『エピソードアイギス』と元型「英雄の旅」について
どうも! 相変わらず10分とまっすぐ座っていられずゲームも原稿も満足にできない、照二朗です。本ブログの「ぺるたろ」の「戦車」記事でも書きましたが表面的フィジカル挫折によって人生見直しまくり。そういう解釈にしておこう。
痛い痛いと泣いているあいだにエピソードアイギス配信まで1ヶ月をきってしまった。本当はそこまでに書いておきたい記事とかなんかいろいろがたくさんあったのに……。今回はせめてその一片をnoteにメモり供養するね。あとで整えて本ブログにものせるかも。
もちろん仰向けで寝込みながらスマホでポチポチ
『エピソードアイギス』は「英雄の旅」という神話元型に沿って進む物語だ。
「戦車」の元型、「英雄の旅」
「ぺるたろ」の記事でも述べているが、「女帝」アルカナがグレートマザーという元型をあらわし「法王」アルカナが老賢者という元型をあらわしているように、アイギスのもつ「戦車」のアルカナは「英雄の旅」という元型を大アルカナの中でも特につよくあらわしている。これはアトラスの新作『メタファー:リファンタジオ』での「アーキタイプ」の取り扱いの元になっているとみられるものでもある。
ぺるたろの記事ではこれはヘラクレスやペルセウスのような英雄の冒険と勝利の物語をあらわすもの〜くらいにしか語らなかった。なぜなら通常のペルソナのストーリーでは「戦車」のキャラクターは主人公ではない外部の人物であり、「なんか英雄的な性格のヤツ」という理解がふさわしいからだ。しかし、「戦車」のキャラクターが主人公、視点人物であるなら話は違ってくる。「英雄の旅」は英雄を主人公とする物語のカタチ、流れについての元型だ。だから英雄の旅をあらわす「戦車」であるアイギスがアナザーストーリーの主人公になるのは適任といえる。
ペルソナ3本編が「愚者の旅(ナンバーレスの愚者のカードが1〜22番のアルカナの段階を順に旅する一連の流れ)」であるように、エピソードアイギスは「英雄の旅」なのだ。これらは似てるんだけど、どっぷり詳細モードの「愚者の旅」に比べて「英雄の旅」はより万人に馴染み深い神話のエッセンスをダイジェスト搭載している基本セットみたいな感じ。これも、時間的には短いことになる『エピソードアイギス』によく合っている。
ペルソナシリーズで常に意識的に踏まえられている、「英雄物語」「神話」の高濃度のエッセンスが『エピソードアイギス』にはあらわれている。たとえば以下の二つのキーワードだ。
行きて帰りし物語
有名な話だけど、神話的物語の多くには「行きて帰りし物語」という類型がみられる。
主人公はなんらかの事情や使命によって異境へ旅立ち、試練を経て何かを達成し、獲得し、異境からもとの世界へと帰ってくる。これが「行きて帰りし物語」だ。まさに「戦車」のカードそのものであり、これにあたる戦車的英雄の物語はすぐにいくつも思いつくだろう。桃太郎、一寸法師、ギルガメッシュ、フィン・マックール、テセウス、ピノキオ、ルーク・スカイウォーカー……。『スターウォーズ』の神話的脚本は「英雄の旅」を分析したジョーゼフ・キャンベルの名著『千の顔をもつ英雄』に影響を受けて完成したものだとルーカスは語っている。
主人公は行って帰って、ぐるっと円環を描いてもとの場所に戻ったように見えるが、旅立つ前と全く同じ状態に戻ったのではない。何らかの内的な成長を遂げ、螺旋階段をのぼったようになっているであろうと思われる。(これもタロット大アルカナ22枚の「愚者の旅」と同じ構造のエクスプレス版だ)
『エピソードアイギス』は「一日が繰り返される寮」「時の狭間」という異境を旅し、最終的には単なる「現実世界の、次の日」に戻ってくるという筋書きである。しかしアイギスは旅の前とは違う選択をし、それは彼女の内面が明らかに成長したことを示している。
