＜陸自幹部の新隊員教育区隊長勤務記録@武山＞（その２）上級部隊からの馬鹿げた指示への“葛藤”から学んだこと

こんにちは。

元・国防男子／陸上自衛隊応援団／初級・中級幹部サポーターのMr.Kです。
幹部自衛官として13年間勤務し、主な経歴は🪂最精鋭部隊第１空挺団、🇺🇸米国陸軍留学、✏️陸自最高学府の指揮幕僚課程、🇺🇸在日米陸軍司令部、🇺🇳国連南スーダンミッション軍事司令部等で勤務して参りました。
現在は、民間企業の危機管理部門で海外セキュリティ担当として危険国の情勢分析、セキュリティ対策の立案など、陸自時代よりもよりリスクの高い仕事をしています。

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僕（K３尉）が、神奈川県横須賀市の武山駐屯地で新隊員前期教育の区隊長として臨時勤務している時、朝霞駐屯地にある上級部隊からありえない指示が出されました。

その上級部隊からの指示事項について、僕にはどうしても納得できなかったので、当時、初級幹部でイケイケどんどんだった僕は『抗命』して自分の『信念』を貫きました。

今回の記事では、

僕が、新隊員前期教育の区隊長として勤務した際の『葛藤』から学んだことについての記事を書きたいと思います。

この記事は、

✅　初級・中級幹部
✅　特に、新隊員教育等の区隊長として勤務する初級幹部及び中級幹部
✅　新隊員教育等の助教として勤務する若年・中堅陸曹

に、是非とも読んでいただきたい記事です。

⏩　新隊員の区隊長・助教は、おもしろい！

教育隊の教官等の職務は大変ですが、非常にやり甲斐のある仕事です。

僕は、初級幹部（３等陸尉）の頃『一般陸曹候補生』の前期教育の区隊長という臨時の役職を拝命しました。

新隊員の殆どが、高校や大学を卒業してすぐに入隊する隊員たちです。

なかには、２回目の入隊という珍しい隊員もいましたが、基本的に陸上自衛隊のことを全く知らない隊員ばかりです。

新隊員にとっては、陸上自衛隊人生の第一歩となる教育であり、その教育で陸上自衛隊のイメージの大部分が形成されます。

ですから、教育を担当する区隊長や助教の責任はとても大きいのです。

でも、新隊員たちが心身ともに成長を遂げていく姿を見るのは、教育する側にとっては最高の喜びです❗️

もし、初級幹部自衛官や初級・中級陸曹で、新隊員教育の区隊長や助教の臨時勤務の話があれば、是非、経験して欲しい勤務の一つです。

⏩　新隊員は、区隊長や助教を絶対に忘れない

新隊員前期教育の区隊長や助教は、新隊員達が自衛隊に入隊後、一番関わりのある自衛官となります。同じ隊舎の中で寝食も共にしますし、３ヶ月の教育期間中は、付きっきりで教育します。

ですから、

🔴　教育期間中の区隊長や助教の姿勢や信念などは、新隊員達の陸上自衛隊人生にとても大きな影響を与えます。

殆どの新隊員は、『自分達がお世話になった助教のような陸曹になりたい』と言って卒業していきます。

初めての入隊者にとっては、陸上自衛隊での初めての教育を担当した区隊長、助教はいつまで経っても区隊長であり、助教であり、憧れの尊敬する存在となります。

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僕の場合は幹部自衛官ですが、同様です。
３等陸佐まで陸上自衛官として勤務をしてきましたが、幹部候補生学校の、区隊長、付教官、助教はいつまで経っても、僕にとっては区隊長、付教官、助教のままです。

陸上自衛隊では、これまで様々な教育を受けてきましたが、入隊後一番初めに受けた教育（幹部候補生学校）がどの教育よりも一番印象に残っている教育ですし、当時の教官達の言葉や指導が自分の理想とする自衛官像の基礎となっていることは間違いありません。

