<元陸自幹部・空挺隊員が考える> 第1空挺団 が『最精鋭部隊』と言われる理由とは?
こんにちは。
元・国防男子/陸上自衛隊応援団/初級・中級幹部サポーターのMr.Kです。
幹部自衛官として13年間勤務し、主な経歴は🪂最精鋭部隊第1空挺団、🇺🇸米国陸軍留学、✏️陸自最高学府の指揮幕僚課程、🇺🇸在日米陸軍司令部、🇺🇳国連南スーダンミッション軍事司令部等で勤務して参りました。
現在は、民間企業の危機管理部門で海外セキュリティ担当として危険国の情勢分析、セキュリティ対策の立案など、陸自時代よりもよりリスクの高い仕事をしています。
今回の記事では、「なぜ、陸上自衛隊第1空挺団は最強と言われているか?」についてお伝えしたいと思います。
第1空挺団について、よく巷では、昔ヤクザ狩りをしていたとか、ヤクザの事務所を襲撃したとかという噂があります。
僕も空挺団に所属していたときには、そういう話を聞いたことがあります。確かに血気盛んな隊員は多いですが、その真偽はわかりません。
でも、定年間近の上級曹長達は、確かに貫禄があります!
あっ、でも「第1空挺団」を文字って「第1狂ってる団」と言われているのは、当てはまっているかもしれません。
宴会のときに、宴会芸としてチューブに入ったわさびを一気飲みする隊員や、洗剤を飲む隊員も実際にいましたからね。
昔は、駐屯地の酒が飲める隊員クラブの前に小さな池があって、池の中でビール瓶を割ってその上を裸足で歩いて根性だめしをしていたという話も聞きました。だから今はその池は埋められてしまったとか・・・
そういう狂った隊員がいて何をされるかわからないから空挺団って恐ろしいんですよね。だから、『特殊な部隊』なんです。
どこの国の特殊部隊の隊員もそんなイカれた人はいます。
僕は、これまで米陸軍グリーンベレー、韓国軍のブラックベレー、インドネシアのコマンドゥーの隊員等と会って話したことがありますが、大体ぶっ飛んでますね。頭も体も・・・
狂ってなければ、命を懸けた特殊な任務は遂行できないんです。
空挺団にも狂っているように体力的、精神的に凄い隊員がいるのは確かです。
僕が空挺団で幹部自衛官として勤務をして、なぜ、空挺団が最強と言われているのかについて思ったことをお伝えしたいと思います。
⏩ 任務の特殊性
🌈 ちょっとしたミスが大惨事に繋がる危険な任務
陸上自衛隊第1空挺団は、ご存知の通り自衛隊で唯一のパラシュート部隊。
そのため、他部隊の任務と異なり、作戦には固定翼機及び回転翼機等の航空機を使用して降下したり、車両や補給品等の物料を梱包して投下する大掛かりなものになります。
だから、ちょっとのミスが航空機事故に繋がったり死に繋がってしまうんです。
これまで陸上自衛隊において空挺降下による航空機の墜落事故はありませんが、何名かの空挺隊員は空挺降下による不慮の事故で亡くなっています。
🌈 とてつもなく重い荷物を持ち、新幹線と同じくらいのスピードの航空機から降下
空挺作戦において空挺隊員は、当面の作戦に必要な装備品や補給品を携行するため、その荷物の重量は40kgを超えます。
それに加えて、落下傘の重量が約20kg、予備傘の重量が約8kg、小銃が3.5kgとしたら、降下の際には、自分の体重くらいかそれより少し軽いくらいの荷物を体に付けて降下しなければなりません。
そんな重い荷物を持って、新幹線くらいの速度が出ている航空機から1秒毎に連続降下します。
正気の沙汰ではないことをやっているのです。
降下前に恐怖心が湧いてきて、頭が真っ白になってしまうようではダメ。
恐怖心に打ち克ち、頭を冷静に保たなければ大惨事に繋がってしまいます。
🌈 腰が砕けそうなくらい重い荷物を持って山地を100km以上行軍
降下した後は、落下傘、予備傘、自分の荷物、装備品をすべて持って集結地に集結します。
>>夏場は地獄
特に、富士山の御殿場演習場で降下した場合は、集結地が上方にあるとそのとてつもなく重い荷物をすべて携行して、坂を駆け上がって集結地に集結しなければなりません。
パラシュートを途中で投げ捨てたくなるくらいきつい!です。
これだけでかなりの体力を消耗してバテてしまいます。
終結後には、パラシュートを除く重い荷物を持っての100km以上の行軍が始まります。
もちろん、歩くのは平地ではなくアップダウンの激しい、険しい山地です。
時には、富士山の青木ヶ原樹海の中を行軍することもあります。
でも、空挺隊員にとっては、重い荷物を持っての空挺降下や100kmを超える『隠密潜入』というのは、作戦の序の口にすぎません。
作戦地域への単なる『移動』です。
だから、空挺降下や100km超えの隠密潜入は肉体的にかなりきついのですが、空挺隊員にとっては、作戦前の準備運動レベル。
それができなければ、本当の作戦は始まりません!