冥府下り
英雄の「行きて帰りし物語」の中でも最大の神話元型が、「冥府下り」であるといえるだろう。
これはもちろん、オルフェウスやイザナギが行ったものであり、『ペルソナ3』のダンジョンが「タルタロス(冥府)」という名なのも本編全体が死について思いを深めていく旅路であることをあらわしている。それよりさらに「冥府下り」物語の特徴がはっきりとわかりやすくドラマティックに描かれているのが『エピソードアイギス』だ。なにしろアイギスはおれよりずっと英雄的なので。
冥府は生者にとって最も高名で普遍的で最大の異境であり、常識は通じず、尋常の成長や前進はなく、怪物や神々が闊歩するきわめて危険な領域である。もっと重要なのは冥府が「普段見えていない闇の部分」つまりシャドウの世界であることと、冥府から帰ることが「生まれ変わり(死と再生)」を意味するってことだ。
もちろん普通はそんなところ怖いし痛そうで行きたくないわけだが、英雄はそこに行かざるを得ない使命を持ってしまう。オルフェウスは死せる妻エウリディケを求めて冥界に下った。皮肉にも、アイギスはおれ本人よりもオルフェウスの神話をなぞることになったわけだ。つまり、「時の狭間」は冥府だ(実際「タルタロスという巨塔ができた反作用で生まれた巨大な空洞」とタルタロスと双子の空間であることが明言されている)。
そしてオルフェウスの神話と同じように、愛するものが現実にもとどおり戻ることはない。他に有名なギルガメッシュの冥府下りも、不老不死の霊薬を求めたけど果たせなかったっぽい。しかしギルガメッシュはその先に「安らぎを得た」と書かれている。
物理的には何も変わっていない明日が来ても、「冥府」つまり自分たちの影と向き合う試練から戻ったアイギスや特別課外活動部のみんなの内面は生まれ変わった。「冥府下り」は派手だが、こうした英雄の旅は誰の生活の中でも起こりうる内的成長の道筋のメタファー、寓意である。
「英雄の旅」の各要素とエピソードアイギス
ここまでは「行きて帰りし物語」「冥府下り」という有名でイメージしやすい全体パッケージの話をしてきた。では次に、そういった「英雄の旅」の物語類型の小要素や、展開について見てみよう。
さっきスターウォーズのお手本にもなっているよと挙げた英雄神話類型の分析書『千の顔をもつ英雄』のジョーゼフ・キャンベルは、ペルソナシリーズのベースであるカール・グスタフ・ユングに強く影響され、「集合的無意識」「元型」の流れをくむ研究者である。キャンベルは英雄神話の展開類型を次のように整理している。
以上は神話の元型を段階を追って箇条書きにしてある目次に、便宜上番号を振って、エピソードアイギスで実際にたどったポイントを太字にしたものだ。辿っていないポイントもあるが、「英雄の旅」にあたる物語がすべてのポイントを満たしがちという意味ではなくよくある展開をまとめたものだからそういう感じでOK。特に⑦〜⑩は⑥の試練を越えたあと⑪の究極の恵みに至る前にありがちなオプション展開という感じだから、エピソードアイギスは英雄神話の背骨の部分はすべてふまえている。
さて、それぞれの段階にあたる具体的な展開については、さすがに序盤のネタバレがある(核心部のネタバレはない)ので、この先は未プレイでネタバレを気にする人は読まないで、実際にプレイしながら上記の「英雄の旅」の要素がゲーム中にあらわれるのをよく観察してみてほしい。
「英雄の旅」はあなたの人生の中にも何度もあらわれるだろう。物語の中のアイギスは、そして人生の中のあなたは、今旅路のどこにいるのか……
①「冒険への召命」(英雄に下される合図)
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