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ですから、

区隊長や助教達はそのことを自覚して教育に臨み、陸上自衛官のお手本となるように振る舞わなくてはなりません。

⏩　上級部隊からの馬鹿げたお達し

🔴　教育期間中の区隊長や助教の姿勢や信念などは、新隊員達の陸上自衛隊人生にとても大きな影響を与える。

重要な教育だということを理解していましたので、区隊長という役職を拝命した僕は、並々ならぬ責任感を感じ、新隊員達の親御さんが「陸上自衛隊に入隊させて良かった！」と思うような、大きな成長を遂げれるように全力を尽くして教育するという信念を持って教育に臨みました。

具体的には、次のような心意気を持っていました。

🔴　この３ヶ月間は泣くほどきつくても、卒業時には笑顔で卒業させる。
🔴　数年後、あの時きついことをやっておいて良かったと思わせるような教育にする。
🔴　そのために、全力を尽くす！

しかし、そのような心意気を打ち砕くような、上級部隊からあるお達しがありました。

📙　ゆとり教育世代の新隊員に厳しい訓練をさせるとすぐに辞めてしまうから、厳しい訓練をさせるな！
📙　とにかく、新隊員の前期教育は楽しんでもらえ！
📙　教育中のハイポート（後述）や泥水の中を通過するような戦闘訓練は禁止！

当時の新隊員前期教育に参加している隊員達が、『ゆとり教育』を受けてきたゆとり世代で、厳しい教育をするとすぐに辞めてしまう可能性があるから、厳しい訓練をするなということでした。

開いた口が塞がりませんでした。

そして、上級部隊からの指示には、どうしても納得ができませんでした。

🟢　陸上自衛隊の教育でもゆとり教育ですか？？
🟢　国を守る隊員を育成する入り口の教育ですよ！
🟢　中学校や高校の教育ではないんですよ！
🟢　国民の税金から給料を頂いているんですよ！
🟢　こんなやり方が新隊員のためになるのか？

上級部隊からの指示に失望してしまいました。

めくじらを立てることなく、指示通りやり過ごすこともできましたが、
新隊員達の将来の事を考えると「ゆとり教育を受けてきた世代だから教育の厳しさを下げる」という事が、どうも無責任に感じられて我慢できませんでした。

⏩　教育大隊長ブチ切れ事案

当時、３等陸尉で若かった僕は、その上級部隊の指示をあまりにも馬鹿げていると思い、上級部隊からの指示を半ば無視をして教育をしました。

🌈　訓練なんだから、きつくて当たり前❗️
🌈　きつくない訓練は、訓練ではない❗️

自衛官であれば、当たり前の考えです。

ですから、隊舎から離れた訓練場では、禁止されている『ハイポート*』をやらせていました。

*:『ハイポート』とは、皆で隊列を組んで銃を捧げ、大声で歩調を取りながら駆け足をする訓練です。新隊員教育等の基本教育ではどこでも行われている訓練です。レンジャー訓練でも当然の如く取り入れられています。
下の写真をご覧ください。