本当に重要なのは、隠密潜入が終わってからの『戦闘行動』です。
だから、かなりの体力がなければ空挺隊員としての任務は遂行できません。
体力だけあってもダメで、作戦の目的を理解して、その作戦の中での自分の役割を見いだせる主体的な隊員でなければならないのです。
よって、単なる「筋肉バカ」や「体力バカ」では、空挺隊員は務まらないのです。
⏩ 脈々と受け継がれてきた空挺精神
習志野駐屯地のシンボルである80mの赤白の降下塔には、『精鋭無比』という標語が掲げられています。
空挺隊員は、この『精鋭無比』という文字を常に見ながら、精鋭無比を目指し日々努力をしているのです。
また、空挺隊員には、守るべき『空挺隊員の心得』というものがあり、基本降下課程、レンジャー課程等の課程教育では、朝礼の時に大声で唱和します。
このような隊員としての心得がしっかり陸上自衛隊の教範に記載されている部隊は、空挺団だけです。(各職種ごとの心得は教範にも記載されていますが)
ちなみに、「空挺隊員の心得」は以下の通りです。
🌈 空挺隊員の心構え
🔥 徹底的実行
🔥 有事即応
🔥 不撓不屈(ふとうふくつ)
🔥 自立と掌握下に入る着意
🔥 服装・態度
🔥 健康と体力の増進
🔥 生活の節度
🔥 敬礼の厳正
🔥 時間の厳守
🔥 創意工夫
🔥 行動の迅速
「空挺隊員の心構え」の箇所で、『常に世界列強の軍隊に比して、遜色のない精鋭無比な空挺部隊となることを目標』とあります。
空挺団は、世界列強の軍隊と比較しても「最強」であることを目標とした部隊です。陸上自衛隊の中では、ここまでのことを謳った目標を持っている部隊はありません。
「空挺隊員の心得」は、ごく当たり前の内容なのですが、当たり前のことを継続してやることがとても難しいのです。
空挺隊員は、日々これらのことを心に刻みながら、高い目標を持ちつつ、「精鋭」に近づくように絶え間ない努力をしているのです。
⏩ 他部隊よりも規律が厳正
🌈 部隊の規律でその部隊の強さがわかる
僕は、13年間の陸上自衛隊勤務で沢山の駐屯地を訪問したことがありますが、隊員の敬礼動作が徹底されているのは習志野駐屯地だけでした。
駐屯地の営門を入る時の警衛隊の機敏な動作や敬礼だけで、駐屯地に所在する部隊の強さがわかります。
下級者は上級者に敬意を表するために必ず敬礼をするし、上級者は下級者の敬礼に対して必ず答礼をする。
自衛官として「敬礼」はできてあたり前のことなのですが、駐屯地によって敬礼をするしないに大きな差があるのは確かです。
特に、大きな駐屯地になればなるほど、敬礼動作の隊員への徹底はできておらず、上級者とすれ違ってもヘラヘラ喋りながら通り過ぎる隊員も多いのが実情です。
だから、駐屯地の中には、『敬礼の確行』や『敬礼の励行』という看板が掲げられていたり、『敬礼週間』なるものが設けられている場合があります。
こんなことを一々指示しなければできないこと自体が、非常に恥ずかしいことなんですけどね。
社会人になっても挨拶すらできないのと同じことです。
🌈 習志野駐屯地で敬礼をしなかった場合
習志野駐屯地の場合、下級者が上級者に敬礼をしなかったら大変なことになってしまいます。
その上級者は敬礼をしなかった下級者の隊員をその場で指導されます(シメられます)笑。
「おい、お前!何で、今敬礼しなかったんだ?」
「お前、階級章を見てたか?なめてんのか?」
「しっかり階級を見て、敬礼しろ!」
ということが行われています。
自分の所属部隊の隊員でなくても、できていない隊員がいれば容赦無く指導します。
ここが、空挺団の凄いところです。
空挺隊員として、敬礼すらできていない隊員には『空挺精神』を注入する。精鋭無比の部下を育てたい、精鋭無比の部隊でありたいという愛情や熱い思いが込められているんですよね。
⏩ あらゆる場面を活用した訓練
自衛隊の駐屯地では、駐屯地への不審者の侵入を防止するため『夜間巡察』というものをしています。
当然、習志野駐屯地でも、毎日夜間巡察が行われています。
各部隊の当直幹部に就いた者は、1回の巡察につき駐屯地の外柵沿いや各施設の2時間の夜間巡察をしなければなりません。
この夜間巡察でも、空挺団はすごいんです!
