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しゅわりと刺す

 コーラを好きになったのは最近のことだ。
 コーラのいかにも体に悪そうな甘さを知らなかったかつての私には、得難い男友達がいた。彼はとても賢くユーモアのある人だったが、垣間見えると少し後ずさりしてしまうような、しゅわりと刺す毒を持っている人だった。私はそれがある種の苦しみからくるものだと知っていたけれど、彼の辛い背景を知っている人は私以外にいなかったように思う。

 そんな彼が私をおもしろいと言って楽しく付き合えていたのは、私も昔、意地が悪かったからだと思う。私たちはお互いに信頼し合っていて、くだらない笑い話も真剣な話もし、時折静かな喧嘩もした。どんなときも彼が本心を口にすることは少なかったが、私には彼の考えていることがなんとなく分かっていた。私たちはとても合っていて、十代で持つべき友人同士だったと思う。

 コーラを目にするたび、 必ず彼を思い出す。 コーラを飲まなかった時期も、好きになった今では特に。彼は「コーラの原価は10円だから買うのはバカバカしい」 と言いながら、いつも買って飲んでいた。私は当時、ではなぜ買うのだろう、と可笑しく思っていたが、 特に理由を尋ねることはなかった。 理解する必要のないことだと思っていたのだ。 それはたかが飲み物の話で、その飲み物に私は興味がなかったから。

 でも思い返したとき、このエピソードに彼のしゅわりと刺す毒が滲んでいるように思えてならない。どんな事でも聞いておけばよかった。もっと彼を理解できたかもしれない。

 長い間会っていないが、もし彼に会えたらこの話をしようと思っている。 私たちの今の話と、昔話と、コーラの話。 彼はもうコーラを好きではないかもしれないけれど、もしそうでも、私も好きになったと伝えればきっと喜んでくれるだろうと、私にはわかる。

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