説に比較的忠実だったように思ったので、その違いも面白い。

そして、家に帰って思ったのは

誰かを当て書きしたいなぁ。

ってことだった。

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