当直幹部が時計回りに回ったら、警衛隊に就いている隊員達は半時計回りで同じく外柵の巡察をします。
つまり、駐屯地の外周の半分くらいのところで両者が落ち合うことになります。
そして、半時計回りで巡察している警衛隊の隊員達は、当直幹部を『不審者』と見立て、当直幹部に事前に見つからないように隠れて、ドスの効いた声で『誰何(すいか)』するんです。
>>>>>>>>>>>>>>
警衛隊の隊員:「誰か?」
K2尉 : ビクッ!!(えっ??何??)
「当直幹部、K2尉!」
警衛隊の隊員:「整列。(当直幹部に)敬礼!直れ!」
「巡察、異状なし!」(当直幹部へ報告)
>>>>>>>>>>>>>>
僕が初めて当直幹部で習志野駐屯地内を巡察をした際、夜間の真っ暗闇の中で不意に誰何をされて、本当にびっくりしてしまいました。以前に所属していた部隊ではこの様な経験をしたことがありませんでした。
当直幹部は、その隊員達の動作を見て良好な点や改善すべき点について指導をします。
その後、その隊員達はしっかりと整列をして当直幹部に敬礼して巡察を継続するのです。
当直幹部は、巡察結果を『巡察報告書』にその隊員の動作を含めて記載し、上級者の駐屯地当直幹部へ提出します。
これほどしっかりとした巡察をしている部隊は他にはないと思います。(もしかしたら、同じ様な巡察をやっている駐屯地は他にもあるかもしれませんが、少なくとも僕が所属した駐屯地ではありませんでした)
通常の計画された訓練時だけでなく、あらゆる機会を訓練の場と捉えて訓練をしているのです。
⏩ 主体的に動ける空挺隊員
空挺隊員は、1つのことを指示したら、12くらいやってしまいます。
たまに、度が過ぎて困ったこともあるのですが・・・
僕が空挺団に所属する前に所属していた部隊では、基本的に1つのことを指示したら1つのことはやるのですが、指示されたこと以外はやりません。
幹部の指示がなければ動かないし、動けなかったんです。
責任を取るのを嫌うからです。
だから、僕は空挺団に配属になって隊員の質の高さに本当に驚きました。
>>僕が空挺団に配属になったのは、8月1日付。
ちょうど、毎年恒例の習志野駐屯地夏祭りの準備をする時期でした。
転属してはじめての仕事は、習志野駐屯地夏祭りの準備。
隊員との信頼関係を築くためにも、まずは部隊で担当の屋台の準備等を協力して・・・
と思っていましたが、
「小隊長、手伝いは大丈夫ですから、そこの椅子にドカッと座っといてください!」
と言われても、そういうわけにもいかず多少は手伝いましたが、手際よく見事に準備を完成させました。(まあ毎年やっていることだし、できるか・・・)
その他、演習準備も、いちいち詳細な指示をしなくても勝手に準備ができるんです。幹部は、それをチェックするだけでいいのです。
(なんて優秀な隊員が揃っているんだろう。流石だ。)
これは、定年間近の上級陸曹や中堅陸曹の能力が非常に高く、強力なリーダーシップがとれるためです。
隊員の中には、空挺教育隊で基本降下、レンジャー、降下長、自由降下課程のそれぞれの厳しい課程で助教を経験しているので、しっかりと部下に指示ができるのです。
空挺教育隊に所属する陸曹の助教は、責任感、指導力が半端ないことを覚えています。
最も頼りになり、最も信頼できる、そして尊敬できる隊員達でした。
空挺団は超多忙な部隊でしたが、そういう自主的に動ける隊員が多かったために何とかやっていけました。
当時の隊員たちには本当に感謝しています。
⏩ 厳しい訓練を耐え抜き、確かな技能を身に付けたという自信
空挺団に所属すれば、いずれ『空挺レンジャー課程』を修了しなければなりません。
空挺団の任務からしても、ヘリからのリペリングやファーストロープ、襲撃等の技術は必要なので、そういう技能を身につけるためにも約2ヶ月間の空挺レンジャー課程に全員が入校する必要があるのです。
実は空挺レンジャー課程の場合、空挺団ではない部隊のレンジャー課程よりも1ヶ月短いのです。
この理由は、日頃の厳しい訓練をこなしていたり、空挺団の特性上、レンジャー課程を修了していなくても、レンジャー課程でやることと同じようなことを通常の部隊訓練でも経験しているため、ある程度の素養があると認められているためです。
