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明け方の若者たち/カツセマサヒコ著

「人生楽しいのは大学生まで」と、どうしてか思い込んでいる僕。

新しい出会いや環境に飛び込むたび、新たな発見や興奮が得られるということは知っているはずなのに。


この映画の大部分の物語を、おそらく僕ら若者の大半は体験します。
映画そのもの自体がまるで「これがこれからの君に課せられた運命だよ」と囁いているかのような。



目の前で展開される誰かの日常。切れば血の出るような誰かの現実。
血気に逸ってしまった恋と、綺麗事を抜きにした恋の本質。
月並みだが切に感じた、儚く残酷だからこその恋愛の逸楽や美しさ。

「私と飲んだ方が楽しいかもよ笑?」

これだけのメッセージから始まった沼のような日々。
初めてのキスで歯が当たって笑い合うふたり。
KIRINJIのエイリアンズで目覚める夜明け描写のあの質感。
全てが永遠のようで一瞬。

各所に見られた冗長さやヒロインの大人び過ぎている空気も、その間によってしか伝えられない空気や明確な理由は、確かに存在していた。


こうしてこの映画を、この映画の出す味を、十二分に根こそぎ理解しようとするならば、『ある夜、彼女は明け方を想う』というスピンオフの立ち位置で描かれた物語は、スピンオフではなく本編の続きであると認識しておくべきであるし、理解しようとする価値のある作品であった。

数日たった今では、鑑賞直後に、面白いけれど何もない作品だなあ。いわゆるエモいだけなのかも。などと感じた自分の浅墓さを恥じている。

自分の日常を彩ってくれる、誰かの日常の中の非日常。歩まなければならない現実を前に、今この時を楽しみたいという気持ちで、オール明けに3人で街を走り出す。お金と時間は一緒には手に入らないはずだが、それがいっぺんに手に入ってしまう若者のマジックアワー。

大学生から若かりしときを思い出したい大人の方々まで、小説でも映画でも、是非鑑賞してみていただければな、と。


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