「１、１、１、２」「ソーレ！」

「１、１、１、２」「ソーレ！」

「１、１、１、２」「ソーレ！」

ーーある日

小銃を使用する訓練が終わった後に、訓練場から隊舎に帰るときに『ハイポート』をやっていた時のことです。

隊舎の方に向かっている時、前方から見たことのあるシルエットの人が歩いてきました。

なんか嫌な予感・・・うわっ、教育大隊長？？

だよな・・

嫌な予感的中！！絶対絶命❗️

やるなと言われているハイポートをやらせている時、タイミング悪く、前方から教育大隊長が歩いて来ました。

途中でハイポートを止めるわけにもいかず、そのまま続行。

区隊長として、部隊を代表して教育大隊長に敬礼をする必要がありますので、大声で、

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K３尉：（気合を入れて）教育中、異常なぁし！

教育大隊長：コラー！区隊長！何やってんだ！！ハイポートはやるなって言われているだろう！貴様、何でやってるんだー！

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（やっぱりそうなるよね・・・）

別に、新隊員の前で指導しなくても・・・

新隊員たちの前でこっぴどく怒られて、その場は終わりました。

⏩　ある戦闘訓練課目の当日

後日、またもや上級部隊の指示事項に反せざるを得ないことになりました。

その日は、午前中いっぱい『戦闘訓練』課目が入っている日でした。

戦闘訓練は、小銃を持って、敵からの攻撃を躱（かわ）しながら陣地に突撃をする訓練です。

前日に大雨が降ったため、戦闘訓練場は水たまりばかり・・・

上級部隊から指示されたように泥水の中での戦闘訓練を禁止したら、雨の次の日は訓練なんかできないじゃないか・・・

仕方ない・・・

教育の始めの訓練展示の時、僕（区隊長）は、自らが泥水の中で訓練展示をしました。

基本的には、訓練展示は助教にやらせて区隊長は、その説明をするのですが、上級部隊からやるなと言われている訓練をやらせる以上は自ら率先して行う必要がありました。

僕は、偉そうで傲慢な上司にだけはなりたくないと思っていたので、まず、新隊員達に事情を説明しました。

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実は、泥水の中の訓練は禁止されているんだけど、今日の訓練は予定通り実施する。

陸上自衛隊の訓練に泥水なんか関係ない。

あらゆる地形・気象を克服していくんだ。

この前、晴れの日に戦闘訓練をやったけど、今回の水溜りの地形の状況と前回の乾いている時の地形の状況と比べて、戦闘行動にどのような差が出るのか感じながら訓練してくれ。

でも、区隊長がまずやるからな。

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本当は、僕だけが泥水の中に入ろうと思っていましたが、ありがたいことに助教達も続いてくれました。

それを見ていた新隊員は、

「えっ？まじ！？ここで本当にやるの？？」

という顔をして僕が泥水の中で、訓練展示を見ていましたが、区隊長や助教が泥水に入ってやっているのに、自分たちがやらない訳にはいきません。

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新隊員：うおー、冷めてぇ〜

K３尉：うるせーぞ、お前ら。我慢しろ！

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意外にも泥水なんか諸共せずに、楽しそうに訓練をしてくれました。

⏩　これぞ、陸上自衛隊の訓練！

迷彩服はドロドロ、戦闘靴の中にも泥水が入り、みんなド汚い格好でした。

戦闘訓練で突撃訓練等をやったのと、泥水の中で訓練したこともあり、僕も含めみんな気持ちが昂っていました。

新隊員達も訓練をやり切った感があって、顔は晴れ晴れしていました。

この状態で、普通に行進して隊舎まで帰る？？

いや、やっぱり最後は『ハイポート』で締めでしょ❗️😊

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K３尉：よしっ！隊舎までハイポートで帰るぞ！！４列に並べ！

新隊員：おいー！！！

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そして訓練終了後、大声で隊舎まで区隊全員で揃ってのハイポート❗️

「１、１、１、２」「ソーレ！」、

「１、１、１、２」「ソーレ！」、

「１、１、１、２」「ソーレ！」・・・

隊舎に戻った後、
他の区隊の教官や新隊員達は、区隊長以下、全員があまりにも泥だらけの酷い格好だったのでびっくりしていました。

教育中隊長（僕の直接の上司）も苦笑いをしていましたが、特にお咎めはありませんでした。新隊員だけでなく、僕も助教達も泥だらけになっていたからでしょう。

訓練後の小銃や装具の手入れは泥だらけで大変でした・・・

でも、これでこそ陸上自衛隊の訓練でしょ！

新隊員達が意外と楽しそうに泥水に入って訓練している姿をみて、やってよかったと思いました😊

 ⏩　妥協を許さなかった修了試験

🔴 この３ヶ月間は泣くほどきつくても、卒業時には笑顔で卒業させる
🔴 数年後、あの時きついことをやっておいて良かったと思わせるような教育にする。
🔴 そのために、全力を尽くす！