そして、『空挺レンジャー』の特性として、他の普通科連隊で行われている様な『部隊レンジャー』とは違って、参加者を脱落させるための訓練ではありません。
部隊レンジャーの場合、30名参加して残ったのは7,8名というのも珍しくありませんが、空挺レンジャーの場合は、基本的にはレンジャー徽章を取らせるための教育です。
空挺教育隊の教官や助教としても、空挺レンジャー課程を卒業すれば再び同じ空挺隊員として協力しあって勤務していくことになるため、無駄なイジメ的なことは基本的にやらないことになっています。
無駄なことを排して、本当に必要な技能を身につけるための質の高いレンジャー教育です。
もちろん、レンジャー課程なので空挺レンジャーでもかなり厳しい訓練はやりますが。
『部隊レンジャー徽章』と『幹部レンジャー徽章』の画像は以下のとおりです。
↓ 部隊レンジャー徽章
↓ 幹部レンジャー徽章
ちなみに空挺団では『幹部レンジャー課程』も行われており、空挺レンジャー課程を修了した後、更に2週間程度の教育があります。
空挺隊員は、
こういう他部隊以上に厳しい訓練をやり遂げているという自信や確かな技能の積み重ねが、『俺たちは最強』という確信に変わっていくことを学びました。
⏩ 全国の駐屯地の空挺予備員との「傘の絆」
空挺隊員の間には、『傘の絆』があります。
基本降下課程を修了して、空挺隊員となった者は『空挺徽章』を胸に付けることができます。この『空挺徽章』を持っている隊員は、「傘の絆」で結ばれているのです。
空挺団に所属している隊員はもちろん、基本降下課程を修了したが空挺団勤務が無い隊員、空挺団に所属していたが他部隊に異動してしまった隊員も「傘の絆」で結ばれています。
空挺隊員は、毎年『予備員降下』というものを行っています。
空挺団の各部隊が主体となって、空挺団勤務でない隊員の空挺降下練度を維持するために、1年に1度、全国の予備員たちに降下訓練の機会を作っています。
降下に関する基本動作を忘れてしまっている隊員も多いため、実際の降下前には基本降下課程でやるような基本的なことから錬成します。
そして、降下が終了した日の夜には必ず宴会の場が設けられます!
その宴会の締めには、参加者全員が肩を組んで『空の神兵』を上半身裸で合唱するのです。
1年に1度の『空挺隊員としての誇り』を再認識してもらう時間です。
現空挺団所属の隊員だけでなく、陸上自衛隊の全国の駐屯地にはベテランの空挺予備員も多数いることも空挺団の強みです。
⏩ 最後に
陸上自衛隊には、第1空挺団の他、特殊作戦群や水陸機動団といった特殊な任務を遂行する部隊があります。
そのような特殊な部隊に所属している隊員の多くは、転属時には特殊な部隊に転属します。
例えば、習志野駐屯地には、特殊作戦群と第1空挺団が所在していますが、優秀な陸曹隊員は異動時にはその2つの部隊を行ったり来たりするのです。
よって、「陸上自衛隊でのどの部隊が最強か」という質問は、それぞれ任務も部隊の規模も異なるためナンセンスな質問ですが、僕がこれまでの様々な部隊の訓練を見てきた限り、特殊作戦群はより実戦を想定したガチな訓練をしているのは確かです。そして、個々人の戦闘能力も非常に高い隊員が集まっています。
百聞は一見に如かずです。
もし、あなたが空挺団や特殊作戦群に興味があるのであれば、是非希望してみてください。
きっと、自分を大きく成長させることができる部隊であることは間違いありません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今日も皆様にとって良い一日となりますように!
元国防男子 Mr.K
↓ プロフィールはこちらから
貴重な時間を割いて私の記事をお読みいただき、心から感謝しております。 私の記事が少しでも皆様のお役に立てたら嬉しく思います。 もし、今後の創作活動をサポートしていただけると、さらに質の高いコンテンツを提供する糧となります。皆様のご支援が、私の次の一歩となります。