僕にはこの信念がありましたので、新隊員には訓練も体力錬成も勉強も徹底的に全力でやらせました。

新隊員教育最後の筆記の修了試験では、自ら模擬問題を作成して、課業後にやらせました。その模擬試験で100点満点を取得できなければ、完璧にできるまで深夜０時まで消灯延期をさせて何度も同じ問題をやらせました。

勉強が苦手な隊員もいましたが、陸上自衛隊のすべての筆記試験は暗記をすればいいだけの単純なものです。少しの期間、努力さえすれば、高得点を狙えるのです。

教育機関での成績は、これから新隊員の赴任地や職種選択にも影響してきます。

🟠　妥協をせずにやらせるか、妥協して易きに流れるか

たったこれだけのことで、将来が決まってしまうんです。

隊員の職種や任地を選択する際には、成績が良くなければ、希望職種や任地等が他の区隊の隊員と競合した場合に負けてしまい、希望が通らなくなる可能性が高くなります。

ですから、最後の修了試験を含めた教育成績は、悪いより良いほうが絶対的に良いのです。

区隊長として、この３ヶ月という短い教育で、ちょっと努力させるだけで、新隊員達にとって良い将来に導いてあげる事ができるのです。

僕には、新隊員教育を担当させてもらい、30名の新隊員の育成責任とその親御さんへの責任があります。

自分の指導が甘かったせいで、自分が妥協をしてしまったせいで、新隊員たちのこれからの陸上自衛隊人生に負の影響を及ぼしてしまうことが許せなかったので、僕自身も徹底的に、納得するまでやらせましたし、新隊員にも全力でやらせました。

結果、修了試験の区隊平均点は２位の区隊に10点以上の差を付けて、圧倒的１位の成績でした！

⏩　情けは隊員のためにならず

今までも、上級部隊の指示に反して、自分の信念を貫いた教育をしたことは正しかったと思っています。

何事も初めが肝心です。

新隊員教育で『陸上自衛隊は楽勝』というイメージを持ったら、部隊に配属された後の厳しい訓練について行けなくなります。

部隊と新隊員教育との大きなギャップを感じて、結局は退職してしまう事になるかもしれません。

そうすれば、部隊に迷惑がかかってしまうんです。

当時の上級部隊が判断した、
『新隊員を辞めさせないために、訓練の厳しさを緩めてしまうこと。』

新隊員に教育中に辞められてしまうと自分たちの立場、評価が・・・・というのが本音のところだったと思います。

ですから、せめて自分たちが責任を負っている教育中では退職者を出さず、部隊に送り出して・・・・

という考えが働いたのでしょう。

結局、変な甘やかしは、隊員のためになりません！

国家や国民を守るということは、大変な仕事なのです。

⏩　最後に

若気の至り？で上級部隊や上司からやるなと言われたことも、自分の信念に反していたので納得がいかず、怒られても自分の信念に従ってやり通しました！

僕が区隊長として判断基準にしたのは、

🔴　新隊員達のこれからの将来を考えて何がベストか

ということです。

やはり、区隊長や助教として、教育に責任を負う人はそこを第一に考えるべきだと思います。

そして、彼らは今後、国防という任務を遂行していくわけですから、その任務を達成できるような人財に育成するという目的も忘れてはいけないでしょう。

僕は、一般陸曹候補生の教育で、

🌈　自分のやりたいことを主体的に行い、教育に全力を尽くしました❗️
🌈　他の区隊長よりも知識も経験も年齢も少なかったですが、どの区隊長よりも愛情を持って新隊員に接した自信があります❗️
🌈　新隊員全員を十分成長させる事ができ、自信を持って部隊に送り出しました！

僕にとって、一生忘れることのない最高の３ヶ月間でした✨❗️

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最後まで読んでいただきありがとうございました。

今日も皆様にとって良い一日となりますように！

元・国防男子／陸上自衛隊応援団／初級・中級幹部サポーターのMr.K